贖罪②
話は膠着状態。何かを問いただそうとする旦那様に対し、メイド長ジゼルは申し訳ございませんと返すのみ。人質を取られた以外の犯行の動機すらも濁していました。私が推測するに、お嬢様を取り戻しにキリカナンの元を訪れる前に、メイド長が私にだけ懺悔をしたように、単に私に嫉妬してという理由も含まれていたのでしょう。しかし、それを今この場で言う理由は確かにありません。
「では、判決を下そう。メイド長ジゼルよ。お前をその座から降ろすと同時に、その生を終えるまで、別の奉仕の仕事を与える」
旦那様の言葉に、場は重苦しい沈黙を見せます。奉仕の仕事というのがどういうものかは知りませんが、良くて修道女としての生涯。最悪は体を売る仕事につかされるのでしょうか。恐らくはこれでも、旦那様なりに最大限配慮したつもりなのでしょう。何せ、ジゼルさんの家族までは手を出していない。
ですが、私としては納得のいかない結末です。何故なら、その判断にお嬢様の笑顔は無いでしょうから。というか、結果的にお嬢様を売ったも同然なのですが、メイド長自体はお嬢様に手を出していないのです。黙秘はここまでです。少しだけ、場を荒らしてみましょうか?
「一つ訂正をよろしいでしょうか? 旦那様」
「む……? なんだね、アリス君。沈黙を貫くつもりかと思っていたが、今更口を開いて、何を言うつもりかね?」
「……アリス、何を? いうつもりなの?」
怪訝そうに私を見つめる三名。別に何か大したことを言う気は無いんですけどねえ。
「メイド長がキリカナンと交わした契約は、あくまで私の情報だけです。売られたのはお嬢様ではなく、私の方なのです。結果として、その弊害がお嬢様に及んだと言うだけで……」
「そんな事は分かっている!! だが、それはそれで立派な反逆だろう! その結果娘に被害が及んだとならば……」
「ええ、結果的にお嬢様に被害が及びました。しかし、果たして本当にそれはメイド長の責なのでしょうか?」
「なっ、何が言いたいのだ?」
旦那様は私が何を言うつもり、全く見当がついていないといった様子でした。しかし、メイド長は何かを察したのか、初めて表情を崩します。お嬢様も、何処か不安げな表情を浮かべていました。
「売られたのは私。もしジゼルさんがやらなくても、キリカナンは他の給仕の弱みに付け込んで、情報を売らせたでしょう。その結果、お嬢様は人質として捉えられてしまった。全ては、メイドの分際で、キリカナン様の不服を買った私の責なのです。どうか、ジゼル長ではなく、私めをお罰しください」
「……随分と面白くない冗句をいう様になったのだな。王族のお前が頭を下げるのも、私に跪かせる為の芝居か?」
王族。と言うワードに激しく反応するお嬢様。メイド長は、話についていけず、間抜けに表情を固めていました。
「……いいえ、そんなつもりはありません。しかし、私はただ交渉がしたいのです。ミッドナイト家現当主——ヴラド・ミッドナイトよ」
それは、公爵家当主からすれば、脅迫にも聞こえる内容でした。




