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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 2 地球か、何もかも鬱陶しい!
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エピローグ

 ソル・シリンジ一回目の打ち上げ当日。

 アーノルド宇宙技術開発の社員・技術者たちは必死に作業を続けていた。

 その顔には余裕がなく、仕事をすると言うより何かに追い立てられて仕方なく手を動かしているという感じである。


「昨日の大艦隊は壮観だったわねぇ」

「ええ、あんな大きな艦隊は見たことがないもの」


 私とメルフィナは、予定にはなかったはずの銀河連邦軍の大艦隊に興奮していた。

 普通女の子が、軍艦に惹かれたりはしないものであるが、最近なぜか湧き立つものが少しだけ心の中に芽生えてきている。

 やっぱり私も『宇宙の船乗り』になったってことかなぁ。


 この艦隊は護衛や見学、研究など様々な名目で集められたもの。

 大戦艦三、機動戦艦四十五、巡洋艦八十、その他諸々大型艦だけで二百五十隻を超える『本物の大艦隊』だ。


 蛇に睨まれたカエル、ならぬ大船団に囲まれた悪徳業者。


 発射台にはとにかく打ち上げて仕まえば勝ちだと、担当者が作業員に発破をかけていた。

 しかし、銀河連邦の技術者は到着するなりソル・シリンジのロケット外殻は厳重にロック。

 何があっても打ち上げられないように処理を施していく。

 これでは、どう隙を突こうとも、到底無理な状況である。


 一方、アーノルド宇宙技術開発のお偉いさんたちは、 脂汗(あぶらあせ)を流し見守るしかなかった。

 ロケット準備の作業人員の行動には一切制限をかけず、わずかな監視員を配置しただけ。

 これならいつでも逃げられると安心しきっていたところ、周辺には黒山の人だかり。どこにも動けない。


 最後は雲の上である。

 銀河連邦の大艦隊の大半はイロナバール上空で待機している。

 それを出し抜いて、ロケットが空の上に飛ばしても軌道上には数多くの船が残っていた。



 彼らの万策は付きた。

 全ての準備が整い、イロナバール政府の大統領が祝辞を述べ、コントロールセンターのアーノルド宇宙技術開発の技術者が、最後の確認と秒読みを待つだけの状態になった時、式次第にない人物が赤い絨毯を歩きマイクの前にたった。


「本日の打ち上げを中止とする」


 ざわめく政府首脳。

 詰めかけたマスコミが騒ぎ出した。

 すでに、コントロールセンターから逃げ出そうとした技術者たちが捕まっている。


「今回の打ち上げでアーノルド宇宙技術開発のソル・シリンジ技術に重大に欠陥があること。イロナバール政府との契約に贈収賄の疑惑があることが判明した。今回の件において、アーノルド宇宙技術開発のソル・シリンジ事業の資格剥奪と関係各社の資金凍結が決定している」

「それではどうなるんです? 私たちの太陽アルニラムが危険な状態であることには変わりないんですよ?」

「それについては、銀河連邦が請け負います」


 その話を聞いて政府関係者とマスコミが騒ぎ出した。


「そんなっ! 銀河連邦の正式ソル・シリンジを実施するほどの財力はありません! 我々に餓死しろと言うんですか? それとも破産が目的ですか!?」

「いえ、今回の件にて資金的な負担はアーノルド宇宙技術開発に支払った額で構いません。足りない分については銀河連邦で負担します」

「なぜ、そこまでしていただけるんですか」

「詳しくは話せませんが、今回、それだけの財源を得ることができたとだけ申しておきましょう」


 そこで、全ての人たちが察した。

 誰でも疑ってはいたのだ。

 アーノルド宇宙技術開発の裏に大きな組織があるのを。


 そして、知る。

 今回の騒動でそれが白日の元に晒されることになったことを。


「新たな打ち上げの日程は、ちょうど1ヶ月後の今日。銀河連邦が責任を持って実施します」


 わああああああああああぁぁぁ


 歓声が上がり式典は終了した。


 ◇


 そして数日後。

 私たちはくつろいでいる。


「ねぇ。イリアが上陸した時にハンドガンの攻撃はあったけど、それだけだったのよね?」

「はい。私は上手く逃げ切ったと思ってたんですけど、四発も当たってたんですよね。あのスーツのおかげで助かりました。高性能すぎて光学兵器が当たっても気が付かないんですから……でもそれが何か?」

