メイドの懺悔②
話し合いは終わりました。結局メイド長の処罰は、その任を降りるだけに留まりました。交渉には成功したという事です。その代わり、辛うじて対等であった私と旦那様の立ち位置は天秤が傾き、旦那様が完全に上となったので、私の自由度は多少制限される羽目にはなりましたが。元々、優位に立つつもりはなかったのです。交渉や政治は得意じゃないですので、権力を振り翳すのもこれで最後でしょう。
何はともあれ、話し合いは纏まって、お嬢様にとっても最良の結果に導けたでしょう。メイド長は長の座をおりただけで、その贖罪と再びの忠誠を条件に一般給仕として屋敷で働いています。
これにて、一件落着……とは行かないんですよね。最後にもう一つだけ決着? を付けるべき事案がありました。その呼び出しを、お嬢様から受け、これからお嬢様の元へ赴くところです。
自室の扉を開けると、いつぞやの様にメイド長……元メイド長のジゼルさんが立っていました。恐縮といった様子で気まずそうに俯いています。なんとなくその心情は察せますが、取り敢えず待ち構えていた目的を聞いておきます。あ、因みに気配察知で扉の向こうにいるのは分かってましたけどね。
「私に何か用でしょうか? ジゼルさん」
「……どうして、私をお助けに? いいえ、お嬢様の為……ですよね」
「そんなに畏まらないでください。私達は同じメイド同士。口調も、楽にいつもの様にお願いしますよ」
敬語のジゼルさんは堅苦しくて、何だか寂しい気持ちになるのです。
「……かしこま……分かったわ。そんで、あたしゃを庇った理由はなんだったのさ?」
「自分で正解を答えてたじゃないですか? お嬢様が悲しむからですよ。貴女が辞めてしまってはね」
「……しかしねぇ、アンタはあたしに醜い嫉妬をされた挙句、売り物にされてしまったんだよ? 恨んで当然じゃないのかい?」
「確かに、意外でした。ジゼルさん、何も悩み無さそうに見えましたから。だけど、寧ろ私としてはこの一件を経て、ジゼルさんも人間なんだなって。仲良くなれそうだなって、思いました」
ジゼルさんの事は、別に嫌いじゃないんです。お嬢様を想う気持ちは一緒ですので、憎めないと言いますか。ただ、それだけなんです。
「……アンタ、やっぱり単純って言うか、軽い人間みたいさね。気楽そうで羨ましいよ」
「えへへ」
何はともあれ、仲直り(?) は出来たみたいですね。
「もう一つだけ、聞きたいことがあるけんど……」
「……? なんですか?」
「アンタ、一体何者なんだい?」
「…………」
お嬢様を連れて帰ったあの日、私の姿はアルシェードのままでした。当然、お嬢様を除く屋敷の皆に姿を見られてしまったのです。中には、現場の状況から、アルシェードの姿と私を結び付けた者も少なくはないでしょう。メイド長も既に確信を得ているのかも知れません。旦那様から気になるワードも出て来た訳ですからね。
つまり、この場合の沈黙は“肯定”だと捉えられてもおかしくはありませんでした。
「そうかい。アンタも、罪深いもんだねえ」
メイド長は、哀愁を漂わせた声で言いました。私は、深く瞑目します。
——そうです。私にも、懺悔と贖罪は必要なのでしょう。これは、メイド二人の懺悔のお話なのでした。




