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刻みと香り② side ルルカ

 真実を交えた嘘というのは、最も信憑性の高く、最も悪辣な嘘です。はい、そうです。私は、冤罪に掛けられました。しかし、中には本当にやってしまった悪態も含まれていました。私の罪は取り返しの無い所まで加速していき、そして、私はこうして処刑台に立っています。


 眼下には、溢れかえる民衆。その中に、見覚えのある五つの影。彼らは、罪人を見上げています。私は、虚空を眺めるだけでした。


 一体どこで間違えてしまったの? 


 もしかして、最初から間違えていたのでしょうか?


 それなら、私はどうして生まれて来たのですか? 


「……ごめんなさい。お母さん、お父さん」


 懺悔を最後に、私は頸を刎ねられました。


 しかし、夢はまだ覚めません。次に視界に映ったのは、自室の天井でした。どうして? 何故? と疑問の前に、私は絶望したのです。夢ではないと分かってからは、人知れず慟哭しました。


 ――漸く、終れると思っていたのに。


 これも、神様の悪戯なのかと。私の罪は、神にすらも見捨てられてしまったのでしょうか?

 それとも、これまでの悲劇こそが夢だったのでしょうか? なんて、そのはずはありません。だって、こんなにも鮮明に痛みを憶えているのですもの。

 

 生きる意味も知らぬまま、三年の時は過ぎ、十歳となった頃、私は再び婚約を結ぶ事となりました。王太子、アルシェード様との婚約です。初対面となるはずのその日、私は彼の眼前で吐いてしまいました。殿下の前で吐いてしまうだなんてはしたなくて、何より不敬です。しかし、私は彼の顔を見た瞬間、刻まれた記憶が呪いとなって襲い掛かってきたのです。


 そう、トラウマでした。彼の顔、声その全てが。だけど、現実は残酷で、そのまま私と彼の婚約は成立してしまいました。それからも、お互いに距離を詰めようとしないまま、五年の時が過ぎ、私が十五歳となった頃。


 学園への入学が二年後に控えるタイミングで、私はとある計画を立てました。それは、王太子との婚約を一方的に破棄する為のものです。贔屓にして貰っている王妃の協力もあり、それは上手くいきました。その日、私は遂に王太子との離縁に成功したのです。


 このまま、彼と関わらなければ、学園から入学してくるあの少女と揉め合いになる事も無く、私は罪を重ねることなく今世を生きられるでしょうか。


 しかし、私の考えが甘かったのだと否定するかの様な出会いがありました。しばらくたったある日、我がミッドナイトの屋敷に、新しいメイドが就任しました。


 彼女の名前はアリス。ええ、私の愛しい人です。


 しかし、どういう訳か、彼女は何処かアルシェードと似ていました。雰囲気というか、仕草が、優しかった頃の彼と似ているのです。


 これも、運命なのですか。と深く絶望しました。しかし、同時に何やりも嬉しかったのです。彼女は、決して私を見捨てないのだと、そんな安心感を与えてくれました。


 だけど、それも裏切られてしまいます。ある日、彼女は私の元を忽然と去り、ずっとずっと長い間、帰って来ませんでした。

 


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