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刻みと香り④ side ルルカ

 反射的に嫌悪感が込み上がって来ました。キリカナンの視線と同じ、トラウマ的な拒絶です。私を捨て、破滅へと導いた王太子の顔を見てしまっては、そうなってしまうのも仕方無いでしょう。婚約をした日なんか、顔を見て吐いてしまっています。しかし、直ぐに違和感に気付きました。


 彼の視線です。彼の眼が、優しかったのです。今では遠い遠い、記憶の中。私が、五歳だった頃に王城の庭で出会った、彼の優しい目線と重なりました。そして、もう一つ、重なるものがありました。


 最愛の人。アリスの眼と、酷似……いいえ、同じ目でした。優しくて、暖かい目。見間違えるはずがありません。彼は、彼女はアリスでした。


「……貴方、もしかしてアリス……?」


 その問いに、彼は誤魔化す言い訳を探すように、視線をおよがせながら、おどおどとし始めます。その仕草が、アリスと完全に一致して見え、私は一層確信を募らせました。


 ――ああ、やっぱり助けに来てくれるんだ。


 嬉しかったのです。でも、悲しかったのです。


 私は、助けられてばかりだ。


 彼を、彼女を振り回してばかり。


 きっと、九か月間の失踪中も、私を想って頑張ってくれていたのでしょう。


 だって、こんなにも逞しくなって……


 これからは――




 




 目が覚めたら、自室のベッドの上でした。私は、あれから三日ほど眠っていた様です。キリカナンは、金髪のメイド服を着た男が、倒してしまったようです。その男が私を抱えて帰ってくるのを、見た屋敷の給仕たちがロマンスがなんたらと噂話をしていたのを、捕まえて聞き出しました。


 その後、お父様によるメイド長の弾劾が始まりました。彼女は、長年我が家で働いてきた古参の給仕で、私としても母の様に慕っていた方でした。なので、出来れば辞めて欲しくないです。しかし、お父様の憤慨は収まりきらず、そこでアリスが口を開きました。


 圧巻する光景でした。普段大人しいお父様と、滅多に声を荒げないアリスが、己の意見を譲らない様には、その場にいた私とメイド長も口を挟めませんでした。

 気になる話は出て来ましたが、結局はアリスが口論の末に意見を貫き通し、メイド長は今も屋敷で働く事になりました。


 きっと、これも私を想っての行動でしょう。それが、分かって、とても嬉しい気持ちになります。だけど、だけど……こんな私の更なる我が儘を聞いて頂きたいのです。


 私は、これ以上護られるだけの存在でありたくはありません。


 いつか私にも、貴女を護らせてください。アリス。


 ――だから


「ずっと、ずっと私だけのアリスでいてね?」


 彼女は、顔を赤らめました。


 ……かわいい


 なんて、思っていると、彼女は突然涙を流し出しました。泣き止むまで慰めてあげると、彼女は私の膝の上で眠り落ちてしまいます。


 寝たまま、純白で汚れの無い笑顔が、私に向けられていました。


「ふふっ。愛おしい人♡」


 いつかそれを、私への羞恥に染め上げてしまえればどれほど……


 嗜虐心のそそられるまま、私は寝ている彼女の頬に、接吻(キス)を落としたのです。

 


 柔らかで安心する香りが、私を包み込みました。
















 「――――!?!?」


 愛しのメイドがその瞬間だけ、起きていた事なんて知らなかったのです。 




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