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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 2 地球か、何もかも鬱陶しい!
9/46

プロローグ

 本日は2話投稿しています。

 

 お待たせしました。

 episode 2開始します。


 本episodeが終了するまで連日投稿の予定です。

 ベガⅡでの仕事が終わった。


 我らが宇宙艦隊アシュリーズはアルデバランに向けて航行していた。

 一見自由に見える宇宙空間にも”道”があり、どこでも好きなように飛べるわけではない。航路から外れれば、どんな事故に巻き込まれるかわからず、昔ながらの宇宙海賊に見ぐるみ剥がされた後に撃沈。哀れ宇宙の藻屑に……なんてことも起こり得るのだ。

 もっともアシュリーズの主力戦艦の威容を前にして、ちょっかいをかけてくる輩がいるとも思えないが。


 それはともかくアシュリーズは堂々銀河標準航行ルートのど真ん中を邁進していた。

 整備された空間航行路にはグレードがあり、この銀河標準航行ルートは地上世界で言えば、差し詰め重要都市を結んでいる基幹高速道路や国道と言ったところだ。


 巡航速度が比較的ゆっくりなのは、今の艦隊には差し迫った仕事がないからだ。

 民間宇宙艦隊であるアシュリーズは艦艇の数こそ少ないものの、その航行にかかる経費はバカにならない。

 従って莫大な費用のかかる高速ワープ航法は行わず、尚且つ宇宙においてのメインストリートであるアルデバラン近傍のリッチな星系で仕事を探しながらの旅をしている。


 それならどこかの星系に駐留して移動に伴う経費の削減に努めた方が得なように思うだろうが、そうはいかない理由がある。何せ、他ではできない大きな仕事を何度もこなしているアシュリーズを快く思っていない連中は多いし、様々なトラブルに巻き込まれたことも数知れず。そういう時に得た情報の中には決して口にできない、他に知られてはならないことも多い。

 そんな機密の多いこの艦隊では一箇所に留まること自体一定に大きなリスクがある。


 従って仕事がない場合も宇宙を飛び回って過ごしていることが多い。

 そして、そんな時に最も頻繁に宇宙を流している航路が、最も依頼が多いアルデバラン付近というわけなのだ。ここにいれば、連邦やギルドを経由しない仕事もある。

 高速ワープを使わないなら、小さな仕事を星系政府から直接依頼を受けてもそこそこの稼ぎになるので艦隊運営費を賄うことができるのだ。


 

 しかし、今回はその場凌ぎの小さな仕事ではなく、銀河連盟経由の比較的大きな依頼が見つかったらしい。


「イリア。仕事が決まったわ。詳細はサーバにアップしてあるので目を通しておいて」

「わかりました。それで、どんな仕事なんですか?」

「ああ、ソル・シリンジの管理監督業務よ」

「えっ! あっ、ああ。そうですか」


 

 その仕事の名前を聞いた途端、私の心臓がドクンと跳ねた。


 ソル・シリンジ


 直訳すれば『太陽の注射』。

 人間にとって恒星の寿命は長く、通常生活するのに気にすることはない。しかし、宇宙は広く、自分たちの太陽が寿命を迎えたために他の星系に移住しなければならないこともある。

 そこで、太陽に注射を刺して寿命を伸ばそうというわけだ。




 それは太陽を若返らせる技術だ。

 そして、私が故郷を失う原因となった技術でもある。




 理屈は以下の通り。

 通常太陽はその寿命の大半を水素を燃やして過ごす。水素がなくなるとヘリウムを燃やし中心には核ができる。燃やす燃料がなくなるに連れて核の抗生物質は変化していき最終的に鉄になる。そして自身の重みに耐えきれず星は終焉を迎える。最後は萎んで白色矮星や中性子星、超新星爆発を起こして真ん中にブラックホールを残したりと様々だが、どんな末路になったとしても人類がその星系に継続して住むことは不可能だ。


 そこでソル・シリンジは、ロケットを使って太陽の鉄の核となった部分にある種の触媒を打ち込んで大量の水素を発生させる。原料は鉄。すなわち触媒による反応で鉄の核を溶かし、燃やす燃料である水素に変換していくのである。

 ただ、その反応が一気に進んだ場合、爆発的にフレアが発生して星系全体が危険に晒されることになる。そこで、ソル・シリンジは反応をゆっくりにする触媒も含まれている。


 だが、時間がかかると鉄から水素に戻る触媒も失われてしまうため、一回のソル・シリンジでは十分な『太陽の若返り』を行うことができない。銀河連邦の標準規格のソル・シリンジでは、3年ごとに5回のロケットを太陽に打ち込むことになっている。

 その効果はおよそ5千万年から1億年と言われている。太陽の寿命からすればわずかな延命ではあるが、人類にとっては過ごしやすい穏やかな活動期に戻すことができる。


 ソル・シリンジを打ち込んだ1億年後に、また寿命が来たらどうするか?

