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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 4 無責任艦長サブリナ?
33/46

知られざる移民惑星

 昨日はほとんど眠れなかった。

 まあ、オーリンズさんにあんなこと言われちゃねえ。


 朝から亜空間通信業務。

 準一級になってからは、シフトの割り当てが増えて自由な時間は減った。


 それまでは二級だったから、必ず通信士の付き添いがいた。

 シフトの割り当ては緩くて、随分と楽をさせてもらってたんだと気付く。


 自由な時間は減っちゃったけど、今は一人前として認められたことが嬉しい。



 それにしても眠い。

 もちろん、昨夜夜遅くまで起きていたのは、遊んでいたからじゃない!



 勉強ですよ、勉強。

 とにかく、じっとしていられなかった。


 過去問題集と自室でできるミニ端末のシミュレータでの亜空間通信練習をみっちり。

 一通りすませて時計を見たら、艦内時間で午前三時。


 業務に穴を開けるわけにいかないから、慌ててベッドに入ったんだけど流石に眠れなかったというわけ。



 今日から、トレイシーくんの指導だ。


 任された以上、責任を持って進めていきたい。

 成績は相手が何枚も上、今の私に何ができるかわからないが、同じ準一級通信士として負けたくない、って言う気持ちはあるんだ。



「おはよう、イリア」

「あっ、おはようございます。艦長」

「眠そうね。勉強もいいけどシフトも正規勤務者と同じになったのだから、業務に差し支えないようにしないとね」

「はーい」


 早速言われてしまった。

 気付かれないようにちゃんと顔洗ってシャキッとしてたつもりなんだけどなぁ。



 艦長にはいつも見透かされてるな。


「ところで、これから行く先についてなんだけど、ちょっと厄介なところなのよ」

「危険な赤色巨星やブラックホールが近いとかですか」

「いいえ、標準的な恒星よ。星系はポラリス。三重星だけれどそれ自体は珍しいものじゃないわ」


 故郷のフェリアルにいた頃は知らなかった事だけど、宇宙では重星というのは思ったより多い。

 全恒星の4分の1が重星らしい。


 大抵が二重星で三重星以上は重星の1割程度、さまざまな恒星系があるけれど全体の2、3%。

 そう考えると少ないみたいだけど、アシュリーズみたいに複数の銀河を超えて旅をしていると、確かに三重星ぐらいでは珍しいと思わなくなる。

 立ち寄ることはなくともそばを通過する星系はたくさんあるので、その時に確認すると実は重星だった、なんてことはザラ。


 でも、立ち寄る先としては初めてかも。

 しかも、北極星はかなりの有名な星だ。


「さっき調べて見ましたけど、確かにこれと言った特徴もない星なんですね。地球の人には特別らしいですけど」

「ええ、そうね。恒星としては平凡。でも、問題はそこにある惑星の方にあるのよ」

「どういうものなんですか?」

「それがね……」


 サブリナ艦長がそれから語ってくれたポラリスの惑星は、確かに厄介な問題を抱えていた。

 閉ざされた長い歴史の物語だ。


 ◇


 北極星は三重惑星であり三つの恒星といくつかの惑星。

 その一つは恒星とも惑星ともつかないホットジュピターである。


 ハビタブルゾーンに属する惑星は一つだけ。

 そして、その惑星には忘れられた人々が住んでいるのだった。


 遥か昔に15,000人あまりの移民達はこの過酷な惑星に辿り着き、なんとか生き抜いてきた。

 現在の人口は120万人。


 彼らは、遥か昔に地球を飛び立った移民船団の生き残り。


 事の起こりは、今から30世期以上前。

 地球環境は厳しくなってきており、人口に対して産業も経済もその繁栄を支えるには不十分であった。

 溢れる難民と貧困が人種差別と歴史上の怨恨により、あらゆる国がその大きすぎる問題を持て余していた。


 そこにあるプロジェクトが提案される。

 『難民に夢を』と言う口当たりの良いプロパガンダが持ち上がり、それは悪い方へと活用された。


 “地球で苦労している難民も宇宙の民となれば、自分たちの自由な国が作れる” という何の根拠もないスローガンで、多数のロケットが作って外宇宙に移民させる計画が持ち上がった。

