存在しない特異点②
こんにちは、お久しぶりです。Ariaです。また、少しずつ更新していく予定です。もうとっくに皆様に忘れられた頃合いだと思いますが、もし巡りまわってまた見つけてもらえたら、とても嬉しいです。また、現在はカクヨムの方で、渾身の力を入れた新作『殺戮のリリエス』を連載中です。なろうにもそのうち同時連載する予定ですが、よろしければカクヨムでも読んでやってください。
最後に、この章は少し長めの蛇足展開になりそうです。が、アナスタシア様編だと大事な話ですので、どうぞお許しいただければと。久々に書くので、何か設定の違い等が生じていましたら、すみません(汗)
光が収まると同時に、目の前には見慣れた金髪碧眼の女性が立っていました。
その衣の裾がわずかに揺れるたび、あの優雅な香水の匂いが微かに漂ってきます。鼻が勝手に覚えてるんですよ、ほんと。
「アナスタシア様……本物、ですよね?」
思わず声が裏返りました。だって、仕方ないじゃないですか。
エリュンゲル家の令嬢にして、この世界のヒロインの一人、慈愛の聖女アナスタシア様が、こんな地下の“未実装エリア”に現れるなんて。
おかしい。絶対おかしい。
彼女は静かに微笑んで、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってきます。
ああ、足音まで完璧に記憶通り。いや、というか……そこまで記憶してる私もどうかしてる。
「……お怪我はありませんか?」
そう言って、彼女は私の頬にそっと手を当てました。温かい。柔らかい。触覚の再現度まで神。いや、これはもう現実です。
でも——問題はそこじゃない。
このイベント、私、知りません。
“地下迷宮でアナスタシアが救援に来る”なんて、どのルートにもなかった。
そもそも、アナスタシアはこのタイミングで城にいるはずです。
あれ? いや、待って。記憶違い? 違う違う、イベントフラグ的に絶対おかしい。
「アナスタシア様、どうしてここに……?」
「貴方が呼んだから、ですよ」
「え?」
にっこりと微笑む彼女。——いや、そんな台詞、なかった。
この人、こんな意味深なこと言うタイプじゃなかったですよね!?
心臓がドクンと鳴る。
ゲームでは“優しさ”が彼女のアイデンティティだった。
でも今の彼女の笑みは、どこか違う。冷たい。
「わたくし、貴方に会いたかったのです。ずっと前から」
……セリフが、ルートを飛び越えている。
いや、待って、それどころか——これ、“告白イベント”の後半の台詞じゃないですか!?
でも私、あのイベントまだ発生させてないですし、何より“女の子側”になってる今の状態では——
「え、ちょっと待ってくださいアナスタシア様!? これ、バグ……? バグですか!?」
「バグ?」
小首をかしげる仕草も可愛い。……けど今はそれどころじゃない。
アナスタシア様の瞳の奥に、金色の光が一瞬、走った。
それは、聖属性魔法の“詠唱前兆”に似ていたけれど、もっと……禍々しい。
「ここは、“記録されなかった階層”です。貴方が覚えていないのも当然」
「記録されなかった……?」
「ええ。“存在しない特異点”だから」
彼女の声が、少しずつ歪んでいく。
柔らかく包むようなトーンが、金属音のように変わっていく。
同時に、周囲の松明がひとつ、またひとつと消えていった。
光が、彼女の姿を飲み込む。
——残されたのは、木製の看板だけ。
さっきまで『憩いの場』と書かれていたその表面には、いつの間にか別の文字が刻まれていた。
**『再構築中…… プレイヤーID:不明』**




