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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 3 艦長は無慈悲な夜の女王
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プロローグ

 episode3 です。

 できる限り、本エピソードについては連日投稿します。

「本当ですか! やった嬉しい!」

「ああ、よく頑張ったね。これでイリアも準一級亜空間無線技師だ」


 私は宇宙通信士の試験に合格した。

 まず祝ってくれたのは、上司であるオーリンズ通信士長。


 一人前と言われるにはまだまだだけど、とりあえず今年立てた目標の一つがクリアできた。

 これで第一間艦橋の通信士シフトが楽になるのだ。


 夜間の主業務である亜空間通信を一人で担当できるのだから。

 今までは夜勤の時に、誰かに横にいてもらわないといけなかったので、申し訳なくて……



 まあ、もう一つの通信士の大事な仕事である星系ごとの通信設定は一級を取らないとできない。

 そういう意味では、まだまだではあるんだけど……答案の採点シートをディスプレイで見ていると、どうしても顔がニヤついてしまう。

 そこには合格を示す『PASS』の4文字が大きく表示されている。



 今は暇、この時間帯は定期連絡もないし、気になる艦影も数光年以内にはない。


 さて、コーヒーでも淹れようかな、と思ってたらドヤドヤと人が入ってきた。

 サブリナ艦長とメルフィナ、イシュタルも。


「おめでとう」

「やったわね」

「勉強してたもんねー」

「ありがとう」


 ああ、合格のお祝いをしにきてくれたんだ。

 うわぁ、花束まで用意して。


「よしっ、そんじゃあ、嬢ちゃんの合格を祝って今夜は宴会にすっかねー」

「ピアーさん、それは自分が飲みたいだけでしょう?」

「そっ、そんなことねーよ。飲むだけなら一人でだってできるし……まあ、何にしてもこれで半人前ぐらいにはなった、ってーことだ。おめでとサン!」

「あっ、ありがとうございます!」


 半人前かあ。

 それは憎まれ口ではあるけれど、あながち間違いとは言えない。



 でも、それだっていいよ!

 嬉しいことには変わりはない!

 

 それにピアーさんには恩もあるんだ。

 勉強していた時、いろいろと教えてくれたし。

 まあ、役に立つかどうかは微妙なこぼれ話みたいなのが多かったけど、それで複雑な試験項目が頭に入ったこともあった。


 一通り、お礼を言ってみんなが帰っていくところで、サブリナ艦長が声をかけてきた。


「イリア。実は準一級通信士の資格を得られた時にアシュリーズでは、特別講習を受けてもらうことになっているの。この後、時間ある?」

「はい。当直も今日はありませんし、ミーティングも入っていません」

「そう。それじゃ、後で」


 何だろう? 聞いたことないな。講習があるなんて。

 そう言うのがあるのなら、オーリンズさんが事前に言ってくれそうなもんだけど……


 私は自席の端末を閉じ、ロックをかけてから艦長室に向かった。


 ◇


「来たわね。まあ、座って」

「はい……それで、特別講習、って…………」

「そうね。その話をこれからするのだけれど、ちょっと待ってもらえるかしら」

「はっ、はい」


 サブリナ艦長は部屋のモード変更ボタンを押した。

 艦長室の窓はシャッターが下ろされ、部屋のドアがロックされる。



 まただ。

 この部屋は周りから厳重に隔離された。

 中からも外からも容易にアクセスすることはできない。


「また、銀河連邦の特A級の秘密ですか?」

「いえ、今回の話はそれとは関係ないわ。重要度は………難しいわね。少なくともアシュリーズに取っては、非常に重要。だけど、艦隊の中で、このことを知っている人数はかなりいるわ。少なくともアシュリーズの各戦艦第一艦橋にいる全員。あなた以外ね」


 そうなんだ。

 私だけ知らなかったんだ。


 それにしても第一艦橋のみって……

 それじゃあ、生活班や地上部隊の人たちは知らないことなんだ!