 それを推進していたのは、難民問題に苦慮する政治家と予算が取れない科学者達の血塗られた手によってである。


 確かに当時の地球上に、難民が暮らせる場所はなかった。

 難民を受け入れ、税金を使って食わしていく財政の余裕がある国は少ない。


 人種問題、教育問題、そして何より難しい就職口の斡旋。

 単純労働職を用意すれば人種差別と叩かれ、政治家もおいそれと救いの手を差し出すことができなかった。


 元々難民を救いたいという慈愛に満ちた政治家は少なく、仮にそんな者がいたとしても余程の手腕と国力さらに権力を持っていなければ難民受け入れなどできはしない。



 その状況を利用したのが、科学者たちである。

 幸いにして、経済援助のための資金は各国から出ており、何か適当な手段があればそれを利用することが可能だった。


 そこで、『難民を外宇宙に移民させることで救おう』という前代未聞のプロジェクトが立ち上げられたのである。


 この当時、すでにシャトルなどで宇宙に行く技術は確立されてはいたものの、外宇宙まで行くことはほぼ不可能だったにも関わらず、である。



 そんな状況の元、外宇宙航行用の宇宙飛行船が建造されることになった。


 小惑星帯から資材を運搬。

 地球と月の軌道港にある工場で安価な宇宙船を建造する。


 しかし、その船には大きな動力源となるロケットエンジンが搭載されていない。

 外宇宙に行くノウハウもなく、どんな状況であるかを調べることもできず、作られた船はただ広いだけの脆弱なもの。

 要するにその宇宙船とは、馬に引かれる馬車、機関車に続くコンテナ車、そういうものに近い代物だった。


 当時はまだ光速を超えることができない。

 すなわち、移民たちは生きているうちに移民先の星にたどり着くことを想定されていなかった。

 その宇宙船の中で代替わりすることを前提としていた。



 しかも、この宇宙船では一つ明確に手を抜いたところがある。

 それは当時の最新鋭の通信機を搭載しなかったことだ。


 太陽系をやっと抜ける頃には、地球との通信はできなくなる。

 すなわちカイパーベルトを無事通り過ぎられるか、船の運行に支障がないかを地球では把握できなかった……いや、把握しようともしなかったのだ。

 最初の10年で太陽系を抜けた宇宙船はゼロ。

 次の10年でも一割に満たないと言うことがわかったのは、それから一世紀以上経った後のことである。



 これは本当に酷い仕打ちであることは、計画が実行されて20年後に明らかになる。

 最初の10年では、実に打ち上げたロケットの8割が木星軌道に辿り着くまでに爆発炎上。

 だが科学者も政治家もその事実をひた隠した。


 民間の施設で把握されてしまった内容については、原因究明という名の言い訳探しが始まり、その結論はほとんど操縦者の判断ミスとされていた。

 これは巧妙な罠であり、自分たちに累が及ばないように考えられた責任逃れなのだ。

 難民船には難民が乗っているわけであり、当然それを操縦するのは難民である。


 標準的な宇宙飛行士としての訓練は受けさせるものの、それは当然外宇宙を旅するに十分なものではない。

 そしてそれ以前にその宇宙船が外宇宙に行くには技術、強度、計画、その全てが欠けているのだ。


 つまり『ミスをしたのは難民の操縦者である』という隠れ蓑を使うことによって未熟なロケット造船技術を隠した。

 ロケット事業を継続させて、ほとんどの船が木星を抜けられるようになったことを『操縦士が育った成果』としたのである。


 その責任逃れのために開発に携わった科学者は半分以上が難民から選出されてはいたのだが、その中枢部分の設計については決して触れさせなかった。

 そこを知られてしまえば、その船がとても外宇宙に向かうことなどできないとわかってしまうからだ。


 技術的原因で爆発した船についても、難民の技術者が関わったことでいわば自業自得という風に装うことができる。

 設計者のミスと判明したとしてもそれは難民の技術者を含めた共同責任となる。


 実際に肝心なことを何も知らないまま責任だけを取らされた未開国の科学者はたくさん存在した。


 その後の10年では、少なからず進歩した技術で、だんだん遠くまで事故を起こさずに進むことができるようにはなったのだが、それでも

ほとんどの船は太陽系の引力圏を抜けることはなかった。


 ◇


「酷い話ですね。私の故郷もそうでしたけど、どうしてそんな科学者が多いんでしょうか?」

「そうね。それは私の後ろにいる彼女に聞いてみたら?」


 あっ、やばい。

 サブリナ艦長の後ろにいたのはキャサリン教授だった。


「いっ、いいえ! 別にキャサリン教授が酷い人だとは思ってませんよぉ」

「あらっ? 私を酷い人間だとは思ってなかったんだ! あなたもお人好しね」

「そうね。キャシーのやってることを考えたら確かに酷い仕打ちだと思えることがたくさんあるわね」

「何よー。私のやったこと、ってサブリナも大体絡んでるじゃない!」


 あー、そうなんだぁ。

 これもうどうやってフォロー入れたらいいかわかんないなあ。


「ほら、見なさいよ。イリアがドン引きしちゃってるわ」

「いえいえ、そんなことないですよ。それより、その北極星に向かった移民の話の続きを聞かせて下さいよ」


 私はそう言って誤魔化しつつも、その移民のことがだんだん気になりだしていた。

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