エリュンゲルの姫③
扉を開けた瞬間、飛び込んで来た情報量の多さに頭を抱えそうになりました。目前の少女は自らを、アナスタシア・フォン・アインスタッドと名乗り、領主代行にして第二王子の婚約者である事を主張。物騒なような綺麗なような二つ名を口にし、挙句には自らを反逆者であると明かしました。
……うん、属性多すぎじゃないですかね? 私の身体はフリーズしつつも、目線でアナスタシアさんをまじまじと観察していました。
空色にも深海色にも見える藍色の髪を腰まで伸ばし、華麗で静けさを纏う佇まいからはお淑やかさが滲み出て見えます。もう口では形容し難い程に綺麗で、妖精や人魚のようだと思わせる美貌でした。
ぶっちゃけ、忖度抜きでお嬢様と同じぐらい綺麗だと思います。もうほんと、とにかく綺麗で語彙力を失いました。何だか背中の辺りに寒気を感じますが、気の所為でしょうか? 頭の中でお嬢様が拗ねたように口を結んでこちらを見つめているような気がするのですが……
「そんなまじまじと見られますと恥ずかしいのですが……ええっと、とりあえず、わたくしに何か聞きたい事があるのではなくて?」
「あ、えっと! 失礼致しました! アナスタシア様に見惚れてつい……」
「うふふ、ダメですわよアリス。見境なく女の子に手を出しては。貴女はあのルルカのお気に入りだと聞きましたが」
「へっ? あ、あの、私そんなつもりでは……」
思考が停止して変な事を言ってしまいました。いきなり見惚れていただなんて、まるで口説いているみたいで失礼ですよね。人間関係一番大事なのは初対面なのに、こんなでは……
「こ、こほん……お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ございません。アナスタシア様。改めまして、私の名前はアリスです。平民の出でして、性はございません。本日はお招き頂き、ありがとうございます」
ぺこりと、私はこっそりと練習して身に着けた完璧な角度のお辞儀をお見舞します。
「そんな肩苦しくしなくて結構よ。衛兵方にも下がってもらいましたし、この場は今私と貴女の二人きりですので、楽にしてもらって構いませんわ」
「お、恐れいります……」
「ふふっ、余計緊張させてしまったかしら。それで、もう一度聞くけど、何かわたくしに聞きたい事があるのでは無くて?」
そういって、妖艶にアナスタシア様は微笑みました。その意図を計り損ねていると、彼女は空気に耐えきれないのか次第に苦しそうな表情になっていきます。
え、えっと……まずはご要望通りに何か質問をしてみた方がいいのでしょうか。とは言っても、さっきの発言もそうですが、聞きたい事は山ほどあるんですよねぇ。ですが、とりあえずは――
「あの、御領主代行を務めていらっしゃるんですよね? では、現領主様は一体どこへ……」
「お父様は土地発展の一環で、交渉のため隣国へと赴きました。丁度三カ月程前の事ですわね。領主が不在の間、その役目をわたくしが代行として果たしている現状ですわ」
「そ、そうなのですか? では、先程の御声は?」
イヴァンさんが扉を鳴らした際、父上のような荘厳な声で「入るがよい」という声が中から聞こえて来ました。しかし、今この場に男の方はいません。気配察知にも引っかかっていないので、隠れているという訳でもないようです。では、一体あれは何処から聞こえて来たのでしょう?
「趣味ですわ」
「…………はい?」
「ですから、あれはお父様のご趣味ですわ」
………………はい?
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