「もし、イリアが一番の目標で尚且つアシュリーズごと消すのが目的だったら、爆弾とか電磁波とかで攻撃されてもおかしくなかったんじゃないか、と思って」

「よしてくださいよぉ。おっかない」


 イシュタルが怖いことを言ってくる。

 うまく逃げ回っていたと思っていた私に、実は光学兵器が命中していたと聞いただけでビビってるのに。

 あのスーツがそんなに凄い性能だとは知らなかった。

 剥き出しに見える頭を狙われても大丈夫だそうだ。理屈はわかんないけど。


「実弾系は流石にケアしているわ。少なくとも爆弾なんか持ち込ませない。キッドたちが事前調査と艦隊到着前の周辺チェックで、そういうものが敵の装備に存在しないことを確認済みだったから……でも、電磁波かあ。確かに古典的だけど人一人殺すだけなら有用よね」

「あぁぁ、キャサリン教授までぇぇぇ、やめて下さいよぉ」

「わかったわかった。でも、ちょっと調べてみるだけならいいでしょ? 終わったことなんだから」

「まあ、それくらいならいいですけど……」


 キャサリン教授は二番艦と連絡を取ってる。

 ……と言うことは、さっきの話の流れで行くと相手はキッドさんとかかも。


「ああ、キッド? イリアが上陸してた時の敵の装備資料をもらえる? そう、画面に表示してくれればいいわ……ああ、なるほど。最初から用意してないわね。だとすると、キッド。イリアに直接の攻撃が少なかった理由ってわかる? うん、そう。………………ああ、そんなことになってたのね。意外というか……まあ、そんな事情があるんなら納得だわ。ありがとう」


 教授は回線をクローズドにしているので、こっちにはちっとも聞こえない。

 なんかイヤーな感じ。


「イリア、あなたの顔って王族にしては結構地味よね?」

「何ですか! 突然!…………そうですよ! 私は兄妹の中でもパッとしない、って随分言われてましたから」

「あー、悪い悪い。でも、その顔がどうやら面倒臭い連中のお眼鏡にかなっていたらしいわよ」

「!?」


 それからキャサリン教授が話してくれたのは酷い話だった。

 どうやら『バザ連合会』の中には二つの派閥があり、襲ってきた連中のうち私を抹殺しようとしていたのは少数派だったらしい。

 多数派の方は、誘拐して地球に連れ去るつもりだった、と。


 その理由が正にトンデモ話だった!


 なんでも、私が『過去の地球が隆盛を誇っていた時代の王女とそっくり』なのだそうだ。

 つまり、地球復興を企む彼らは、神輿として私を担ぎ出すつもりだったらしい。


「ひどいなあ。私がその『昔の地味顔の王女様』と似ていたと言うだけで、連れ去られるところだったのかあ」

「いや『地味顔』なんて言ってないわよ。ただ、王族である以上、あなたのドレス姿の映像は公的に手に入れられた、ってだけ。そこで比べられたのね。しかも、奴らの内部にはイリアに式典を見られて消そうとする連中も混じってたんだから、事態がややこしかったのも当然ってことよ」


 すなわち『バザ連合会』の中には、今回のソル・シリンジが失敗しても、私を確保すれば成功と考えている連中がいたことになる。

 本当にロクなこと考えないな。

 ピアーさんの言う通りだ。地球には関わりたくない!!


「もう! そんなに落ち込まないで! イリア。これから飲み会よ、この星最後の」

「『打ち上げ』は阻止したのに、当の俺たちが『打ち上げ』かよ」

「何? ピアー、文句あるの?」

「いや、ねーよ。金も入って万々歳だ」


 この最後の夜に私たちが行くのは仕事が終わった飲み会としての『打ち上げ』。

 明日にもアシュリーズはこの星系を離れる。


 私はソル・シリンジが策略に使われて、この星がなくならなくて本当に良かったと思ってる。

 この星を後にするに際し思い残すことは……『無い』と言いたいが、実は一つだけある。


 『影艦』っ何だろう?

 話してくれるってサブリナ艦長、言ってたのにな。

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