メイド、ブチギレる①
「貴様。本当に何も知らないのだな?」
くどくも、キリカナンがお嬢様に聞き返す。アルシェードの所在についてです。
しかし、お嬢様はただ呆れる様に返しました。
「ええ。先からそう言っているでしょう」
「……アルシェード様を匿っていたりは?」
「それこそあり得ないでしょう? 私は婚約破棄されて……あ、違いました。今回は私がしたんでしたね」
キリカナンの怒涛の尋問を全て否定で躱すお嬢様。違和感のある言葉の間違いと、少し変な間がありましたが、私は気にしない事にしました。
お嬢様がアルシェードの行方等について知らないのは合ってるんでしょうけど、匿っていないというと嘘になるんですよね……
だって、当人のアルシェードはこうしてメイドをしている訳ですし。
本人として目の前で自分の話題がされている事に激しい羞恥と真実を言えない申し訳無さを感じます。
改めて思うと、お嬢様にまで正体を隠して、こうしてメイドになってまで接触しているのは何だか狡い気がします。お嬢様が私の正体を知れば大いに失望するのは目に見えてるのですが、だからこそ尚更。自分の正体を語るわけには行きません。完全に、嘘つきのクズの所業ですね。
途端に罪悪感が溢れ出ますが、こうでもしないと禁断症状がどうしようも無かったので致し方無しです。
これは人命救助の一環なのです! 私が死ねば即ちアルシェードの死なんですから。
なのでしゃーなしです! そう思わせてください。
先ほどのお嬢様の言葉に反応して、キリカナンが答えました。
「ふむ。それもそうだ。貴様の様な醜悪な女の所にアルシェード様が来るはずが無い」
——は? 今なんて言いました? この男。お嬢様が醜悪? ブス?
「…………」
しかし、罵言を言われたお嬢様は言い返す事なく俯くだけでした。
……な、なんでお嬢様は何も言い返さないのですか!?
……震えていらっしゃる? やはりキリカナンが怖いのですか? 本当にどうして?
ですが、大丈夫。屋敷の前の一悶着では、私がキリカナンに胸倉を掴まれる事になりましたが、あの時は反撃しなかっただけで、本来私が彼に手を出せば一捻りなんです。ここは私にお任せ下さい!
『彼女の無礼は私の失態です』
しかし、手を出そうとした私を止めたのはあの時私を助けに入ったお嬢様の言葉でした。
ハッ!? だ、ダメです! 抑えるのです私。ここで怒って反論してもまたお嬢様の手を煩わせてしまうだけ……
キリカナンの発言を頭の奥底に奉納しながら、私は震え上がる怒気を無理やり呑み込みました。
すぅ、はぁー。すぅ、はぁー。
やはり感情を落ち着かせるには深呼吸が一番です。本当は瞑目して瞑想もしたいですが。この場では出来ませんね。
このままだと私の我慢も限界に達してボロを出してしまいそうなので、早く話題転換してくれないでしょうか。
私はこの場では何も口に出せないので、只々そう祈るのみです。
そこで、私の祈りが届いたのかキリカナンの方から話題を切り替えてくれる様でした。というか、余りに潔い気がするので初めからこちらが本題だったのでしょうね。
「アルシェード様がこちらにいらしゃらないのは分かった。そこで、本日はもう一つ要件があって来た。ミッドナイト家長女、ルルカリアよ。私は本日、貴様との婚約を打診しに来たのだ」
……はっ?
——ビキビキッ!
メイドの血管が音を立てて浮かび上がっていった。
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