噂のメイド
こんにちは! ご無沙汰しております! Ariaです。大変お待たせいたしました! 本日より連載再開、そして本編第二部突入となります。現在他作品も執筆していたりもあって、以前の様に一日三話の更新は出来ないと思いますが、せめて出来るだけ毎日投稿はしていきたいなと心がけていきます。引き続き、ご応援の程宜しくお願い致します!
王都立レインガル学園。それは、王国内で最大の高等学校である。名目上は実力主義を掲げており、貴族に限らず平民であれどその努力次第で入学することが出来る。学内では身分の差関係なく対等である事を教訓にしているが、それは詭弁だ。一種の罠とも言える。例えば、学内であれ平民がいきなり王族に話しかけた場合は不敬罪として罪に問われる。平民でなくとも、身分が下の者は上の者の許可なく発言する事は許されない。所詮は貴族の場なのだ。平民にはこの学園とは別で学舎が用意されており、普通はそちらへ行く。あくまで実力主義を謳うこの学園が何故貴族たちで埋め尽くされているのか、その問いには答える必要もないだろう。
生まれの差は覆らないということだ。幼少の頃から英才教育を受けて来た貴族とそうでは無い平民の間には、大きな開きがあるのは言うまでもない。勿論、平民の努力不足といった話ではない。与えられた教育の機会が均等ではないのだ。平民が学園に入学するには、血の滲むくらいでは足りない研鑽と、才能。そして、金銭が必要となる。だからこそ、学園に入学し、あたかも足並みを揃えようとする平民は周囲から浮き、疎まれる。それも、ただのメイド風情がだ。
「おい、アイツ……噂の編入したっていうメイドじゃないか?」
「平民風情がお高い身分ですこと」
廊下で通りすがった貴族の子息令嬢達のこそこそ話が耳を打つ。声量もぎりぎり聞こえてくるくらいで、鋭利な視線と敵意を向けられては本当に隠す気があるのか問い詰めたくなる。十中八九、わざと聞かせているのだろう。無視して歩き出そうとした私の脚を、続く言葉が止める。
「アルシェード王太子殿下から婚約を破棄されたというあの公爵家の……」
「こんな噂もありましたわ。公爵家が金髪のメイドに夢中で、一時失踪した彼女を捜索依頼を出してまで死に物狂いで探し回っていたとか」
「あら、それはわたくしも聞いた事がありますわね」
「俺もだ、容姿の特徴も一致している。まさかな」
「ふん、殿下の次は給仕の女にお熱か。公爵家の傷物令嬢は随分と尻が軽いようだ」
ミッドナイト家は三大公爵家の一つで、王国内では王族に続き二番目に高い身分を持つ。そんな二番目に偉い貴族の家の生まれであるお嬢様を愚弄する彼ら彼女らは、精々が子爵家と伯爵家だ。お嬢様が聞いていれば、権力を使って不敬罪を訴える事さえ出来る。そんな彼らが公爵家令嬢のメイドである私の前でお嬢様への陰口を叩くのは、よっぽどの馬鹿か、お嬢様ついては私が舐められているのか、それとも強気の姿勢の背後には後ろ盾となる”何か”がいるのか。
いずれにせよ、今の私は悪目立ちしすぎていた。ここで変に反抗しようにも、身分上は平民の私が許可なく彼らに話しかける事はできないし、無駄な軋轢を生むだけ。お嬢様を愚弄した代価を払わせてやりたいところだが、私に出来るのは今陰口を叩いた四人の子息令嬢の顔を覚えて帰ることぐらいだ。
――はぁ、貴族ってほんと、めんどくさい。
そもそも、メイドの私が何故学園に通う事になったのか。
それは、一か月程前に遡る――




