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刻みと香り① side ルルカ

 御機嫌よう。私の名前は、ルルカリア・ミッドナイト。私には、専属のメイドが居ます。ええ、皆さんが良く知っている方です。可愛らしくて、愛しい子です。でも、鈍感な部分はとても憎らしいです。だから、時々イジめたくなるのを、必死に我慢しているんです。そして、彼女は嘘吐きなんです。その上、秘密主義なんです。酷いですよね? 主人の私にまで一体何を隠しているのでしょうかね? ですが、特別に許します。あの子の正体が何であろうと、私は許すのです。例え、私を騙していて、嘘を吐いていようとも私は許すのです。


 ……ええ、本当は怖いのでしょう。真実を知ってしまった時、彼女はまた何処かへ行ってしまうのではないかと……私は、また失ってしまうのが怖いのです。


 なんて、私の話はどうでもいいでしょう? 失礼しました。楽しい話をしましょう。ええ、アリスの話です。あ、ですが、やっぱりその前に私の話を聞いて欲しいのです。


 それは、私がまだキリカナンに捕まっている時に遡ります。


「……私は、認めません。貴方達に玩具の如く弄ばれ、使い捨てられ、意味も無く朽ち果てていく未来なんて!!」


 あの時、私はキリカナンに対してそう啖呵を切りました。それは、与えられた運命に殉じるだけの私に、初めて生まれた自我の叫び。支配される事への悲痛と憤慨の声でした。


 しかし、その後の私は無力にも、キリカナンの殴打一つで気絶させられてしまいました。一撃で意識が狩られ、私は暗い深い微睡みへと落ちていきます。そこで、夢を見ました。ええ、夢と分かってはいたのです。しかし、臆病で非力な私には、辛く重く、抜け出せない夢なのでした。


 刻まれた記憶の夢です。それは、確かに私の深層に根付く記憶を再現した光景でした。溢れかえる民衆。私はそれらに見上げられ、罵声が飛び交います。しかし、私は縛られていました。飼育された雌豚のように、私は引き摺られています。


 群衆の中に、よく見知った五つの顔がありました。一人はキリカナンでした。もう二人も、キリカナンと同じで、王太子アルシェード様の側近と呼ばれる方々。そして、四人目は王太子アルシェード様でした。最後の一人は……何故でしょう。 どうしてか、性別情報以外思い出せません。彼女は、女性でした。私と同じ年の、眩く可憐な少女。


 この五人と私には、共通項がありました。因果的な特殊な人間関係が刻まれていたのです。というのも、王太子と側近を含めた四名は、全員が一人の女性の虜でした。ええ、勿論私ではありません。先程の、五人目の少女の事です。


 その少女は、平民でした。だけど、華やかさは無い割に、貴族にも引けを取らない可憐な容姿と、何処か眩い光を纏っているといった印象の少女でした。魔法的な魅惑を持った少女なのです。殿下たちが、彼女に惚れ込んでしまうのも、何処か納得の出来る事実でした。


 しかし、私は王太子アルシェード様の婚約者なのです。そうであれと、育てられてきたのです。だというのに、他の女性に胡坐をかく殿下に、私は我慢が出来ませんでした。最初は、きつく忠告をしただけでした。しかし、次第にそれはエスカレートして行き、ある日少女と殿下の逢瀬を偶然見てしまった私は、ついには耐えきれずに手を出してしまったのです。


 ――それが、破滅への始まりでした。

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