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刻みと香り③ side ルルカ

 あの長い長い悲壮を忘れはしません。二度目にして漸く見つけた光を、私はまた失ってしまうのかと。深く深く、沈み込みました。

 追い打ちを掛ける様に、学園が始まってしまいました。一度目で、私が断罪されてしまった学園が。しかし、学園内でアルシェード様とあの少女の姿は三カ月経った今も見る事はありませんでした。


 そして、実家へ戻っていたある日。遂に、待ち望んでいた人が帰還しました。彼女は相も変わらず唐突に、私の一番望んでいた時に訪れるのです。まるで、物語の中で、姫を迎える王子様の様に。


 それで、私は満たされていました。彼女との時を重ね、このまま何もかも全てを忘れられればいい。この時、私は忘れてしまっていたのです。


 ――自分が、神に見捨てられてしまっている事を。

 

 永遠に思える幸せな一時が過ぎると、私はまた地獄に手招かれるかのように、知らない天井で目が覚めました。目前には、忘れてしまっていた悪夢が。キリカナンの姿がありました。


 確か、私はここで彼に反撃して手を挙げるのです……夢の中でも、同じようにすれば良いのでしょう。しかし、それは違う結末へと進んでいきました。

 夢の中で、私は彼に首を絞められ、成す術も無く殺されてしまいます。


 そこで、私の意識は目覚め……る事はありませんでした。淡々と、現実と見紛う程に鮮明な光景が続いていきます。目前には、私の死体が転がっていました。

 暫くして、私を助けに、最も会いたかった少女が現れました。アリスです。


 しかし、彼女は、転がった私の死体を見るなり、呆然と立ち尽くしてしまいます。キリカナンはそれを嘲笑っていました。途端、アリスは漆黒を纏います。昏く淀んだ、底知れぬ闇を、そして号哭しました。


 その後は、地獄が広がっていました。人々が、死んでいきます。災いが、引き起こされていました。その中心には、漆黒に染まった少女の姿が。

 そして、一つの世界は滅びたのです。私にわかるのは、そこまででした。


 



 







「――これは、在り得たかもしれない未来です」



 何処からか、声が聞こえました。優しい優しい声です。誰が、何処から? 疑問を唱える口は無く、私はただ声を聞き届けます。



「どうか、お聞きください。運命に翻弄されし、可哀想な少女よ」



 師が語り掛ける様に。誰かが願う様に。そして、母が憂う様に、それは続きます。



「これまで、よく頑張りました。もう、辛い思いをする必要はありません。私は、貴女の罪を赦しましょう。ですので、どうか。どうか」



 誰かの嗚咽が聞こえました。そして、懺悔が聞こえるのです。



「目を開けてください。貴女の、星が迎えに来ます。彼こそが、貴女の待ち望んでいた者です」


 

 そこで、夢はぷつりと途切れる様に終わりました。次第に、視界が鮮明になっていきます。


 眼前には、婚約破棄を叩きつけ、二度と関わる事が無いはずだった御方。


 王太子、アルシェードが、私を抱きかかえていました。

 


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