王妃様との再会①
キリカナンに引導を渡してから二週間。息子とは違い常識人のバルトロ侯爵が再び謝罪に訪れたのを旦那様が対応し、多額の賠償金を請求したりと貴族のあれこれがあったみたいです。
その間、お嬢様は学園が再開したにも関わらず未だにミッドナイト領にいました。何やら私を連れて行くための手続きがあるみたいです。旦那様に聞いた所、お付きのメイドとして護衛も兼ねて連れていかれる事は確定で、その為の準備も私が失踪する前には済んでいたとの事でしたが、お嬢様は一体何を手続きしているのでしょうかね。
嫌な予感に眼を背けながらキリカナンとの因縁の後の後始末をしていると、唐突にその日はやって来ました。
「アリス、貴女に王妃様から招待状が届いてるわよ」
「え、はぁっ!?」
お嬢様から特大の爆弾を受け取りました。そのまま私は連行され、こうして王宮の門の前にいます。どうしてこうなった。相変わらず豪奢な建物の威圧感に足が竦みます。
約一年ぶりの帰還となるのですかね? 正直何処かのタイミングで顔は出さないとと思っていたので、良い機会です。
門番顔パスで中へ通されました。良いのかそれで……
給仕の女性に案内され、扉の前まで連れていかれます。何度も訪れた王妃様の部屋。その外装には見覚えのある薔薇模様が施されています。
――さては、お嬢様ですね?
ゲームでも王妃様が姪である悪役令嬢を大層気に入っているという設定はありました。私の知らない間にお茶会でも開いていたのでしょうか。何だか厄介事の香りがしてきましたが、それも今更かと腹を括り、入っていいわよと王妃様の許可を頂いてから、丁重に扉を開けました。
中にいたのは、当然王妃様でした。そして、もう一人。
「お兄様!! お久しゅうございます! それとも、今はお姉様でしょうか!?」
豪勢な挨拶を受け、何かが胸へ飛び込んできました。反射的に抱きかかえますが、この小動物はなんでしょう?
その少年は、黒髪でした。童顔の所為か、十歳も行かないくらいに見えますが、身長は百六十台の私の頭一つ分小さいくらいはあり、無邪気な笑みの裏には水面下で戦ってきた貴族のような貫録さえ感じられます。
お偉い様でしょうか? 抱き留めて大丈夫でしたでしょうか?
――あれ? そういえば、お兄様とか言ってませんでした??
弟がいた記憶なんてないのですが?
「あ、えと、あ、あの、お久しゅう……ございます?」
「あははっ、お姉様ってば慌てちゃって面白いです」
気が動転して物理的にひっくり返りそうになるのを我慢しながら決死の思いで挨拶を返す私に対し、何の打算も感じさせない無邪気な笑みで微笑む黒髪の少年。その背後から、見知った御顔が現れました。
「久しぶりね。アリス、いいえ。アルシェード?」
「お、王妃様。お久しゅうございます」
「よしなさい。感動の再会に無粋な身分は関係ありません。この子も、貴女に会いたがっていたのよ? さぁ、楽にしなさいな」
「は、はい。お母上」
とりあえず、問わなければなりません。
――この少年は何者ですか!?




