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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 4 無責任艦長サブリナ?
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作戦と反対意見

「この作戦、マズイですよね。再提出させますか」

「なんで? 面白いじゃない。許可したわ」

「……マジですか」


 艦長はトレイシーくんの作戦書に許可を出した。


 貸与されるのは駆逐艦が一隻とシャトルが十隻。

 この前拒否された戦艦と巡洋艦からは、大幅な戦力ダウンである。


 確かにアシュリーズのシャトルは、惑星に侵攻するための強襲上陸艦として利用されることもあり、防御性能はある。

 この星の戦闘部隊が全力攻撃したとしても、耐え切ることは容易だ。


 単なる連絡用の脆弱な輸送機ではないから、危険はないと言える。

 だが、艦自体の武装についてはお世辞にも強力とは言えず、睨み合いになる可能性がある。



 そこで、彼はシャトル改造計画を立て、巨大なFCRP製の外装を追加した。

 つまり、大型艦に見せるかけて、相手を威圧しようというのだ。


 要するにハリボテである。ナメている。

 高度な索敵技術を持つ相手にはすぐに見破られるだろうが、この惑星の文明レベルなら誤認してビビるだろうという皮算用である。



 改装に二週間を要した。

 その完成に合わせトレイシーくんは、第一艦橋の自席を拡張した。

 まるで、大昔の一人作戦本部のようなモニター満載の厨二空間を作り上げたのである。


「艦長。あれ、いいんですか?」

「いいんじゃない? ほら、始まるみたいよ。イリアも自席について。彼の行動を監視するのはあなたの任務」


 振り返ると艦橋メインモニターにトレイシーくんの顔が大写しになっている。

 あらかじめ全体作戦行動の告知として許可を取っておいたんだと思うが、随分とアレな感だ。




 いよいよ作戦開始。


 一礼して、今日の作戦内容に関する口上を述べ始める。

 この通信は艦橋だけでなく、第二艦橋や居住棟、研究棟、倉庫それに他の船にも送られている。


「旗艦第一艦橋のジョン・トレイシーです。これからポラリス・コミューンに対し制圧作戦を敢行します」

「えっ! 何!?」

「艦長は許可したのか」

「けしからん!」

「まずいんじゃないの?」


 その一言で艦橋の皆がざわざわし始める。

 そりゃそうだ。通知でも説得でも警告でもなく、ハナから制圧すると言うのだから。


 中には立ちあがろうとした者もいる。

 しかし、それもサブリナ艦長が手で制すると、すぐに収まり彼の次の言葉を待った。



 トレイシーくんが写っている画像の端に、彼の端末に通知が来たことを表すランプが光っているのが見える。

 たくさんの通知やメッセージ、音声交信依頼が着信しているようだ。

 恐らく今の彼の発言に対する抗議なのだろう。

 中には作戦中止を具申するものも少なくないはず。


 だが、彼はそれを全て無視した。


 サブリナ艦長は黙って腕を組んでいる。

 そのまま最後までやらせるつもりなのだろう。


「何やら不満がある方が何人かいるようですが、これは事前にサブリナ艦長に許可を取り正式に了解を得た作戦です。抗議も意見も作戦終了までは受け付けません」


 非常に挑発的だ。

 これだけで随分と多くの敵を艦隊内に作ったはずなのだが、彼はそんなこと気にもしないのだろう。



 淡々と作戦内容を話し始める。

 同時にデータも送信。内容についての補足や近傍の宇宙図や作戦の予定タイムラインが全クルーに共有される。


 まず、この制圧作戦に参加する艦艇の紹介。

 駆逐艦一隻、シャトル十隻。

 それは事前に周知されたとおり。


 内容は以前と同じ『力押し』。


 ほとんどの人は眉を顰め、その動向を見守っている。

 トレイシーくんが強引に作戦を進めることはすでに予想されたことだからだ。


 

