表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 1 銀河の汚点がまた一ページ
6/46

それでもやるんだ艦隊戦 !?

 小惑星帯の上で行われていたことを見ていたのはアシュリーズだけではない。

 第二惑星パランスの政府軍の秘匿宇宙艦隊。

 その旗艦である空母ダブルウィッシュボーンの艦橋では、本当の首謀者であるアーク・ドイが怒り狂っていた。


「なんだ! あのザマは! ルイ! この落とし前はどうつけるつもりだ!」

「だっ、大丈夫でございます。この艦隊は奴らより高出力ですし、この空母から一斉に艦載機による飽和攻撃を掛ければたちまち蹴散らすことができます。はい」


 吃りながらも表向きの首謀者コーズ・ルイはそう答えた。

 アシュリーズの実力は計り知れず、本当は不安があるルイではあるが、今はそう答えるしかない。


「ふん。どうだかな……まあ、自信があるなら見せてもらおう。ワシは自室に下がる。戦闘についてはモニタで監視しているからな。指示があればそちらから出す」

「わっ、わかりました」


 アーク・ドイは艦橋から自室に戻ったふりをして格納庫へ向かう。

 

「もう、この星系じゃ稼ぐのは無理だ。捕まる前に高跳びするとしよう」


 乗り込んだのは非合法の高速艇エルマニヨン。

 航行力は抜群だがその燃料は星間汚染を引き起こす『宇宙を駆けるはた迷惑』である。


 この船は架空の運送会社エルマ宇宙運送船籍の貨物船なのだが、中は豪勢な居住空間になっている。

 見栄っ張りで事大主義、アーク・ドイの趣味丸出しの部屋だ。


 その自室に着いたアーク・ドイは、艦橋のコーズ・ルイに指示を飛ばした。


「アシュリーズとの戦闘だが、敵のいる第二惑星近傍と小惑星帯を重点的に哨戒しておけ」

「小惑星帯に? 最早、あそこには何もないはずです。マークする理由がわかりません!」

「バカ者! あの宙域は本艦隊から近い。奴らがもう一度出し抜こうとするならあそこに違いない! 散財する岩陰からの攻撃を受けたらどうするんだ!」

「わっ、わかりました!」


 それからコーズ・ルイは指令の通りに、偵察艇を発信させる。

 その指示が空母の自室ではなく、逃げ出す間際のエルマニヨンから出されたものだとは気付かずに。


「第二惑星方面、偵察機部隊発進。続いて小惑星方面、偵察機部隊発進……ん? 指令にない船の発進があります」

「なんだ?」

「エルマ宇宙運送船籍の貨物船です。故障により、本艦にとどまっていたものです」

「ふん、大方戦闘が怖くて逃げ出したんだろう。放っておけ」


 こうして、この事件の首謀者アーク・ドイはまんまと脱出したのであった。


 ◇


 第二惑星パランスの宇宙艦隊。

 これはもう政府軍ではなく正式な所属のない非正規宇宙艦隊だ。


 何せ、もう母星はこちらが抑えている。政府の高官はすでに逆らう気力はない。

 と言うことは、この艦隊は裏で政府を操っていた黒幕が率いている、ってことだ。


 いわば私兵。扱いとしては宇宙海賊みたいなものだ。


 しかし、この後に及んでまだやる気なのだろうか。

 彼我の戦力差は明らか。それでも敵艦隊はこちらに向かってくる。


 あっ、艦載機も出してきた。


「敵艦隊から小型機群が接近します。艦種分析……戦闘能力はG、船速はC、通信能力はD。全体的に能力は低いですが、おそらく偵察艇であると思われます」

「よし、上出来だ。イリア。艦長、どうします?」

「10,000kmまでは無視していいわ」


 脅威度は低い。

 だからこそ、私にそのまま通信業務を任せてくれていると思うんだけど、ね。


 これは、私にとってはチャンスだ。

 艦の観測機器のデータを拾い、ピックアップして解析機にかける。

 分析内容が……よし、いいぞ。期待通り。最初に立てた仮説が証明された。


 敵の脅威度を参考資料とともに報告した。


「的確だな。これなら次回も安心して任せられそうだ」


 嬉しい。褒められた。一人で戦闘管制がやれている!

