幕間 side ???
暗い暗い常闇の一室。そこにあるのは、永久の暗闇だった。例えるなら、割れた鏡を真っ黒に染め上げた破片を散りばめて、噛み砕いたかの様な空間。深く悲しい静謐の闇の中に、しかし。二つだけ物影が見える。それは、一つは人の形をしていた。それも、少女の形だ。歳の頃は17の少女。それは、眩いほどに清純な輝きを放つ少女だった。
本来は……だが。彼女の淡い光でさえ呑み込む程に、この空間はただ黒の一色に染まっていた。よって、何も見えない。色彩も視界も。全てが奪われたこの空間にもう一つの物影。それは、巨大な肉塊だった。醜く、歪で、汚れている。それは、蠢いていた。虫の如く蝿の如く鼠の如く。それは、ドロドロと融解していた。世界を呑み込む汚濁であり、世界を喰らう深淵であり、世界を壊す者だ。
ふと、清純の少女は声を出した。常闇に向かって、そこに潜む闇に向かって。呑気に、優雅に、そして可憐に語りかける。
「こんにちは。深淵に佇む者。暗き昏き混沌と闇と破壊の化身。そして、元老院が一柱。【破壊者】ジャバウォックよ」
「縺ェ繧薙?繧医≧縺??溘%縺ョ縺帙°縺??縺ィ縺上>縺ヲ繧薙」
「ふっ。どうやら、あまり歓迎されてないみたいね? だけど、関係ないわ。アタシ達の目的の為に、アンタには無理矢理にでも協力させてやるんだから」
「髫丞?縺ィ蛯イ諷縺ェ迚ゥ險?縺?□縺ェ?溘%縺ョ謌代隱縺ィ蠢?励」
「わーってるわよ。代償でしょう? ダ、イ、シ、ョ、ウ!! ったく、この世界の頭硬い連中はみんな直ぐ見返りを聞いて来るんだから。どうせ、最終的には私に協力するくせにさ」
「縺ァ繝シ縺溘↑繧薙°縺ュ縺医縺?縺帙∴繧医□縺セ繧」
「はいはい。分かったから黙りなさいな。ったく、アタシは今イライラしてるんだっての! せっかくキリカナンに機会を与えてやったのに、あの男ってば、アホの組織の連中に関わって、その上なんの生産性もない麻薬に手を染めた挙句、勝手に返り討ちにされるし……もうほんと上手くいかない事だらけで気が滅入るわ」
「………………%縺ョ縺帙°縺??縺ィ縺」
「ええ、まぁ。あなたの言う通りね。キリカナンのお陰で、あの女の情報を得る事が出来たわ。悪役令嬢の専属メイド、アリス。その正体が、まさか消えたはずのメイン攻略対象。王太子、アルシェードだっただなんてね? とんだ茶番狂せよ」
途端、少女は不敵な笑みを浮かべた。
「まぁ、いいわよ。放っておけば勝手に組織の連中を潰してくれそうだし。同じ転生者なら、私の正体を悟らせなければ、來るべき時までは敵対しないわよね? 」
少女の自問に唱える声はない。肉塊は佇んだまま、少女の動向を観察していた。やがて、何か確認を終えると徐に蠢き、動き出す。
「協力ありがとう。良い返事が聞けて良かったわ。それじゃ、行きましょうか? 私達の、『新世界』を創造する為に」
——深淵の破壊者は解き放たれた。




