表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 4 無責任艦長サブリナ?
44/46

作戦決行

 今日は朝から艦橋の様子が慌ただしい。

 艦内には人型の自立AIが何体かいるのだが、今日はその数がやけに多い。


「ピアーさん、何かあるんですか?」

「奴さんの作戦が急遽実施されることになったんだよ」

「それって昨日、大反対にあって中止されたんじゃあ……」

「それがな。全艦長が中止要請を取り下げたらしい」


 艦内では昨日の大反対などなかったかのように準備が進められている。

 既に十隻のシャトルは改修が済んでいていつでも出航が可能だ。

 司令艦である駆逐艦はすでに軌道上で作戦開始を待っている。


「でも、なんで艦長たちが揃いも揃って反対を取り下げたんでしょう?」

「詳しいことはわかんねーが、サブリナ艦長が動いたことには間違いねーな」


 まあ、そう言う事なんだろうな。

 思い当たる節がある。


 トレイシーくんの作戦準備はすでに整っていたが、同時にそれが失敗した時のイシュタルの作戦準備も万端なのだ。

 それをサブリナ艦長は知っている。


 これでいいのだろうか?

 何となくモヤモヤする気持ちを抱えながら、私は周りの様子を見ていた。


 私にはすることはない。

 いや、私だけじゃなく、彼以外誰もこの作戦に参加する予定がないのだ。


 指導係のはずの私を無視。

 ケリーちゃんを歳下と見下して、ジル艦長を無視し、キャサリン教授は目の敵だ。

 そして、影艦の艦長を三人とも嫌っている。


 当然、準備をするのは彼、一人である。

 人手が足りないところを人型の自立AIで賄っているのだ。

 誰とも連まず、上官に対しても不遜な態度をとってきた彼が、ここで助けを乞うはずもない。


 この作戦の成功率は低いと誰もが思っている。

 作戦内容も無謀だが、それ以上にやっかみもある。

 昨日の猛反対も半分は人間関係のせいだ。


 

 様子を見ているうちに準備は整ったらしい。

 一応、艦隊のルールであるから作戦案は全員にデータで配布される。


 早速、今日出てきた修正案を見せてもらったけど呆れたことにほとんど変わってない。

 サブリナ艦長もよく彼の作戦を通したなあ、と思う。


 再提出された作戦にOKが出た時は珍しく神妙な顔で敬礼していた、とオーリンズさんが言っていた。

 彼は不思議なことにサブリナ艦長に対する態度だけは真面目なのだ。



 私は気になったので、嫌味を言われることを覚悟で聞いてみた。


「今回の作戦、どうするの?」

「……ふん、心配しなくていい。作戦は修正済みだ。再提出して今度こそ実行の許可ももらっている」

「私も考えている作戦があるんだけど」

「不要だ」


 バッサリと切り捨ててきた。

 私の案なんて聞く価値もないと思ってるんだろうな。

 まあ、実際考えたのはイシュタル達で私じゃあないんだけど……


 ちょっと腹が立ってきたので意地悪をしてやろう。


「ねぇ」

「なんだ。これから忙しいのだが」

「その作戦が失敗したらどうするの?」

「!! 失敗などするものか!」

「でも、この前みんなに却下された作戦だよ。味方にさえ反対されたのに敵に受け入れられると思う?」

「うるさい!」


 こっちを睨みつけている。

 これ以上、言ったら本当に怒り出すだろう。


「答えてあげたら」

「えっ!」


 キャサリン教授が私たちの話に絡んできた。

 トレイシーくんは訝しそうな目で見ている。


「私も技術顧問として聞きたいものだわ。全ての作戦が必ず成功するとは限らない。今回の作戦もこの艦隊で今まで扱った中では難しい部類なのよ。どんなに準備をしてもの成功率は五割あればいいぐらい」

「それは! …………私も若輩者です。失敗することもあるでしょう。でも、そんな場合も必ずサブリナ艦長の指示や命令があれば必ず切り抜けられます。今までもそうだったでしょう? これまでの作戦行動の記録には目を通しましたから」


 ああ、やっぱりサブリナ艦長に対しての信頼だけは異様に高いな。

 なぜなんだろう。


「ほおぅ。やけにサブリナのことを信頼しているじゃない。その理由が聞きたいものだけれど」

「理由……ですか。それは……血です。あの方はこの艦隊をまとめているだけじゃなくて高貴な生まれなのです。それが人格と気品に現れている以上、僕の信頼が揺るぐことはありません」


 血? サブリナ艦長もひょっとして……貴族?

