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魔物暴走②

 以前にお嬢様に伺った話ですが、魔物暴走(スタンピード)には二通りの発生の仕方があるようです。一つは統率者の出現による軍勢化。すなわち、人類に仇なす魔王などの上級魔族によって人類に攻め入る軍勢として統率され、魔物本来の殺人本能の赴くまま憎しき人に襲いかかる侵攻型 魔物暴走(スタンピード)。これはいわば人為的な発生と言い換えられます。


 もう一つはそれとは対照的に、半自然的に引き起こされるケースです。これを解説するには先に魔物暴走の定義を再度はっきりさせる必要があります。


 例えば、川の奔流を止める為に防波堤というものがありますが、これを魔物を川として置き換えましょう。では魔物にとって防波堤の役割となるものは何なのか。それは、モンスターエリアと呼ばれる区域の事です。


 炭鉱内に生息する魔物はその炭鉱の中でしか生きることが出来きません。森に生まれた魔物なら森から出られず、海に生まれた魔物は陸に上がれないように、その限られた生息区域こそが、その魔物にとっての防波堤(モンスターエリア)という事です。だから、通常魔物がモンスターエリアを超えて人間に襲いかかる事は起こり得ないのです。その例外こそが魔物暴走(スタンピード)と呼ばれる災厄の定義と呼べます。


 魚が陸に順応するにはどのような過程が必要か。例えば呼吸器官、例えば地を歩く四肢。例えば海中の魔素を供給する術。それらの生存条件を魔王の魔力によって臨時的に補うのが侵攻型魔物暴走の神髄。


 それに対し、もう一方の流動型魔物暴走とは単に棲家を追われた魔物達が、殺戮本能も生存競争も捨て、より強大な侵略者から命からがら逃げだしたことによって生じる準自然災害的なものでしかないのです。命の危機を前に陸も海も関係ありません。不規則的に、そして暴力的に。道阻むものは全て踏み躙っていくのです。彼らは己の命以外に何も見えていないのですから。それこそが、流動型魔物暴走の災害たる所以です。


 お話の途中で、私はとある物を遠目に観察していました。魔物達の足跡。まるで行軍のように踏み揃えられたそれらの中に、僅かに黒い魔力の残滓を私は感じ取りました。


 それはキリカナンを化け物へと変貌させた魔力と同じものでした。気持ち悪くて、ドス黒くて、ドロドロと粘着質のある闇の力が蠢いています。そして最も驚いたのは、その中に神性の魔力が混じっていた事でした。


(まさか、そんなはずは……いや、もしかして、そう言う事だったの)


 結論を胸に呑み込み、私は意識をお二方の方へと戻しました。


「それで、炭鉱内の魔物達の行方は……」


 ランリーさんが呟くように言いました。邪竜によって棲家を追われた魔物達はどこへ消えたのか。放っておけばおくほど被害が増えていく。街の為、あるいは民の為。早急に魔物暴走の鎮圧に動かなければなりません。


「それが……」


 村長さんは歯切れの悪そうに下唇を噛み締めました。それを見たランリーさんが最悪の事態を想定したのか、表情に影を落とします。しかし、村長さんの口にした言葉はランリーさんの想像を上回る絶望を与えました。


「街を荒らした魔物達は足踏み揃えて炭鉱へ戻って行ったのです。まるで、最初から何もなかったかのように」


 どうやら、物語は急速に動き始めていたようです。私の知らないところで。


 

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