 まだ、この技術の歴史は浅く延命した太陽が時を経てまた終末を迎えたことはない。開発技術陣の考察では、もう一度ソル・シリンジを打ち込むことはできるが、同じ効果が得られるかどうかは不明となっている。

 推奨されている方法は ”再び太陽が不安定になる前にお金を貯めて他の星系に移れ” と言うものである。




 ソル・シリンジの問題は何か。


 それは非常に高価であることだ。

 確かに惑星に住む人全てを他の星系に移住させるほどではけれど、裕福でない星系政府が傾いてしまう程度には。


 私の故郷の星は裕福ではなく、銀河連邦の標準規格のソル・シリンジを頼むほどの財力がなかった。

 議会は紛糾し、富裕層は他の星系に逃げ出していったが、残った人々には破滅を防ぐ手立ては残っていなかったのである。


 そこにきたのが、格安のソル・シリンジを請け負う民間業者だった。

 彼らは新技術により、通常の5回ではなく3回だけのソル・シリンジ実行で太陽を救うと言った。


 人々の間では、その業者を怪しいと感じる者もいた。

 国王も反対派であったが、星を救う代案もなく追い詰められた議会の多数派に押し切られるように格安のソル・シリンジを請負業者に金を払った。


 1回目のロケットは順調に太陽に打ち込まれた。

 1ヶ月ごとに調査用簡易ロケットを太陽に打ち込んだが、その効果が薄いことに業者を呼んで説明を求めたが、新技術では2回目以降の効果が伸びるので現状は正常な経過であるとの回答があった。


 3年後、果たしてその業者は2回目のロケットで太陽突入に失敗した。


 太陽は暴走。

 惑星は膨れ上がった太陽の熱とフレアに飲み込まれる。

 救援部隊が駆けつけたが、助かった人たちは全人口の1割であった。


 私もその助けられた一人。

 ソル・シリンジ、その言葉は私にとっては辛い思い出と共にある。


「ん? どうかした?」

「いえ! 何でもありません!」

「そう? それじゃあ、今日もお疲れ様。イリア、今日はもう上がっていいわ」

「ありがとうございます。それじゃあ、サブリナ艦長。失礼します」


 私はちょっとだけ動揺したのを見透かされないように明るく挨拶したつもりだ。

 第一艦橋を後にして、居住棟へのドアを開けた。


 ◇


 艦橋から居住棟にイリアが出ていった後、わずかに遅れて反対の研究棟の入り口から人が入ってくる。


「キャシー、どうしたの?」

「あのお姫様。帰ったのね」

「ええ」


 入ってきたキャサリン・マックスウェル教授は、イリアの過去を知っている数少ない一人だ。

 そしてそのイリアのことをサブリナがひどく気にかけていることも。


 イリア・ベルクール

 その名前は偽名なのだ。


 本名はイリア・ロゼ・フェリアル。フェリアル王家の第二王女。


 故郷フェリエルは、アルニラム星系の第四惑星で人類が住み着いた時には、すでに年老いた太陽だったため、文明がそれほど成熟する前に危機は訪れた。

 多額の借金を覚悟して銀河連邦に助けを求めようとしたところに、ある民間機関が解決策を申し出る。

 太陽の若返り手術と言われるソル・シリンジを格安で受けると言うのだ。


 政府はその話に乗ったが、見事にその計画は失敗する。

 激しい太陽フレアが発生し、フェリアルの昼側にいた人の3割が強い放射線のために数日以内に亡くなった。

 助かったものは船を求めて宇宙港に殺到し、醜い争いの中でまた多くの人が死んだ。


 銀河連邦が緊急派遣した宇宙艦隊が、数多くの救出艇を地上に降ろし混乱の中でできる限りの救出活動を行った。

 その時にイリアも救われたのだが、その艦隊こそ、今彼女のいるアシュリーズだったのだ。


「やはりお貴族様同士、気になるの?」

「止してよ。私はしがない田舎の子爵令嬢。しかも貴族らしい事をしていたのは4年間だけ。あの子は生まれついての本物のお姫様。苦労してるでしょうに、それを見せないように頑張っているわ」

