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誰が為の正義②

 翌日、私は二度目となるエリュンゲルの街へと赴いていました。

 まだ時刻は午前の七時だというのに、城下町は賑わっており、衛兵や仕事を始めた街の人達の喋り声や笑いが聞こえて来ます。私は衛兵の中から見知った顔を見つけ、彼に話かけました。


「お勤めご苦労さまです。精が出ますね、イヴァンさん」

「むっ、これはこれはアリス様。領主様との御会談は如何でしたか?」

「あ、えっとぉ、良かったです……?」

「ふははっ、それは結構ですな。しかし、そんな事をいうのはアリス様だけでしょうね」

「えっ? それってどう」


 私の回答にイヴァンさんは楽しげに笑いました。しかし、その言葉遣いに違和感を感じ取った私がその正体を彼に聞き出そうとした時でした。


「た、大変だ!! タージン炭鉱に巨大な百足型の魔物が現れた! 縄張りを追い出された炭坑内の魔物達が外に出て麓を荒らしまくってる! 誰か至急この事を領主様にお伝えしてくれ!」


 切羽詰まった様子で現れたのは、エリュンゲルの門番をしていた中年のおじさんでした。


「なにっ? それは本当か?」

「あ、あんたは、近衛兵隊長のイヴァンだな。ああ、占い師の爺さんも言ってたんだし本当だとも。こんな時に嘘を吐いてどうする」

「むむむっ、よりによってこんな大事な時期にッ」


 イヴァンさんが歯軋りをしながら呟いていました。というか、イヴァンさんって士長ではなく兵長だったんですね。それも近衛隊長だったとは……まぁ、それもそうですよね。ただの衛士長が屋敷の奥まで気軽に入れるはずもありませんし、なによりアナスタシア嬢は彼に多大な信頼を寄せているように見えました。


 ふと気になった単語ですが、大切な時期――というのは何でしょうか? 特に何かがあるとは聞いていませんが、もしかしてこの街の上層部の人間のみが知る秘密でもあるのでしょうか。


「仕方ない。今は事態の鎮静化が先だ。副隊長と何名かの士長は私についてまいれ。この事態を領主様へと伝えなければ」

「「ははっ!」」


 即決即断と、イヴァンさんは何名かの部下に指示を出しました。

 これから、アナスタシア様の元へ向かうのでしょう。

 でしたら、私も黙って胡坐を掻いてはいられません。


「あ、あの! 私も領主様の所へついて行っても?」

「アリス様が? し、しかし。あなたは大事な御客人ですので……」

「ではアナスタシア様の元が一番安全でしょう?」

「いや、でもあなたの眼はじっと待っている様な――」

「連れて行ってくれますよね??」


 何かを言おうとするイヴァンさんの言葉を遮って、私は目を閉じ首を斜め四十五度に傾げ、窒息しない程度に圧を掛けました。すると彼は萎縮した様子で少し後退り、引き攣った笑顔のまま「え、ええ」と快く許可を下さいました。


 こういう時のお嬢様スマイルは便利ですね! と私は内心にやりと笑顔を浮かべたのでした。 


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