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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 3 艦長は無慈悲な夜の女王
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エピローグ

 アシュリーズは、ベテルギウスから離れつつあった。


 普段は行わない中規模のワープで、である。

 このワープは使い勝手が悪く、ショートジャンプのように1日に数十回使えるわけでもなく、ロングジャンプのように10光年以上飛ぶわけでもない。

 そのクセ一日に使える回数はロングジャンプと変わらない。こう言ういつもと違うことをする時は、実行前に全クルー宛に通知があり、その中で概要説明が記されるのが通例だ。


 今回もそんな感じで。

 えー、っとなになに?


    今回中規模ジャンプを行う目的は、ベテルギウスの重力圏に

   あるバウショックの弧状圏内を通常航行で通過するリスクを減

   らすためである。

    同時に外部不確定要因に対し、若干の不安があるロングジャ

   ンプを回避する。


 なるほど。

 これを飛び越えたいのは確かだが、下手にロングジャンプをして何か影響があるとイヤなので、とりあえずこの領域を超えることを目的に安全な三光年程度のジャンプで済ますことにした、ってことかぁ。



「ウソよ。それ」

「へっ?」


 キャサリン教授だ。

 私の独り言を聞いていたらしい。


「本当は本当は大したことないのよ、バウショックなんて。通常航行でこの船が痛むことはないし、ロングジャンプで影響が出ることもありえない」

「それじゃあ、どうして……」

「それは、後ろのサブリナ(親分)に聞いてみて」


 あっ、サブリナ艦長がいる。

 この二人なんだかんだでいつも一緒にいるな。


「キャシー。イリアの前で私を親分と呼ぶのをやめなさい」

「だって、親分じゃない」

「もー……まあ、いいわ。イリア。このジャンプの本当の目的を話す前にいままでのことを考えて見て」

「ベテルギウスに来てからですか?」

「もう少し前」


 何だろう?

 この記憶の底に引っかかる感じは。

 大切な何かを見落としているような。


 慎重に。慎重に。よく考えて。


 今回の習熟訓練の前。

 それでいて、今回の一連の事柄の始まりというと。


「アークトゥールス……」

「ご名答。では、あの時何があった? 何か感じたところ、気になったところはない?」



 思い出せ。


 まず、銀河連邦から緊急依頼があった。

 それはいいだろう。

 依頼内容に不審な点はない。


 現場についてからはどうだろう。

 すでに戦闘が開始されていた。


 なぜだ?

 ……あっ!


「思い出しました。あそこでデネボラ星系近傍の政府の研究視察船団とスピカ星系の運輸会社がなぜ争わなければならなかったか? その理由がわかりませんでした。航路を譲かどうかであんな大規模な戦闘行為が行われるのが不思議だったんです」

「そうね。それがきっかけになるわ。そこから、もう少し考えてみて」


 そこから?

 そこからは納得がいかないことというと……


 仲裁に入ったが両軍とも引こうとしなかった。

 ジル艦長が威嚇射撃に失敗して、スピカの輸送船団の一隻に着弾して……失敗? あの宙域の状態か!


「わかりました。あの時ケリーちゃんが、直進性が保てないと言ってましたから、それを把握せずに威嚇をしようとしたジル艦長には確かに落ち度があります。けれど、それだけじゃないんじゃないか、と」

「具体的には」

「あの時、私は事後処理も担当しましたから、キャミソールが誤射した時の宙域のデータも見たんです。すると、あそこは思った以上に不思議で不安定でした。とても航行を目的に船団が通るところじゃなかったんです」

「上出来よ。キャシー、イリアに調査結果を見せてあげて」

「はい、これよ」


 バサッ、と印刷されたデータを渡された。

 紙? なんで今どき紙の資料なの?


「今回の謎はちょっとばかりヤバい連中が関わっていることがわかってね。最悪、アシュリーズの中に敵のスパイが潜んでいる可能性もあったのよ。まあ、人の心配というよりはAIによるウィルスやハッキングを気にしてのことだけどね」


 うわぁ、そこまで。

 でも、確かにキャミソールの誤射が、何らかの人為的なものとと考えるなら慎重にもなるだろう。

 内部の犯行を疑うなら、全員に無条件に共有される船内の計器データは使えない。

 索敵して船の位置がわかったりすれば、筒抜けになってしまう可能性がある。


 だとすると……


「それじゃあ、この紙の資料はどうやって?」

「大変だったのよ。今時、完全スタンドアロンのハンドヘルドコンピュータで、ちまちま印刷してそれだけの資料を揃えるのは」

「いや、それもそうなんですけど、なんでドローンに敵艦のデータがあるんですか? 私、全機のチェックしてたからこんな飛行データを見落とすはずがないんですけど」


 そこだけは自信がある。


「その機体番号を見て」

「機体番号……あっ、これベテルギウスで最初にロストした奴の番号です。もしかして……」

「そうよ。あの最初の一機はわざとコントロールを失わせ、ハートビートを打ち切るように細工をしておいた。そして、密かに二番艦(キャミソール)のニキシー菅の間に格納した。ワープに耐えられるようにね」

