メイド、ブチギレる②
「……なッ!? それは些か無礼が過ぎますわよ? お父様には話を通してあるのかしら? 大体、貴方は侯爵家で爵位は私の方が上ですわよ? ソレを踏まえた上での発言かしら?」
お嬢様がキリカナンの傲慢な物言いに反論します。お嬢様の言う通り、キリカナンは侯爵家の身分であり、それも次男だ。お嬢様が譲渡的な態度で接していたために分かり辛かったでしょうが、本来侯爵家如きが、それも正式な跡継ぎで無い次男が公爵家長女であるお嬢様に対して無礼を働けるものでは無いのです。
自惚れではないですが、その専属メイドである私への手出しもあってはならない事だったのです。それをお嬢様が一度許容して見せた事で調子に乗ってしまったのでしょうか。
「ふん。そんなもの直に伝えれば良かろう。それに、忘れたのか? 貴様は王太子であるアルシェード様の婚約者であるという大層な身分であったにも関わらず、自らその座を降りたのだ。そんな貴様が世間ではなんと言われているか知らない筈はあるまい?」
お嬢様がアルシェードへ婚約破棄を告げたあの日。それは、定期的に開かれるダンスパーティでの最中の事であった。所謂社交場というやつである。他の家の子息令嬢が多数出席していた公共の場での事だったのだ。当然その婚約破棄の現場は多数の者の注目を浴びた。
そもそもとして、私はお嬢様が王太子に対して婚約破棄を言い渡すルートを知らないので、お嬢様の真意や、態々あの場で大々的に婚約破棄を宣言した理由が分からないのですが、
あの場に居た他の貴族達から見れば、お嬢様のあの婚約破棄は『未来の王妃』という至高のポジションを勝手な我が儘で降りた責任放棄行為と見なされていたのでしょう。何せ、婚約破棄の詳しい詳細や動機は明かされていない。お嬢様の事情を知らない傍から見れば、立場の重みから逃げたと捉えるしかなかった。
これは、私の耳にも届いていた噂である。
「教えて差し上げましょう。貴女は世間では、『未来の王の寵愛を無償で貰い、仇で返した謀反者』であると噂されているのですよ。仮に貴女が此度の私の無礼を訴えたとしましょう。しかし、私は冤罪だ。と無罪を訴えます。世間では謀反者とされている貴女と、現も未来の王の補佐役である私。どちらを信じるでしょうねえ?」
扇動する様に、キリカナンは言います。態々。貴様から貴女呼びに変える点がなんとも煽り性能高くて嫌らしいですね。
「……それは」
キリカナンの言葉に何も言い返せず、お嬢様は俯いてしまいました。
すると、キリカナンは起き上がり、俯いているお嬢様へ上半身を傾け、右手でクイッ、とお嬢様の顔を無理やり向上させ、視線を合わせました。初めて見ましたが生の顎クイってやつです。
そして、ニヤッとした憎たらしい笑みを浮かべたままその耳元で囁きます。
「ふっ。答えられませんよねぇ。それが回答なんですよ。哀れな公爵令嬢様」
「 ――ッッ!?」
お嬢様が一際大きな嫌悪を見せました。
その瞬間、私の中でナニかがぷつり、と途切れる感覚と共に、私は反射的に動き出したのです。
突然腕を掴まれ、驚愕するキリカナンへその言葉を告げます。
「おい、さっきから聞いてりゃ、くっちゃべっちゃ。うるせえですよ」
我ながら底冷えする様なドスの効いた声でした。
それを聞いたキリカナンとお嬢様は一瞬理解が及ばないといった表情で固まっており、数秒してその意味を正しく理解したキリカナンは怒りに満ちた表情を浮かべて言いました。
「なッ!? き、貴様! メイドの分際で何をっ! この俺が誰だか分かっているのかッ!」
「――ああ、知ってますよ。メガネを掛けて理知的に見せかけて、本当は下半身に猛獣を携えた節操無しヤリ〇ンの、王太子の威光を借りただけの役立たずの威張りマウント糞メガネさん。でしょ?」
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