王妃様との再会③
「再会を喜ぶのはそこまでにしなさい。今日は話があって彼女を呼んだのだから」
「そうでしたね、申し訳ありませんお母様、それとお姉様」
しばらく再会を祝っていると、王妃の指令で第三王子テオ君が下がっていき、母上がこちらに向き直りました。私はぶるっと身震いします。
「改まって、本日及び頂いた理由をお聞きしても?」
「冷たいのね? 一つは親子兄弟の感動の再会のためよ。何処かの娘が家出して以来一度も連絡をくれなかったもの」
「ううっ」
「二つ目が本題よ。単刀直入に言うわ。アリス、貴女にはレインガル学園へ一生徒として編入して貰うわ。貴方の大事なお嬢様からのお願いなのだけど、これは私からの要望でもあるわ」
「要望……ですか?」
「ええ、あなたは現在の王権派閥の事情についてどのくらい知っているかしら?」
王権派閥、どの王子を次期の皇帝に添えるか水面下での争い。貴族達は自らの信念のもと王を選出する。例えば第一王子派の派閥としては、レイヴン伯爵等が挙げられる。もちろん他にも沢山いるが、省略する。第一王子派は、第一王子の失踪以来勢力が弱体化した。女王陛下のお陰あって、他の貴族の間では第一王子は感染性のある病を発症して後宮に隔離されているという事になっている。他の派閥の者がわざわざ第一王子を見舞いに来ることは滅多にないのでどうにかなるが、第一王子に深く忠誠を誓う派閥の重臣達は別だ。彼らに対しては王妃様が真実を伝えているという。
次に、第二王子を次期の王に添えようとする派閥。第二王子派にはディフェルト侯爵など、第一王子派が衰退した現在最も有力な派閥だ。第二王子が高慢であることや、野心を携えている事からも攻撃的な派閥である。第一王子の派閥が穏健派とすれば、第二王子の派閥は過激派である。最近までキリカナンの実家であるバルトロ侯爵も所属していたそうだが、旦那様との交渉の末に離れていったらしい。
最後に第三王子を次期の王に添えようとする派閥。こちらはあまり詳しくないが、三大公爵家の一つであるトワイライト公爵家が所属しているのだとか。所属する家の数が最も少ない派閥であると同時に、所属する各家の力が最も強い派閥である。
私としても、第三王子の派閥を支持していきたい。勿論、表立っては争いの火種になり兼ねないので、貴族の抗争に巻き込まれない程度に、だ。それに、テオ君が王になってもらわないと色々と困る。
といった内容を王妃様に伝えたところ、彼女は肩を落として溜息を吐いた。後ろのテオ君は話に耳を傾けながら、瞑目して何かを考えている。
「はぁ、王族としての思考は残したまま、自己に対する責任は私に丸投げね。とんだ大物よ貴女。だけど、せめて貴女の望む通り第三王子が戴冠するまでは一王子として責任を全うし、国の未来に尽力しなさい」
「はい、そのつもりです」
「よろしい。話を戻すけど、現在第二王子の派閥間で、選民思想を持つ貴族の力が着々と膨大していってるわ。それでは、貴女も困るでしょう?」
「……私にどうしろとおっしゃいますか?」
「私の指示からは何もする必要はないわ。ただ学園に入学してくれれば、ね。その後はあなた次第ね。ただしこれはアルシェード、そしてアリス、貴女に課せられた試練だと思いなさい。これからも大切なお嬢様といるためのね」
自力で派閥問題や、思想問題をどうにかしろと。母上は中々酷な事をおっしゃる。半ば脅しにも感じる言質。しかし、その声色からは母の愛が込められているように思えました。
そして、母上はこれはお嬢様の願いでもあると申しました。ならば、断る理由はありませんね。
「分かりました。その試練、受けて立ちます」




