エピローグ
私が乗り込んだシャトルが大気圏に突入した。
しかし若干Gがかかる以外には、宇宙空間を航行するときとあまり変わらない。
流石はアシュリーズの搭載船だ。
ここまで揺れが少ないのは技術力の高さのおかげなのだろう。
端末を開けば惑星の上空で行われている戦闘状況のモニターまでできてしまう。
まあ、すでに戦闘というより空中アトラクションみたいになっているが。
それが不意に止む。
地上の花火も消え、空に向けたサーチライトなども消灯している。
そんな中、作戦行動で指定されたこの星で最も都市が集中したエリアの上空千mにシャトルが停止する。
「ええ! こんな地上に近いとこまでくるの? これ下から砲撃されたらシャトルもヤバくない?」
「大丈夫よ。キャシーがそんなドジ踏むわけないから。さあ、開けるわよ」
「待って! 待ってったらあぁぁ!」
私のお願いも抵抗も全て無視されてシャトルが開いていった。
それと同時にシャトルの周りに虹色の照明が展開され、荘厳な音楽が鳴り響いていた。
「これ、誰がやってるの?」
「キャシーに決まってるじゃない。そろそろカメラ映像がスタートするから準備して。笑顔で手でも振ってくれる?」
何言ってるの?
抗議したかったけれど、シャトルが開いて空の真ん中に浮いているみたいになった。
力場展開されているのが分かったので、強風に煽られたり船から落ちたりすることはないと分かったので一安心だがやはり怖いものは怖い。
それにトレイシーくんが用意した十隻のシャトルもこの星の戦闘機や飛行船、ヘリなど全部が何もせず空中を旋回している。
「周りに攻撃されたりしない?」
「大丈夫よ。全部キャシーがハック完了しているから豆鉄砲一発打てやしないから」
「豆鉄炮、って……なんか、飛行船の操縦士さんとか慌ててるみたいだけど」
「あー、もうそんなのどうでもいいよ。キャシーが操ってるんだから落ちはしないよ。それじゃあ時間ないから。音楽が終わると同時にマイクがオンになるのでヨロシクゥ。3、2 、1、キュ〜」
イシュタル! あんたいつから放送局のディレクターになった?
うーん、正面に浮遊モニターがあって私の顔がアップになっている。
これ、この星の全ての電波と大都市スクリーンに展開されてるのかぁ、まいったな。
やるしかないか!
「皆さん、私は…… 私はイリア・ロゼ・フェリアル。今はもうないアルニラム星系第四惑星フェリアル王家の元第二王女です」
ワアァァァーーーーーー
地上の歓声がモニターから聞こえる。
メチャクチャ緊張する。
一応、敵意は感じられないな? 大丈夫みたい。
逆に歓迎されてる?
まあ、この分なら何とか続けられそうだ。
しかし、焦った。
カンペが打ち合わせと違うんだもの。
なんとか読み上げたけど、なんで名前が書き変わっているの!?
イリア・ベルクールではなく、かつての王女だった時の名前を言わされるとは思ってなかったよ。
浮遊モニターは地上の様子が次々に切り替わり、大広場、高層ビル周辺、学校、病院などあらゆるところが映されているが、物凄い大歓迎になっているようだ。
両手を突き上げている人、私の名前を呼ぶ人、土下座している人までいる。
うちわとかペンライトとか振ってる…………私アイドルじゃないんですけど。
それでここからはカンペの指示を見ると……『当初の原稿通りで。ただし、気品高く』って喧しいわ!!
「今、この星には危険が迫っています。この惑星の公転軌道は三つの恒星の影響を受けて五年以内に平均気温の急激な上昇により、生存が難しくなります」
オォォォォーーーーーー
本当に私の話聞いてる?
「アシュリーズはそれを警告するためにここに来ました。そして回避する方法を提供します」
ワアァァァーーーーーー
なんか物凄いたくさんの人たちが叫んでる。
手を合わせて拝んでる人までいるし。神様じゃないんだけどな。
「ですが、それにはこの星の皆さん全ての協力が必要です。お願いできますか?」
オォォォォーーーーーー
オォォォォーーーーーー
オォォォォーーーーーー
どうしてそこまで興奮するんだろう?
こんなに騒いでる理由って…………ああああ、これか。
浮遊モニターに私の乗るシャトルを正面から撮っている映像が映った。
なんとこのシャトルの後方に七色の光が展開されていて、まるっきり後光みたいになってる。
本当に神様扱いになってるんだ。
ん? 次のカンペが出た。
『優雅に挨拶してこのイベントを閉めろ』って…………もう、ヤケだよ。とことんやってやろう!
