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メイドになります②

 メイドになって一週間が経ちました。メイド長の教えはスパルタでとても休む時間なんてないですが、その分しっかりと叩き込まれ、メイドとしての仕事も大方熟せるようになったかと思います。


「アンタさん、覚えが早いねえ。あたしゃの見込みだとあと一ヶ月は研修期間にするつもりだったさ」


「お褒め頂き、ありがとうございます! 」


「いいや、いい事やけんどねえ。あたしゃの仕事が減っちまって少し寂しいのさ。そろそろ、あたしゃが付いてなくてもアンタさんは仕事出来るさね」


「そう、ですか? でも、私メイド長がいないと不安です」


「ははっ! 慰めのつもりかい? それとも、本心かね? だけんど、生憎アンタさんが失敗したのをあたしゃ、全然見た事がないね。明日からは一人で頑張りな」


「そ、そんなあー」


「早く先へ進まへんと、いつまで経ってもお嬢様の世話が出来へんで」


「ッッ!? ぜ、是非! やらせてください! 一人で!! どんな仕事でも!!」


「……アンタさん、本当に分かりゃっさ(分かりやすい)ね。お嬢様が絡むとすぐ、こうさ。仕事熱心なのはいいけんど、程々にしときぃや」


「はーい」


 そのままメイド長は仕事へ戻って行きました。お嬢様のお世話は勿論。新人の指導、至る所に飾られる花の世話や造花の制作等の屋敷飾り。他メイドの尻拭いに、屋敷中の清掃やそのチェック。


 とにかく何でも熟す多忙な人だ。辛くないか? と聞くと、仕事をしていると安心する。との事で、特に無理している様子でも無いようだ。


 感覚的には、仕事=娯楽だと思っていそうである。


「さて、私は何をすれば……」


 次の仕事を探してきょろきょろと視線を漂わせていると、背後の方からお嬢様が声を掛けてきた。


「あら? 貴方、新人のメイドよね? 丁度いい所に居てくれたわ。確か名前は……」


「あ、アリスです! お嬢様」


 メイドになれたのは良いものの、初めて入った日にお嬢様へ挨拶して以降、それっきりだった。時たま遠くからお嬢様を見かける事はあるのだが、会話はおろか視線すら合わせてくれなかった。


 こうして会話するのは(メイドとして)初対面のあの日以降なのである。


「そうそう、アリス……ね。可愛らしい名前だったから印象に残ってるの」


「は、はあ。恐縮です、ありがとうございます」


 それなら何で、名前を覚えていなかったんですか? とは口が裂けても言えなかった。不敬罪で牢獄行きになってしまいます。


「それでね? アリス。今から街へ出るのだけど、付いて来るかしら?」


「え? えっと……それは、護衛としてって事ですか?」


「そんなわけ無いじゃない。メイドに護衛を頼むだなんてどうかしてるわ。単にお買い物に付き合って欲しいだけよ」


「買い物……ですか? 態々街に出向かずとも、屋敷の者に頼めば宜しいのでは無いですか? 一体何をお求めに」


 すると、途端。お嬢様はもじもじと、照れくさそうに手と視線を下に向けて俯いた。


 かわいい! と言いたいのをギリギリのところで、その言葉を飲み込んだ。


 こちらの様子を見て、怪訝そうにしながらもお嬢様は言葉を重ねる。


「私、平民の暮らしに興味があるの。どの様な服を着るのか。どの様な物を食べるのか。だから、平民視点で、貴方に付き添って欲しいの」


 ほほう。お嬢様にそんな御趣味が。


 しかし、知らないとは言え、よりによって平民の暮らしを、元王族である私に聞くだなんて……


「……私は構いませんが」


「ほ、ほんと!? 言ったわね!? それじゃ、存分に付き合ってもらうわよ!」


 私は短く頷く。


 すると、無邪気に喜ぶお嬢様を見て、私は頬が落ちそうになるのを感じますが、慌ててパシン! と手で頬を叩いて諫め、お嬢様に向き直って言いました。


「私でよろしければ、是非お供させて下さい!」


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