「それでサブリナ。今回の仕事はどうなの? あのお姫様には辛いんじゃない? 終わるまでは艦橋から外すのなら技術部門で預かってもいいけど」


 キャサリンらしくはない申し出にサブリナは迷う。

 確かにイリアには、今度の仕事はしんどいだろう。


「…………あなたがそんなことを言い出すなんて思わなかったわ。ちょっと待って」


 サブリナは腕を組んで視線を窓の外に向け、しばらく考え込んでいたが。


「イリアは外さない。これは、あの娘が乗り越えられるなければならないことだと思う。大丈夫よ! 彼女には芯の強さを感じるもの。それとあの事件の経験が、もしかしたら今回の仕事に生きるかも知れない」

「随分買ってるじゃない?」

「そうね。キャシーはどう思ってる?」

「私は……まだ、様子見かな? まあ、あなたがそう決めたんならそれでいいわ。そんなことより、気になることがあって……ふわぁぁぁ、もう眠いわ。あとで連絡するわ。続きは明日にして私も休ませてもらう。おやすみ」

「ええ、お休みなさい」


 キャサリンは、研究棟の方へ戻って行った。

 サブリナはキャサリンが気にしていることを聞きたいと思ったが、本人が言わないのなら今聞く必要がないことなのだろうと読みかけの本に視線を落とした。

 だが、碌に読み進めもしないうちにすぐに本を閉じたのは、キャサリンが言いかけたことが気になっていたからだ。


 ◇


 翌日、私は張り切っていた。


 サブリナ艦長は私の故郷のことを知っている。

 きっとソル・シリンジと聞いて動揺したことも見抜かれている。

 知っていてこの仕事から外さず、依頼実行のメンバーに残してくれたんだ。


 それに応えるために、私は次の仕事に全力を尽くすつもりだ。

 まずは、依頼内容の確認、っと。


「ええと、今度の仕事は……セルノマド星系か。聞いた事ないなあ」

「ああ? セルノマドだって? また随分辺鄙なとこ行くんだな」


 ピアーさんが声をかけてきた。

 かなりの博識ではあるんだけど、役に立たない話が多いんだよね。

 だから、あんまり積極的に話を聞きたいわけじゃないんだけど、今は少しでも情報が欲しい!


「ええ、ソル・シリンジが行われるのでアシュリーズはその監督と警備をするらしいです」

「ほう? よく受けたな。あれは、3年ごとにシリンジ・ロケットを打ち上げなきゃならないから、他の仕事がやりにくくなるんだが」


 確かにそうだ。

 今の技術だとソル・シリンジの実行には、3年ごとに4回のロケット打ち上げが必要。銀河連邦の科学技術開発部の努力により、1回分少ない打ち上げで太陽の若返りを達成できるようになっていたのだ。


 だが、次の打ち上げまでは3年待たなければいけないのは同じ。

 アシュリーズは監視業務を受けたわけだから、分艦隊で小さな仕事を受けたとしてもメインはこの星系に張り付いていなければならない。

 仕事内容に対する報酬としては悪くはないが、3年×4回の12年もここに張り付いているのでは効率が悪すぎる。となると近傍の星系から受注できる仕事を探すことになるのだが、とにかくこの辺は銀河の僻地なのだ。文明を持つ惑星を持つ星系は少ない。


「おかしいな」


 ピアーさんが慌ただしく端末を叩いて、今回の仕事の詳細を確認する。


「ん? どう言うことだ! この仕事最初の2回しかウチは受けてないぞ? 後の2回は連邦預かりのオプションだと?」

「オプション、って?」

「後の2回を受けるかどうかは銀河連邦が決める権利があるってことだ。うちにとっては不利じゃないか! なんでこんな依頼受けた!」


 そんなこと言われたってわからない。

 私はピアーさんの端末の詳細をスクロールして、報酬を確認したけど不当に安いと言えるものだった。

 アシュリーズが2回しか受けていないのなら拘束される年数は6年弱になるはずだが、それにしたって割に合う金額とは思えない。


「いや、この依頼内容に書かれていることだけじゃ何とも言えないが、何かあるな」

「何があるんです?」

「そりゃあ……わかんねぇけど」


 なあんだ。聞いて損した! 


 私はピアーさんとの話を打ち切って、研究棟に行ってみることにした。

 イシュタルさんに聞いてみることにしよう。


 何たって、技術部門の副官だもん、何か知ってるはず!

 『締め』と言うか、『下げ』と言うか……

 ともかく、最後の部分に手間取り、プロットがなかなか上がらなかったです。


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