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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 1 銀河の汚点がまた一ページ
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進め! 病院コスプレ部隊!

 第二惑星の政府軍は隠しておいた艦隊を引っ張り出してきた。

 アシュリーズとの戦闘がもうすぐ始まる。


 だが、小惑星帯はすでに制圧されいて、第三惑星の坑夫達が強制労働させられている。

 その人たちを救うために艦隊の技術部門長キャサリン教授はとんでもない提案をしてきた。

 

 サブリナ艦長は、その話を聞いてしばらく呆れた顔をしていたが。


「まあ、それで第二惑星の地上部隊を出し抜けるなら悪くないかも知れないわね」

「そうでしょ、そうでしょ?」

「調子に乗らないの! それで、何か策があるの?」

「あるわヨォー、名案が」


 そう言ってキャサリン教授が話した作戦は、とても怪しいものだった。


 アシュリーズが受けた依頼は第三惑星フランカ政府からの依頼で、第二惑星パランス政府が不当に小惑星帯を襲い、鉱物を押収し、坑夫を強制労働させている件をどうにかして欲しい、と言うものだ。

 だが、最初に第二惑星の政府軍が小惑星帯に攻め入った時、第三惑星の坑夫たちはてっきり星系外からの敵からの攻撃だと思っていたので、母星の確認を取らずに怪我人についての救援依頼を銀河連邦に出していたのだ。

 その時に、死傷者が出ていることも通知している。

 

 そこで、アシュリーズが受けた依頼とは別口で、怪我人の救助に銀河連邦の派遣した病院船団が来たという想定。

 アシュリーズとは異なる組織の戦闘力がない病院船なら相手の油断を誘える。

 近づいてもすぐに攻撃はしないだろうし、逆に病院船団も乗っ取ってやろうと考えるはずだ。

 病院船は救急医療に対応するため高速で航続距離も長いので、逃げる際にもうってつけだからだ。


「けれど、その依頼は後から打ち消されているわよね?」

「ええ、でもそういう通信は届かなかったり、艦隊の出動と入れ違いになったりはするんじゃない?」

「呆れた。銀河連邦の手違いのせいにするつもりなの? バレたらただじゃ済まないわよ?」

「大丈夫よ。そんなもの。制圧したら最初からアシュリーズの病院船だと名乗れば良いんだもの。敵軍の証言ぐらいいくらでももみ消せるでしょ?」

「うーん、艦隊司令官としてはとても容認できないけれど、艦隊の財務を考えると仕方がないか」

「でしょう? 救助は連邦の貢献ポイント高いんだから!」


 艦隊の財務というのは、前回の仕事の赤字と今回の報酬のバランスについてだ。

 話し合いだけで済むなら経費がかからないから、貢献ポイントが少なくともまずまずの稼ぎになったのだが、艦隊戦をやるとなればミサイルなどの実体弾、艦載機の消耗、その他艦隊行動に係るエネルギー資源など出費が嵩むことになる。


 私たちのような民間宇宙艦隊が銀河連邦の依頼を受ける時、基本的に報酬は事前に決まっている。

 この仕事のように第二惑星と第三惑星のいざこざの場合は、普通の話し合いによる調停に応じればまずまず。

 今回のように敵対してきた場合には艦隊運用に金がかかり、その基本報酬額に多少色がつくだけであまり美味しい仕事とは言えない。


 ただし、イレギュラーな事態が発生している場合は、貢献ポイントという形で反映され、特に今回のような強襲を受けた小惑星上にいる第三惑星の坑夫たちを保護・救助した場合には、かなり大きな臨時収入が見込める。

 人命救助による貢献ポイントは非常においしいのだ。


 ◇


「こちら、銀河連邦から派遣された病院船団ナースターズです。緊急医療措置を行いますので、小惑星鉱山地帯に着陸します。当方は戦闘及び星系内の既得権益問題は関知致しませんので、敵対することはないようお願いいたします」

