王妃様との再会②
結論から言うと、ちゃんと弟でした。はい第三王子のテオ君です。ゲームでは主人公が学園二年生の時に初登場するキャラクターですね。一目で気付けなかったのは、私が知っている一年後の彼と容姿が大きく違うからです。ゲームの彼はアルシェードの代わりとして王となる存在であり、支配者としての冷酷な一面の裏に君臣や民を想う思慮深さを併せ持った未完かつ完璧な王様像のような人でした。そんな彼がどういう訳か私に会いに来たという事らしいのですが、第三王子が王太子のアルシェードと仲が良かったなんて設定ありましたっけ?
まぁ、それは裏設定であると受け入れるとして……どうして、今の私を王太子アルシェードであると結び付けられることが出来るのか。
母上に視線を送ると、彼女は首を横に振りました。仕方ないので本人に聞いてみる事にします。
「私が”お姉様”を”お兄様”だと分かった理由ですか? それは……なんでだと思いますか?」
含みのある笑みで、彼は問い返しました。その覆面に未来の皇帝たる威厳を垣間見た私は、気圧されて一歩下がります。つぶらな瞳で、お姉様どうしましたか? と見上げるテオ君に、今度は萌えが爆発しました。
ショタコンの趣味は無いのですが、その笑顔はずるいです。見つめるだけで人を殺めてしまえそうですね我が弟は。
「コホン、質問にお答えしますね。御母上にご教示頂いた……訳ではないのですよね?」
「それはさっき私から否定したじゃない」
母上が口を挟みます。やはり、先程のはそういう意味でしたか。
「では、情報が漏れた……とか?」
これも、母上が御否定なされました。
「それも無いわね。国秘機密として慎重に情報管理をしているわ。あるとすれば、貴女の口から洩れたという線だけよ」
「そ、そうですか。では、本当に手詰まりですね。私では分かり兼ねます」
降参です、とテオ君にジェスチャーを送ると、彼は和やかに微笑んで、仕方ないなと言いたげな顔で背筋を伸ばしました。
「えへへ、では答え合わせです! 正解は、お兄様が大好きで王宮内からずっと見ていたからでした!」
えっへん、とドヤ顔をするテオ君。私は背筋が凍る感覚に襲われました。言ってる事ストーカー並みというか、危ない匂いがしますね。
「えっと……見ていた、というのは?」
「そのままの意味ですよ。何をどこまで見ていたか? という顔ですね。その質問の回答としては、”最初から”今に至るまでです」
へ? 最初から? どこから? どこまで? どうやって?
訳が分からず頭に疑問符を浮かべる私に対し、テオ君は変わらず機嫌が良さそうに言いました。
「ふふふ~、文字通り最初からですよ。お兄様がお姉様になったところから、ルルカリア公爵令嬢の元へ給仕として働き始めた所まで。しかし、残念ながらお姉様が失踪した九か月間の足跡は追えませんでしたけどね」
本当に最初から見られてましたね……ずっと、監視されていた? 弟にストーカー行為されていたという事ですか? え、まさかあんな事やこんな事まで見られていたということ? 私のプライバシーなんて最初から無かった?
「あ、安心して下さい! 私の能力は一種の予知系統のもので、望んで見たいものを見たり、因果律の要点の一部だけがイメージとして頭に流れ込んでくるだけで、ずっと見ていられるわけではないのです」