 そう言えばあのドレスも艦長の伝手があるから手に入れられたとかイシュタルが言ってたっけ。

 と言うことは…………うわぁ、そうだったんだ。


 でも……そういう基準で人に従うかどうか決めてたなんて、なんかイヤだなあ。

 これって、選民思想だよね。


 キャサリン教授が笑って……いや、怒っているように見える。


「ああそう。ふーん。血ね。その考え方は間違っていると思うけど……今回に限りうまくいくかも知れないわね。楽しみにしてるわ」


 そう言ってキャサリン教授は艦橋を出て行った。

 出がけに私の顔を見てニヤッ、と笑ったのが何か怖かった。


 ◇


 いよいよ、トレイシーくんの作戦が開始された。


 最初にこの星全体にあらゆる周波数帯で通信文を送信する。

 まず惑星に危険が迫っていること、それを回避するためにはアシュリーズ艦隊の指示を聞く以外に方法がないこと。


 それに対する山のような返信を全て無視して駆逐艦を大気圏ギリギリまで降下。

 そのまま監視体制に入る。


 用意した十隻の改造シャトルは大気圏突入の後、惑星の上空五千mまで降下させ、そこで待機させた。

 それは改造により銀河連邦の巡洋艦クラスに見える。

 まるで惑星に対する威力制圧を行っているかのようだ。


「わあぁぁ、凄いですね。本当に巡洋艦に見える。これだけの迫力があればこの星の人たちもビビって言うことを聞く気になるんじゃあないですか?」

「ハリボテだけどね」


 事前に地上には小型のドローンを下ろしてあり、地上から見る上空の様子がメインスクリーンに映し出されている。

 私は結構驚いたけれど、キャサリン教授はバカにして見ているようだ。


「でも、この星の人たちではこれがハリボテだとわからないんですよね?」

「そうね。でも、彼らに大きな艦隊が脅威であるという認識があるのかしら」


 サブリナ艦長はこの星の人たちは、大艦隊を恐れない、と思っているようだ。


 それを証明するかのように、惑星側から上空にいろんな機影が上がってきた。

 偵察機、戦闘機、ヘリやドローン、さらに民間の飛行船まで。


 だが、実際にアシュリーズの船に対抗して攻撃を仕掛けようとしているものはわずかで、ほとんどが通信や音声でよくわからない主義主張を喚いているだけだ。

 聞いていてもさっぱりわからないし、何を表そうとしているかも不明だ。


 例えば、巡洋艦の周りをクルクルと回っている飛行船には隈取りをした羊のマークがある。

 大きな毛筆ロゴでDevil Woolと書いてあるのはなんなんだろう?