「了解。着陸を許可する。怪我人はそこそこいる。治してくれんなら助かるし、手出しはしない。けど、余計なマネをしたらわかってんだろうな?」

「問題ありません。医療行為以外を行う予定はありません。それでは着陸態勢に入ります」


 このやり取りは両方とも嘘だ。

 ナースターズと名乗ったのは当然我らがアシュリーズの上陸部隊の改造船だし、着陸を許可した第二惑星の部隊は病院船をそのまま返すつもりなどない。


「どいてどいて! まずは急患の治療が最優先よ!」

「おい! いきなり許可なく鉱山の採掘所に近づくんじゃねぇ!」

「邪魔だってば!」


 上陸するや否や、担架と救急機材を持って白衣の隊員が走っていく。

 第二惑星の部隊は最初呆気に取られ、次いで止めようとしたが突き飛ばされてしまった。


「ゴラァ! お前ら! 止まらないとブッ放すぞ!」

「待ってなんかいられないでしょ!」


 凄んで見せる第二惑星の部隊だが、救急隊はそれでも止まらない。

 突き飛ばされた男は遂にキレた。

 ハンドレーザーガンをナースの一人に向かって放った。


 だが、頭に直撃するはずのレーザーが弾かれる。


「へっ?」

「何すんのよ!」


 ナースが振り向いて体温計を投げつける。


 ズガァァァァン

 吹っ飛ぶ男たち。

 唖然とする一同。

 なんで体温計が大爆発する?


「野郎ぉぉ! 敵襲だあぁぁぁぁ! こいつら病院の連中じゃねぇぞぉぉぉ!」

「レーザーは効かねぇ! 実弾を使えぇぇぇ!」


 爆撃に備えて一度下がった部隊は、今度は白衣の男たちがまとまっているところにロケットランチャーをぶちかます。

 白衣の男は担架を盾のように構え着弾に備える。


 チュドドドドドォォォン

 爆炎が上がりあたり一面は煙で見えなくなる。

 だが、収まった後には無傷の白衣の一団。


「どうなってんだよ! あいつらは!…………うわぁぁぁぁ!」


 呆然とする敵部隊は、白衣の男たちが開けた鞄から取り出した正真正銘のハンドガンで吹っ飛ばされ、壊滅した。


 ◇


 ここはスリップの第一艦橋。

 小惑星帯での戦闘は全てモニターで映し出されていた。

 私はそれをイシュタルと見ていた。


「イシュタル。どうなってるんですか? ナース帽でレーザー弾いてましたけど」

「ああ、あれね? 基本的にはパランスに降りた時の海賊装束と同じよ。あの時の海賊帽にも同じ機能があるわ。ただ、担架とか体温計とか、変な小道具にやたらと機能を詰め込んでるのよねぇ」

「わからなかったのが担架でロケットランチャーの弾を弾き返したのですが、そんなことできるんですか?」

「弾き返すなんて無理よ。あれは力場を作ってるだけ。いわゆるバリアみたいなもんよ。手持ちの盾なんかいくら丈夫に作っても持ってる人が消し炭になっちゃうもの」

「はぁぁぁ、敵を欺くためにはいろいろ大変なんですねぇ」


 すると、サブリナ艦長が。


「違うわ、イリア。あれは単なるキャシーの趣味。本当にあの装備にいくら使っているのかしら?…………ところで、この戦闘を早く終わらせないと坑夫たちの治療が始められないわ」

「艦長。大丈夫ですよ。治療は治療でもう始まってるから。あれ本物も混じってますから」

「えっ! あの子達、戦闘員と救急部員を一緒に突入させたの? じゃあ、あの爆発する医療器具は?」

「そう言うギミック付きの装備を持ってるのは上陸戦上等の制圧部隊員だけですよ。医療部員が持ってるのは本物の医療器具です。ああ、あの担架だけは力場発生だけじゃなくて本来の目的に使えますけどね」

「呆れた! まあ、いいわ。それなら随分と救助も早く終わりそうね」


 私も随分病院船から降りてくる人数が多いな、とは思ったもの。

 アシュリーズの戦闘力は高い。

 第二惑星の部隊を制圧するならあんなにたくさんで押し寄せる必要はなかったと思ったら、医療部員たちも突入させられていたなんて。

 さぞかし怖い思いをしたと思う。


 わずか30分足らずで小惑星帯の第二惑星部隊は壊滅。

 速攻で制圧することができたので、死傷者はあまり多くはなく生き残りは全て捕縛された。


 収容が終わって全員が小惑星帯から離れたのは、着陸してからわずか3時間後であった。


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