 

 ……とは言っても、何かあった時のために、オーリンズ通信士長が待機しているんだけど。

 これじゃあ、”一人で艦隊管制を切り回している” とは言えないのか。



 そんなことを考えていると……


 3番艦(ペチコート)から入電。

 艦長が私を制した。自分で出るらしい。


「サブリナ艦長。敵艦隊から星系脱出速度を超える速さで小型艇が発進しています」

「ケリー。よく見つけたわね」


 通信と一緒にきたデータを確認すると、敵艦隊からこちらと反対方向に逃げ出す船がいたらしい。

 これを見つけるとは……サブリナ艦長が褒めるわけだ。


「キャサリン教授の病院船が小惑星帯に向かう途中で、観測ポッドをいくつか撒いておいたのですが、どうもそれが星間指定有害物質を検出したみたいなんです。その分布状況から船から出たものと推測されるので」

「なるほど。それで、その有害物質の量は?」

「航行の問題にはなりませんが見過ごすわけにもいかないです。その小型艇を追おうと思ったんですが……」

「わかったわ。今回は諦めましょう。有害物質については『影』にやらせるわ」

「了解しました」


 またしてもケリーちゃんのお手柄だけど、よくわからない通信だった。

 敵の艦隊から逃げ出した船がいたことと、その船が何か有害物質を撒いたのはわかる。


 けれど……


「艦長。『影』って何ですか?」

「ああ、まだイリアは知らなかったわね。この艦隊には『影の船』がいるのよ。でも、見習いのあなたには教えられたい機密なの。でも、もう少ししたらあなたには教えることになるかも知れない。それまでは秘密よ」

「わかりました」


 この艦隊について、まだまだ教えてもらえないことも多いみたい。

 信用がないのかな。ちょっと悔しいけど、まだ駆け出しだから仕方ない。


 気にしちゃダメだ。

 誰だって、何にだってそういうことはある。


 この艦橋にいるみんなは大好きだけど、全員と親しいわけじゃない。

 そして、その一人一人が一つぐらい、誰にも話せない秘密を持っていると思う。

 私だって知られたくないこと、話せないことがあるもの………


 ◇


 二時間後、艦隊戦が開始された。

 敵は二千機もの艦載機を投入。

 AI制御機が七割、有人機が三割だった。


 揚々と宇宙を進む空一面の戦闘機群。


 だが。



 戦闘開始から約十五分。

 2番艦(キャミソール)が妨害複合波を射出した。

 その途端、大量の艦載機はほとんど役立たずになっていた。


「干渉波、良好。敵戦闘機の挙動が安定しません」


 それは、政府軍には思いもよらない技術だった。

 電波、電磁波、レーザーなどあらゆる波長の電子武装攻撃波を全帯域で放出。

 それに抗する方法を持たない艦載機群は全て機体のコントロールを失ったのだ。


「脆すぎる。今時こんな単純な電波障害波で機能不全になる艦載機なんて信じられないわ。このままだと同志撃ちと暴走で全滅しかねないわ…………流石に有人機を全部堕とすわけにもいかない。ケリー、救援部隊を出して」

「わかりました。AI機はどうします?」

「撃墜してかまわない。とりあえずは敵とは言え、人命保護を最優先すること」

「了解です」


 3番艦(ペチコート)からも艦載機が発進した。

 円盤型の無人機なのだが、いつもと違うのは機体の下部に2本の棒が突き出ていていて先端が光っている。


 敵の艦載機群の中に次々と突っ込んでいっては、AI機を撃墜していく。

 そのうち、何機かは有人機を見つけると器用に砲塔と推進器だけを無効化した。

 そして、まるで磁石か何かで引っ掛けたみたいに敵機体を操り、ペチコートへ引き返していく。

 敵機はペチコートの艦底のハッチに放り込まれて内部にある捕獲ネットに捕らえられていった。


「あと五分で敵艦射程内に入ります」

「了解。ケリー。有人機の収容はどうなってる?」

「もう、まもなく。あと少し……あっ、終了信号来ました。ハッチを閉めましたので、ペチコートも高速機動が可能です」

「本当に流石ね。全艦高速機動準備」

「「了解」」


 サブリナの指令に対し、有人艦艇である2番艦キャミソールと3番艦ペチコートからは通信士からの音声応答があるが、その他の巡洋艦3隻と駆逐艦9隻はAI制御による無人艦であるので、指令受理確認通知がディスプレイに表示されるだけだ。