「あの装備、そんなこともできるんですか」


 あのドローンは壊れてたように見せかけていたのか。

 そう言うことならば、この情報が得られたのもわかる。


 ドローンはアシュリーズの周りをずっと偵察して回っていたのだ。

 資料には、ドローンの偵察記録が延々と記載されていた。


 それによると、ベテルギウスには敵の偵察艦がいたことになる。

 旗艦の索敵網も強力ではあるが、あのベテルギウスの輻射熱のせいで見つけることはできない。

 至近距離にいたドローンによってのみ、捕えることができる情報だったのだ。


 それをキャサリン教授は内部の犯行の線を捨てきれなかったので、敵を見つけても戦艦に伝えないようにしていた。

 存在を隠したたった一機だけのドローンに記録させたのである。


 一旦、中規模ワープのためにキャミソールに戻った時に、キャサリンは密かにデータを収集していた。

 そして、偵察記録は中規模ワープの後に再偵察に出てしばらくして音信を絶っている。

 最後に攻撃を受けたというデータを送り届けて。


「ケリーです。アシュリーズに向かってくる不審な船団があります。こちらからの応答には答えません。現在、各艦のID確認中」


 端末を見るとすでに判明したGCUISジクイスのIDがペチコートから順々に送られてきている。

 これは!


三番艦(ペチコート)から送られている船のIDは、全てアークトゥルスであった船団の船です。デネボラ星系近傍の政府の研究視察船団と……スピカ星系の運輸会社のものもあります! あっ、攻撃を受けたドローンが最後に発したIDまで。どうして! まさか!!」

「イリア、躊躇っている暇も考えている暇もないわ。オーリンズ、艦隊通信掌握。イリアはサポートに入って」

「りょ、了解!

「全艦A級戦闘体制。ジル。先行して」

「待ってましたぁ」


 全艦A級戦闘体制。

 本気も本気のアシュリーズの全力を出すのだ。

 艦隊全体の通信は流石にやらせてもらえない。


 ううん。

 それには不満はない。

 ここはオーリンズ通信士長が受け持つのが当たり前。

 私はサポートに入れるだけでも満足だ、今は。


 目の前を加速していく大戦艦がある。

 先陣を切るのは、この相手に因縁がある二番艦(キャミソール)だ。


「キャミソールはバリア展開、砲撃は用意のまま」

「了解」


 すでに、先行したキャミソールからすれば、敵は射程内にいるがまだ撃たない。

 逆に敵からの光学兵器が発射されている。


「キャミソールに敵の光学兵器による攻撃、脅威度B+」

「了解。進路このまま」


 脅威度B+。

 銀河連邦の標準宇宙戦艦でもこの攻撃にさらされれば、航行不能になりかねないほどの威力だ。

 それを退避することなく正面から受けるつもりらしい。


 だが、キャミソールはそれに耐え切る。

 戦艦の本体に当たる前に、収束したその光はニキシー菅に吸い込まれ消失した。


「第二射、来ます」

「了解。弾着次第、反撃に移れ」


 敵の第二射を受けてから反撃するつもりのようだ。

 しかし、攻撃手段については何も言わないのはなぜだろう?


「キャミソールに敵の弾着を確認。被害なし」

「ジル。全力掃射を許可する」

「了解、射撃(ファイアー)


 キャミソールから光束が広がり、それは途中で見たことのあるフラクタル図形のような計算された不自然さを伴っていた。

 しかも、威力が格段に上がっている!