 拡声器からは『従えぇぇ、羊の悪魔様がお出ましになるぞぉぉぉ』とバロック風の妙な音曲付きで繰り返している。


 彼の顔に動揺が見える。

 すでに想定外の事態なのだろう。


 上空にシャトルを展開したところで、科学力の差が歴然であることを認識して静かになると踏んでいたらしい。

 それがすっかりあてが外れてしまったために、第二のプランに移行することに決めたようだ。



 威嚇攻撃である。


 シャトルの砲門から攻撃力が低いレーザーが照射される。

 警告の意味を強めるために、わざわざ色付きのレーザーを戦闘機の至近に打ち込み、さらに球形の各都市の近傍に小型の焼夷弾を投下した。


「ちょっと何してるんですか! この星の住人を攻撃していいなんて艦長言ってない!」

「いいのよ、イリア。直接の被害は出ていない限りはね」


 戦闘状態になることを恐れて彼の行動を止めようとしたけど、サブリナ艦長はその必要がないと言う。


「その通りだ。邪魔をするなら第一艦橋から出ていけ!」


 私は何も言わなかったけれど、抗議のつもりでドンと乱暴に自席に座ってトレイシーくんを睨みつけた。

 それを立ったまま小馬鹿にしたような顔で見てきたのが憎らしい。


 だが、そんな余裕は長くは続かなかった。


 地上基地から離陸した攻撃機部隊の一部が、シャトルの上まで上昇し、何か薬剤のようなものを散布し始めたのだ。

 トレイシーくんは慌てて端末を操作し始める。

 シャトルの外部探知機能で状況の把握をするつもりだろう。


「ん? 何を蒔いた? 自動分析の結果は……ローリンデ鉱石か。大気成分分析によると……電磁波の影響は無視できるな。何をしたいのがよくわからん」


 すると今度は地上から、低出力なレーザーを打ち始めた。

 だが、その方向にシャトルは存在しない。仮に当たったとしても外装に跡も残らない程度の威力しかないが。


 ドドーン

 派手な音がして光が乱舞する。


「うわっ! なんだこの光はっ! 被害は? スペクトル分析の結果は? ……くそッ、ただの可視光じゃないか。それ以外は有害な電磁波も危険な熱源もほとんど感知できない。何をしたいんだ、全く!」


 それは敵を被害を与えるような熱も波動も爆風も起こすことはなく、綺麗に光り輝くだけ。

 散布した鉱石の粉末がレーザーに反応して空に花を咲かせるその様子は、まるで花火みたいだった。


 すると事態はさらに混迷の度合いを増していく。


 こちらの様子を見ていた飛行船は、妙な周回行動を取ったと思うとフラッシュを焚き、四方八方にサーチライトをぐるぐると放つ。

 地上では太鼓の音が鳴り響き、正真正銘の仕掛け花火が始まってしまった。

 人々の皆、外に出て拳を突き上げて喜んでいる。


 どこのフェスティバルだろう?


 もはや威嚇攻撃に意味はない。

 それから1時間の間続いた乱痴気騒ぎに、トレイシーくんは呆然とし何も手を打つことができなかった。


 そこにサブリナ艦長が近づく。


「トレイシー、もう十分よ。あなたは下がりなさい。駆逐艦は撤退させて。シャトルはそのままでいいわ。こちらで少し使いたいから。いいわね?」

「…………はい」


 トレイシーくんは駆逐艦に撤退命令を出すと、一礼して自席に沈み込むように座った。


「それじゃあ、次はイリアの番ね。支度にどれくらいかかる」

「えっ!」


 この状態で私にアレをやらせるつもりなのか?

 準備といっても着替えるくらいではあるのだけれど。

 この雰囲気で、って言うのは非常にツラい。


「私ちょっと……」


 断ろうと思い、そう言い始めたところでイシュタルが勝手に割り込んできた。


「一時間半いただけますか?」

「長すぎる。40秒で支度しな」

「無理です」

「わかってるわ。じゃあ、三十分」


 それでも短い。

 こんなゴテゴテした服、着るのがどれだけ大変か。


「イシュタル。ちょっと待ってよ」

「何言ってんの、イリア。ここが一番の見せ場よ。ほら、部屋でメルフィナとエイシャが待ってるから!」

「あーん、もう。わかったわよ!」


 私は急かされて、あのドレスと装飾品満載の着替え部屋に向かった。

 全ての支度が整うまで二十五分。

 そして、キャサリン教授が用意したスペシャル改造版シャトルに乗り込んだのがその4分後。


 用意されたシャトル内の私の席から簡易端末でサブリナ艦長に、通信を送る。

 しかし……なんというか、これまるっきり謁見の間の玉座だけど。


「発進準備OKです……って、メルフィナとエイシャ、何やってんの?」

「お付きの侍女に決まってるでしょ。イリアの着替えが最優先だったから、私たちは降下中に身支度してるのよ。イシュタルは操縦するだけだからいつもの服だけど」


 端末に呆れたサブリナ艦長の顔が映っている。


「なんとか間に合ったわね。その船だけだとちょっと地味だから、キャシーが残ってるシャトルを使って何かするみたいだけど、気にしないで予定通りやりなさい」

「えっ! あ、はい」


 作戦はイシュタルが引き継ぐらしい。そして、実際にこの星の人たちを説得するのは私なのだ。

 さらにキャサリン教授が残っているシャトルを使うと言うのだから、制御をすでにトレイシーくんの手から奪っているのだろうな。


 聞いてた話と違いすぎる!

 どうなるんだろう。

 気に入っていただけたなら、ブックマークと評価ポイント★を入れていただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