「幻影投射後、巡洋艦以外は高速機動にて敵艦隊の9時方向に移動。敵艦隊が追従し始めたところで、駆逐艦はさらに3時方向に移動」

「「了解」」


 それから艦隊は急速に敵に向かって左の方向に移動したが、敵艦は砲塔を旋回していない。

 幻影ホログラムが、元の位置に艦艇があるように見せているからだ。

 ちょっとマシな探知機構を備えていれば、こんな目眩しが通用するはずはないが、この艦隊の科学レベルではついてこれないようだ。


 アシュリーズの艦艇が全て敵に向かって左の位置に移動した時、幻影ホログラムは限界を迎えて消失する。

 敵艦隊は、やっと相手が移動したことを知って慌て始める。


 だが、その頃には駆逐艦隊はさらに敵の右手に移動を開始しているのだ。

 敵の正面をまっすぐ突っ切る大胆な艦隊行動も、敵に見つかることはない。


 幻影が功を奏し、敵艦のスコープにアシュリーズの駆逐艦隊は映らない。

 そのせいで絶好の的になりそうな艦隊はまんまと逃げおおせてしまう。


 三十分後、アシュリーズの包囲網が完成。

 敵の索敵技術は光学捜査、電波捜査、レーザー測距などが全て騙されてしまい、相手の艦艇のいる場所がわからず、艦首はバラバラの方を向いている。

 これではまともな砲撃が始められるわけがない。


 ◇


「敵艦が分裂しています。光学認識、レーザー測距、電波探知を使った索敵位置が一致しません!」

「何をバカな! 敵艦は見えているのだ。光学認識を優先しろ! 火力では我が方が有利なはずだ!」


 第二惑星パランスの政府宇宙軍改め海賊軍は、大混乱に陥っていた。

 旗艦空母ダブルウィッシュボーンから発進した艦載機は、ほとんどが撃墜または鹵獲されていた。


 観測員総出の必死な索敵レーザー走査で、アシュリーズの艦隊移動を一度は検知はしたものの、その後はまた目標喪失。

 あまりの高速移動と未知の技術による幻影が、索敵システム機構を翻弄していた。



 とうとう、戦艦ストラットが剛を煮やし、僚艦の位置を完全に無視したまま目視による発砲を開始。


「電磁加速砲、重力砲、荷電粒子砲それぞれ全力掃射。その後、3度ずつ砲塔旋回し、索敵に反応次第射撃継続」


 旗艦空母で指揮をとるコーズ・ルイはそれを見て、反撃が始まったと思ったのだが……



 無茶だった。

 僚艦が向いている方向も把握せず、砲塔を旋回しながらメクラ滅法撃ちまくっていれば、その結果は当然同士討ちである。


「護衛艦リーフスプリング被弾! 巡洋艦トランクリッド中破!」

「先行している船はいないのか?」

「戦艦マクファーソンがいます」

「よし、ではマクファーソンにやらせよう」


 ルイは戦艦ストラットを見限り、最後の一隻に託す。



 だが、その瞬間。

 頼みの戦艦マクファーソンから火の手が上がる。


「戦艦マクファーソン被弾。敵からの砲撃です。航行には問題ありませんが、主砲副砲とも光学砲損傷、ミサイルポッド使用不能。わずかな対空砲以外攻撃手段が……攻撃損耗率80%以上。ほぼ反撃不能です」

「ええい! では、戦艦ストラットはどうしてる? あれが味方を撃ってからおかしくなったんだ。責任を取らせる! 先行させて今度こそ敵艦を狙わせろ!」

「それが……ストラットは複数の僚艦から砲撃停止の緊急措置信号を受けていて、解除には時間がかかります」

「残っている砲撃可能艦は何隻だ!」

「はい……巡洋艦サイドシルおよび護衛艦数隻のみか、と」


 それならば、と再度戦艦ストラットを使おうかと思えば、僚艦からの停止命令で動けない始末。

 最後の最後、禁じ手を使うことを考えるルイ。


「クソゥゥゥゥ! とにかく戦艦ストラットの砲撃停止を解除しろ。それとこの空母の無人機を全て特攻させる!」

「そんなっ! 攻撃用の機体はほとんど残っていません。緊急脱出用を使うのですか!?」

「そうだ! 人の代わりに弾薬を積んでやれば、敵の装甲も打ち抜けるだろう」


 しかし、そんな特攻も無駄だった。

 戦艦ストラットは被弾し、マクファーソン同様戦闘不能。


 僚艦は次々に武装解除し、白旗をあげた。


「何故だ! ワシは降伏など認めておらんぞ! 撃て! 敵艦はもう近くにいるのだぞ!」

「もう無理です。司令官、私も部下をこれ以上失いたくありません。失礼します」


 コーズ・ルイは周りの兵たちに取り押さえられた。


「何をする! ワシを拘束するつもりか! 貴様っ! 軍法会議にかけてやる!」

「そんな権限はもうありませんよ。この船を降りたら、あなたに従う人はいないでしょう」

「ふっ、ふざけるなあぁぁぁ!!!」


 かくして第二惑星パランスの政府軍を名乗った非正規宇宙艦隊は降伏し、アシュリーズの仕事は終わった。


 気に入っていただけたなら、ブックマークと評価ポイント★を入れていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