「サブリナ艦長。これって……」

「ええ、アークトゥルスの時と同じよ。ただし、あれは敵の仕業でできたものだけど、今回はわざとこうなるようにニキシー菅にプログラムしてあるわ」


 その光束は敵の艦隊に襲いかかり、砲塔と船尾のエンジン出力部に食らいついていった。

 ほぼ同時に火の手が上がる。


「敵艦炎上! ほぼ全艦航行不能です」

「OK 降伏勧告を出して」

「了解しました」


 電文で降伏勧告を送ると敵艦からはすぐに返事があった。

 降伏する、と。


 同時に救出要請があり、アシュリーズは敵艦に接舷して首謀者を捕えることができた。


 アーク・ドイ


 私はその名前をどこかで聞いたような気がしていた。


 ◇


 やっと事件が片付いて数時間。

 今はもう夜の時間帯。

 改めて今回の一連の事柄についての会議が開かれた。

 ただし、正式なものではなく、いつものメンバーで半分は打ち上げのようなものだ。


「つまり、あのアークトゥルスの戦闘はアシュリーズを狙った罠だったのよ」

「罠?」

「そう。つまりあの二つの艦隊は最初から戦闘なんかしていなかった」

「でも、確かに両方の艦隊に被害艦がありましたよ?」

「それはわざとよ。それが証拠に被害があったのは旧式艦ばかりだったでしょ? 壊れても惜しくない艦艇ばかりと言うわけ」

「ああ、なるほど。私は旧式の船だから性能が悪くて被弾したとばかり思ってました」

「それだとキャミソールも旧式、ってことになっちゃうでしょ」


 言われてみればそうだ。

 あの戦闘では、艦船の性能が多少良くても関係ないくらい強力な武器が使われていた。

 被害艦が旧式ばかりと言うのは変だ。


「でも、なんでアシュリーズが狙われたんですか?」

「首謀者の名前に聞き覚えがない?」

「ああ、アーク・ドイですね。確かにどこかで聞いたような……」

「ベガⅡ星系」

「えっ? あっ、あーーーーそうだぁ、あの時の逃げた船!」


 ベガⅡ星系

 私がアシュリーズで最初に担当させてもらった仕事だった。

 小惑星帯のトラブル調停のために行ったはずだったのに、第二惑星パランス政府に抵抗されて小惑星帯では人質を取られたんだった。


 あの時は、あの病院船コスプレの印象が強くて、その後のことをすっかり忘れていたのだ。

 最後の艦隊戦で逃げ出した船が一隻あったことを。

 その船に乗っていた首謀者の名前がアーク・ドイだったことを。


「仕返しだったんですね」

「そうよ。あのアークトゥルスの戦闘はアシュリーズを引っ掛けるための茶番だった」

「あの両艦隊でアシュリーズを沈めるつもりだったんですか?」

「どうでしょうね。彼我の戦力差を比べればおそらくは違う。せいぜい、何とか付け入る隙を掴むきっかけになれば、ぐらいだったはずよ」

「それがキャミソールの被弾で、本当にきっかけになっちゃった、ってわけですか」


 ジル艦長がそれを聞いて罰の悪そうな顔をしている。

 自分のミスがきっかけだとすれば、また怒られるからだろう。


 それを知ってか知らずかサブリナ艦長は。


「今回の一連の事件で、銀河連邦からは幾らか報酬が出ている。正確にはアークトゥルスの件で貰い損なった報酬が帰ってきた、って感じなんだけど」

「と言うことはサブリナ。私のお咎めもこれでなし、ってことね?」

「何言ってるの? ジル。元はと言えばアークトゥルスで確認を怠ったからこんなことになったのでしょう?」

「そりゃあ、そうだけど」

「それにベテルギウスのテスト失敗のこともあるし」


 あー、ジル艦長。

 やっぱり怒られるんだ。


「それにイリア」

「はっ、はい」

「あなたにも今回は罰を受けてもらうわよ。いくつかのミスもあるけど、第三格納庫からドックに行く時に許可は取ったの?」

「確か軌道港には行っていいと聞いてたんですけど」

「それじゃあ、その行った時の自分の当直当番は?」

「あっ!」


 そうだった。

 あの時の当直を誰かに代わってもらうのをすっかり忘れてたんだ。

 後で聞いたら、ピアーさんが艦橋に残ってくれてたって話だったんだけど。


「確かにあの時はピアーが艦橋にいたけれど、彼には通信士の資格はないわ。それに半分寝ていたし。結局途中からオーリンズが詰めてくれていたのよ」


 げっ! そんなことになってたんだ。


「二人に罰を与えます。まず、ジル」

「はい!」

「新装備の習熟訓練を120時間。索敵モードをみっちりとね」

「さっ、索敵…………そんな殺生な!」

「次、イリア」

「はい!」

「艦橋の横にある格納スペースにしまってあるアレを没収します」

「えーーーーー!」


 あれはイシュタルと買ってきた軌道港のお土産。

 みんなに配った分とは分けておいた自分の分がパー。


 その日、私とジル艦長はサブリナ艦長に許しを乞おうと散々頼んだのだが、お慈悲は最後までなかったのだった。



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