 この作品、大半は無理だろうと思っている。

 いくら文明が遅れているといっても、何発か撃てばハリボテがバレる。



 しかし、彼の表情には余裕がある。


 スクリーンにこの二週間で改造したシャトルを画面に映し出した。

 ほとんどの人は息を呑んでその姿を見ていた。


「ほんとにこれがシャトルなのか?」

「銀河連邦の標準戦艦並みの迫力があるぞ」


 確かにこの威容を見れば、この星の人間にとってはかなりの恐怖を植え付けられるはずだ。

 なんらかのリアクションがあるだろう。


 念の為、威嚇射撃でも行えば十分にチャンスがあると思わせるものがある。

 もちろん、地上に被害を与えるわけにはいかない。


 最初のインパクトが勝負のカギだ。



 これを受け取ったこの星の政府はどうするだろうか。

 恐らく『検討の時間をくれ』とかそういった類の反応をしてくるに違いない。


 そこで再度、降伏勧告を出す。


 これがトレイシーくんの作戦の全貌だった。




 だが、過去の銀河連邦の探査船からの報告によると、威嚇だけでは屈しないという報告も上がっている。

 それを考えると、単純に戦艦の威容を見せるだけでは、説得に失敗することも考えられる。


「もし、それに応じない場合、どうするのか」


 当然、そんな声が上がる。

 しかし、トレイシーくんはそんな意見も予想していたようだ。



 スクリーンに地上の施設が大写しになっている。

 かなり古ぼけた建造物だ。


「これは、移民船団がこの星に降りた時の廃棄ドームや旧居住スペースです。今は使われていません」

「そんなものを写してどうするんですか」

「撃ちます。すでに内部には爆薬を仕込んでありますから、シャトルからの弱いレーザーでも誘爆させることができます。この星の連中には戦艦の主砲で破壊されたように見えるでしょう」

「なんと!」


 そんな仕込みまでしていたのか。


 確かに、それらは無秩序に作られているために、恐らく詳細な記録などはない。

 誰のふところも痛まず、誰も怪我をすることもない方法を選んだとはいえる。



 でもいいのだろうか。

 生き抜くために何度も立て直し、そのたびに破棄されたこれらの建造物はこの惑星の歴史なのではないか。


「これ完全に銀河連邦の条約に違反してますよね」

「これは明かな侵略行為と考えられる」

「それに、今は不要な建造物だったとしても、相手からすれば貴重な文化財なのではないか」


 艦橋ではあーだこーだと抗議の声が上がる。

 しかし、トレイシーくんは余裕の表情である。


「この作戦については、今の降伏勧告から戦闘手順に至るまで全てサブリナ艦長に認可を得ています。拒否は許されません」

「なんだと!」「ふざけるな! 半人前が!!」


 もう収集がつかない状態になりつつある。

 そして、端末にも無視できない通知が三つ来ている。


 影艦トランクス、ブリーフ、ジョックストラップの艦長からだった。

 トレイシーくんの作戦中止要請である。

 この艦隊では、人命救助などの緊急時においては作戦の行使についてサブリナ艦長に最優先権があるが、緊急時以外の重要任務に相当する作戦に異議がある時は、戦艦六隻の艦長による投票が行われる。


 作戦の続行には全体の三分の二の賛成が必要である。

 今回の作戦中止要請もそれに該当し、このままではトレイシーくんの目論見は閉ざされることになる。


「トレイシー。反対意見が出ているわ。このままでは作戦実行は許可できない」

「サブリナ艦長! あなたは私の作戦を許可したじゃないですか! 最大の権限を持つあなたが命令すれば続行できるはずだ」

「そうはいかないわ。このアシュリーズでは、人の意見を無闇に握りつぶしたりしない。あなたは敵対しすぎたのよ。彼らを説得できなければこの作戦は中止よ…………でも、確かに許可を出したのは私だから、今日のところは保留。明日もう一度採決を取ることにしましょう。いいわね、トレイシー」

「…………わかりました」


 トレイシーくんは周りを見渡し、何か言おうとしてやめた。

 その唇はワナワナと震え、手にはクチャクチャに握られた作戦書。


 それを引きちぎり、ゴミ箱に投げ捨てると「作戦は中止する」

 そう言って自室に戻って行った。


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