「それって、作戦に関係ありますか?」

「あるわ。すでにあの小惑星帯のトラブル調停の時も、ソル・シリンジ阻止の時にも名前を聞いているはず。今から話すのは『影艦』についてのこと」

「それ、気になっていたんです。影艦って一体何なんですか?」

「そうね。どこから話しましょうか」


 そう言ってサブリナ艦長は端末をONにした。

 画面はイリアの知らないモード画面に遷移し、マトリックス図が表示される。


 縦には一番艦スリップ、ニ番艦キャミソール、三番艦ペチコートという主力艦名があり、

 横には第一艦橋、第二艦橋、側面開口部、船尾開口部、船底開口部。

 要するに全部窓があり、艦内から外が見える部署ばかりが表示されている。


 隣には、近傍のセンサーが精密モードで全天走査した結果も。

 本艦を中心に200万km以内の艦船を捉えることができるという超解像度。


 通常は、ここまで詳細な探索はしない。

 起動するだけで、私の給料三ヶ月分ぐらいのお金が飛ぶからね。


 結果から言えば、我らがアシュリーズの主力三隻以外に確認された宇宙船はゼロ。

 それはもうわかってる。



 私は、サブリナ艦長が中々話に入らないことに、焦りを感じていた。


 なんで、こんな超細密近傍走査図を表示しているの?

 これから何を言われるの?

 どうして説明を始めてくれないの?


「ごめんなさい。イリア。あなたにそんな顔させるつもりじゃなかったの…………いいわ、あれこれ説明するより見てもらった方がいいと思って。あとちょっとだけ待って」

「はい」



 これから何かが始まる。

 窓の外は闇、艦長が端末を操作する音だけが静かに響く――。


 スクリーンに映るマトリックス図が変化していく。


 全艦の第一艦橋以外の部署をグレーアウト。

 それと同期して、窓の外に見える二番艦、三番艦それぞれの第一艦橋以外の窓が閉じていく。

 これで各艦の第一艦橋以外からは、窓の外が見えなくなったわけだ。


 生活班や二種以下のアシュリーズ乗組員には見せたくない何かがあるということ。



 各艦の第一艦橋だけは、表示されたままだが、一番艦と三番艦は緑、二番艦は赤に色分けされている。

 二番艦だけ色が違うのは、何の意味があるんだろう。


 サブリナ艦長が通信機を取った。


「ジル。影を外に出すわ。用意を急いで」

「あっ、ああああ! はい。今すぐ!」


 慌てた二番艦艦長ジルが、何かパネルを操作するとスクリーン表示が変わる。

 これで、主力三艦の第一艦橋の表示が全て緑になった。



 サブリナ艦長は満足そうにうなづくと、通信機のモードをALL SHADOWという見たこともないモードにセット。

 もちろん、私の端末にはそんなモードは存在しない。


「影艦全艦、出現を許可する」



 窓の外に信じられないような景色が広がる――。

 宇宙空間が裂け三隻の宇宙戦艦が出現した。



 これは何?

 光学的な仕掛けを施せば、こんな光景を作り出すことは可能だと思う。

 それより驚いたのは、出現した三隻が、アシュリーズの主力三隻と瓜二つだったのだ。


「これって、双子艦ですか?」

「ええ、そうよ。双子艦と言えるわね」

「これが秘密なんですか?」

「ええ、これがアシュリーズの中でもトップクラスの秘密よ」


 これが私に見せたいこと?


 私は困惑していた。

 これが影艦?


 私が知っている呼び方は双子艦。要するに同型艦のことだが、それはすでに廃れた概念である。

 双子艦というのは、単に同型艦というだけでなく、外装から何から全てを同一にしてまるで同じ艦が二つあるように見せかける手法である。

 だが、今の銀河連邦に属する宇宙船においては意味がない。

 どんなに外見が同じであっても、識別システムを備えてさえいれば、固有の識別IDで別の船と見破ることができるからだ。

 銀河連邦統一宇宙艦艇識別システムは堅牢で、全ての船はそのIDを偽ることができない。


 わざわざ影艦と呼ぶのは、何か理由があるのだろう。


「不思議そうな顔をしているわね。常識では双子艦は意味を為さない。それは固有のIDを持つことで識別されてしまうから。でも、もし識別したIDが同じだったら?」

「不可能です! そんな……いくらアシュリーズにキャサリン教授がいると言っても、船のIDを偽るなんて!」


 すると、ロックされていたはずの部屋が開いて、そのキャサリン教授が入ってきた。

 今までの話は聞いていたらしい。


「百聞は一見にしかず。イリア、やってもらおうかしら。銀河連邦統一宇宙艦艇識別システムの使い方は知っているわね? 目の前に見える主力艦そっくりの三隻を識別してみてくれる?」

「…………はっ、はい」


 私は半信半疑のまま、サブリナ艦長の隣にある席に座り、端末を起動した。

 必要なセンサーを起動して、目の前の戦艦を認識。

 次いで、船体情報取得ボタンを押した。

 あとは結果を待つだけ


「うっ、ウソっ、そんな…………信じられない」

「それが事実よ」


 私はこれまでの常識が覆ったことに驚き、それ以上何も言えないままだった。

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