俺、クソ王子に転生する
シリアス展開を書きすぎて、禿げそうになった作者による新作です。衝動のままに書きました。どうぞよろしくお願いいたします
「ねっむ」
簡素な呟きを吐いて、俺の意識は微睡みへ落ちていった。もう、ここ二日は寝ていない。妹に頼まれて、『ときめき☆マジカルぱーんち』なる、乙女ゲームとやらの攻略を進めていたのだ。これが案外面白くてな。そりゃただの乙女ゲーなら、男を攻略する背徳感に、ゲロ吐いて昏倒するのがオチだが、このゲームは題名から滲み出る通り、ファンタジー要素が多聞に組み込められててな? レベル上げやらダンジョン攻略やら、RPGでの楽しみ方も出来て、ネットで話題の人気作だったんだ。
んで、俺がハマった理由として一番デカいのが、推し絵師の存在だ。なんと、このゲームに登場する所謂、悪役令嬢と呼ばれる登場キャラクターを描いたのが、あの伝説の絵師「サクヤ」様なのだ!! それはもう、美麗で綺麗で、水彩画の様な美しさに満ち溢れた絵柄だったのよ! いやぁ、本当に綺麗なんだ。一生目に映したいね。夢でも良いから、実物を拝みたいよ。
……だが、思わず運営の会社に爆破予告をしてしまう所だったのが、乙女ゲーム御馴染みの悪役令嬢の生存ルートが無いのだ。不思議な事に、悪役令嬢のルルカリアはエンディング前に必ず死亡する。王太子ルートでは、王太子との婚約破棄と共にあらぬ罪を被せられ、断罪されて死ぬ。牢屋に一人忘れられて餓死するなんて事もあった。他の攻略対象のルートでも、共通して婚約破棄はされており、それぞれ別の方法で悲惨な死を遂げる。
最早運営が同情を誘っているのでは無いか。と思うぐらい悲惨に、リアルに描写されているのだ。シーンの絵だってちゃんと用意されている。
そりゃ、俺だって何度も何度もやり直したさ。
その結果……悪役令嬢はどのルートにおいても、必ず死亡する事が分かったんだ。
ぐぬぬ!! あれもこれも、ヒロインに眼を奪われた攻略対象のクソ王子が、悪役令嬢を断罪するのが悪いんだ!
大体、攻略対象の癖に、初期キャラなのもあって。性能はクソ雑魚だし、おまけに頭がクソが付く程弱い。だから、簡単にヒロインに誑かされるし。国の事を顧みないんだ。俺が王子ルートに入る度に、どれ程の拒絶反応を起こしたか想像も出来まい? 危うく怒りの余り失神して、入院しかけた事もある。
はぁ、クソッ。寝る前に嫌な事を考えるんじゃなかった。
俺は諦めないぞ。明日こそは、必ず悪役令嬢を救いだす裏ルートを見つけ出してやる!!
——だが、次に目が覚めた時。俺は自分の眼を疑う光景に、唯々立ち竦んでいた。
「アルシェード王太子殿下。私、ルルカリア・ミッドナイトは貴方様との婚約を破棄致しますわ! 」
目前に、推しの絵そのままの姿の、悪役令嬢が立っていた。
ああ。これは、夢を見てるな。きっと、神様が俺の努力を見兼ねて、せめてと。良い夢を見させてくれているに違いない。
ははっ! 推しを正面から見られるなんて、眼福だ。いつまでも眺めていられるぞ……ん? ちょっと待て?
今、なんて言った? 王太子? 婚約破棄? 俺に言ったのか?
あれ? 俺って……誰だっけ?
……ま、まさか! そんな、まさか!!
窓ガラスに映るこの、憎たらしくも整った容姿のイケメン。
見間違えるはずが無い。俺が、今一番憎んでいると言っても過言ではない
この顔は……
「……俺、よりにもよってクソ王子に転生しちゃったよ!!」