「銀河連邦を代表してアシュリーズのイリア・ロゼ・フェリアルがお知らせ致しました。この星の皆様をきっとお救いします。この困難を耐え抜き、また会える日までご創建であられますよう」
ワアァァァーーーーーー
私の乗っているシャトルのステージ部分が閉まり、七色の光が収まると他の全てのシャトルと共にゆっくりと雲の間を上っていく。
その様子を後で見せてもらったけれど感想としては、ゴンドラ結婚式の物凄く派手なヤツ、って感じだった。
こんなんでよかったのかなぁ。
◇
私がイシュタルに嵌められてやったあの派手なイベントは成功だった……らしい。
後日、キャミソールから上陸艦が地上に降りたった時、そこにあったのは最敬礼する政府関係者の姿だった。
それ以降は何の混乱もなく、すべての会合がスムーズに執り行なわれたのだ。
すでに訳のわからない態度や反抗心はなくなっている。
まあ、体に染み込んだ厨二病的な物言いが残ってはいるが。
これを解決したのがキャミソールの上陸部隊だった。
元々ジル艦長の部下たちは仮装大好き人間が多かったため、この星の人たちとは馬が合うようで普通なら奇異に受け取られる発言も平然と受け入れ、混乱することはなかった。
ただ、全部がうまく行ったわけではない。
確かに現地の人とこちらから出した人員が仲良くしてくれるのは一番なのであるが、その結果を受け取る方は大変だったのだ。
ことあるごとに厨二病セリフが満載の報告書を見たサブリナ艦長は頭を抱えていた。
議事録を読んでもこちらの意図が伝わっているのかが、ほとんどわからなかったからだ。
さもありなん。
結局、報告書から指示の伝達状況を確認することは諦め、分業制でその都度解決することで作業を進めることにした。
まず、折衝はキャミソールの上陸部隊が行う。
これによりこの星の人たちの了解を取り付け、作業を指示することができるようになった。
次に、作業の進行と監督をペチコートの部隊が請負うことになった。
都市を覆うドームの建設作業がこちらの意図した通りに進んでいるかをケリーちゃんの部下が進めていく。
うまくいかない時は、ペチコートの優秀な作業員が行う。
この星の人たちにやってもらうときは、キャミソールに連絡して内容を伝えてもらうことにしたのだ。
では、旗艦スリップはどうしていたか?
こちらは宇宙の作業を進めていた。
キャサリン教授が中心になり、例の『ヴァン・アレン帯のようなもの』の展開準備に余念がなかった。
「イリア」
「…………」
「イリア」
「…………」
「イリア、ってば!」
「…………何よ。私をまんまと嵌めてくれたイシュタルさん」
「あーーん、もう。そんなに怒んないでよ。それにメルフィナは許してどうして私は許してくれないわけ?」
「聞いたよ。今回の作戦立案の90%はキャサリン教授の一番弟子の仕業だって……」
あれから三日はイシュタルと口を聞かなかったけど、そろそろ許してやるか。
もっと面倒なこいつをどうにしかしないといけないし。
「そうですよ、イシュタル。もっとイリア様を敬わなければなりません。何か御用はありませんか、不祥このトレイシーが全てお引き受けします」
「あのねー、トレイシーさん。遜らなくていい、って言ったでしょ!」
「そんな! 私如きにさん付けなど要りません! トレイシーと呼び捨てに。何なら下僕でも犬でもお好きにお呼びください」
「艦長!! 助けてくださいよぉぉ…………!」
そう。
あのトレイシーくんの態度が思いっきり変わったのである。
私の過去が『本物の元王女』だって言うのが効いちゃったらしい。
毎日毎日「召使になりたい」とか「奉仕係を新設して私が就任する」とか鬱陶しくて仕方がない。
こんなんじゃ、無視されて嘲りの視線を向けてきたあの頃の方がマシ、ってもんだ。
どうやら事件は解決したが、私の平穏な日々はもう少し後になりそうだった。
◇
そんなことがあってから約三年。
アシュリーズ艦隊はこの惑星に留まり続け、都市を覆うドームは強化されて気温上昇に耐えられるようになった。
例の力場『ヴァン・アレン帯のようなもの』は展開完了済で当初の性能を上回る遮光性と遮温性を実現していた。
これはこの星の人たちの頑張りのお陰で、ドームの維持に使う動力の省力化から、余った動力資源をエネルギービームとして人工衛星に送信、力場の強化に利用することが可能になったからである。
ちなみにこの力場にはグレース・カーテンという呼び名がついた。
どうやら元王女である私にちなんでいるらしい………イヤだ、って言ったんだけど私以外の満場一致で決定。
みんな裏切り者だあぁぁぁ
……………まあ、それ以外は本当にうまく行ったの。
私は懸命に勉強した結果、見事1級亜空間通信士の資格を得ることができた。
この星はフェレスタと改めて命名され、銀河連邦の一員になることが決まった。
これからは教育に力を入れて、早く他の惑星に引けを取らない文明レベルに達するのが目標であるらしい。
びっくりしたのがあのトレイシーくん。
流石に私にずっと付き纏っていたのをサブリナ艦長に怒られ、心を入れ替えた。
なんと、旗艦スリップを自ら降りることを申し出、今後は三番艦ペチコートで一から修行すると言い出したのだ。
ケリーちゃんに詫びを入れ、ケリーちゃんも彼を受け入れて三番艦の次期正規通信士となるべく頑張っているらしい。
まあ、相変わらず私にはペコペコしてくるけれど、『イリアさん』と呼んでくれるようになった。
来月にはアシュリーズはこの星を離れる。
こんなに長くこの星と関わることになるとは思わなかった。
感慨深いものがあるけれど……………………
あぁ! もう! なんでまたっ!!
送迎会で私は『あの』シャトルに乗って全星民の前で挨拶、ってそれはないじゃない!?
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