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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 2 地球か、何もかも鬱陶しい!
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偽物

「メルフィナ。今日のカレーさあ、何か今ひとつじゃない?」

「あー、それはこの前補給した食糧に問題があったらしくて、一部『打ち出し』を使っているんだって」


 私がいるのは戦艦スリップの食堂。

 メルフィナと一緒にお昼を食べにきたんだけど、午後も忙しいから手早く済ませられるカレーにしたんだ。

 でも、味がイマイチ。

 まあ『打ち出し』じゃあ、仕方ないか。


 宇宙艦隊において食事は大事。

 例え手間でも経費が嵩んでも、食糧だけは外部から調達するのが普通だ。


 そりゃあ、船の中でも野菜の栽培はするし食肉の飼育も行われているけど、全ての品目とはいかない。

 限られた空間で作るんだから、品質にだって限界がある。


 それに、栽培している野菜には相性があるのだ。

 作物にはその地方によりどうしても違いが出る。

 一つの星の中でも違うし、その星の国ごとに違う、特産の地方だとまた味が随分と異なってくる。

 ところが、それが宇宙の中ではもっと酷いことになるのだ。


 この艦隊の菜園では、できるだけどこの惑星のものとも合うような品種を使っているのだけれど、この前に立ち寄った惑星で仕入れた肉とはどうしても相性が悪いものがあったらしい。


 そう言う時はどうするか?

 実は、3Dプリンタで作るのだ。


 今回は、にんじん。

 その成分はカロチンだったり、繊維だったり、何もかも本物と同じように作成することができる。

 こうしてできた食物をこの艦内では『打ち出し』物と呼んでいる。

 これが微妙に美味しくないんだ!

 

「そんなに酷いかな? これ」

「うーん、我慢できないほどじゃないんだけど、なまじっか他の野菜も肉もスパイスも美味しいから目立っちゃうんだよ。色もやたら赤いし」

「そりゃ、偽物のにんじんだからね」

「ふふ。そうか。早く食べちゃおう! 私、午後は忙しいし。メルフィナは?」

「あー、私も会議がある。第二艦橋に新人が来るらしくって、班分けし直し。変な人じゃなきゃいいけど」


 私は食事を済ませるとメルフィナに手を振って、第一艦橋に戻りながらつぶやいた。


「偽物かあ……」


 ◇


 第一艦橋に戻るとイシュタルが待っていた。


「これから、研究棟であの『偽物』調べるんだけど来ない?」

「ん? 行きたい! でも…………あっ、大丈夫みたい」


 『行きたい』と言ったときにサブリナ艦長を見たら、こっちを見てうなづいている。

 許可してくれたみたい!


 それにしても、また『偽物』だよ。

 でも、この『偽物』はそんじょそこらのものとは訳が違う。

 あのソル・シリンジのコアの代わりになるものなのだから。


 私はイシュタルと一緒に研究棟に行ったのだが、キャサリン教授がウーウー唸っている。

 ソル・シリンジのコア。

 名前は何の捻りもなく、そのままソル・シリンジ・コアと呼ばれている。

 だが、何度も言うがこれは偽物だ。


 それは、研究棟の特殊実験室にあって、私たちはその調査の様子をモニターで見ているのだけど……これ、何?

 この実験室は、キャサリンのとんでもない発明品を試すために作られている。

 大出力光学兵器や町が一つ吹っ飛びそうな爆弾にもびくともしない。


 そして、今やろうとしているのは、ソル・シリンジの偽物の破壊なのである。


「いいんですか? こんなことして。大事な証拠品なんですよね」

「あー、いいのいいの……って、いうか仕方ないから」


 なんでも、最初は破損を恐れてありきたりの非破壊検査をしていたけれど、さっぱり中身がわからない。

 その丈夫さに呆れ果て、レーザーによる切断やダイヤモンドカッターなども使ってみたが、傷ひとつ付かなかった。


「あんなジジイの作ったものがわからないなんて、私も焼きが回ったものね!」


 キャサリン教授は怒り狂っている。

 怖いからそーっ、とイシュタルに聞いてみた。


「ね、ねぇ。ジジイって、誰?」

「あー、たぶん大学の時のライバルだった『ドクター・デスサイズ』だと思うわ」


 そこに、一人の女の子が入ってくる。

 どこから来たんだろう。って言うか、今ここ入室禁止のはず。


「あのぅ、ここは第二艦橋じゃあ、ないですよねぇ?」

「ん? ここは研究棟よ。どこから来たの?」

「はい。第一艦橋で艦長に挨拶してから、第二艦橋に行くつもりだったんですけど〜、なんかよくわからなくて〜」


 迷子さんらしい。

 もしかしてメルフィナが言っていた新人、ってこの子じゃないかな?


「あー、いいところに来たわ。新鮮な意見が聞きたいわ。あれをどうにかしたいんだけど、どうやったらいいと思う?」

「壊してもいいんですか?」

「ええ」

「何に使うものなんですか?」

「んーー、鉄の塊にぶち込むんでバラバラにするものよ」


 キャサリン教授の説明、雑すぎるぅ〜

 確かにソル・シリンジは鉄を壊して水素に戻すものだけれども……


 ん? でもこの新人さん。

 なんか言おうとしてる? 名案でもあるのかな。


「そのぅ〜、鉄で壊れるんなら、キリで穴を開けたらどうですかぁ〜」

「「!!」」


 今の状態を見て何も思わないんだろうか?


 ダイアモンドカッターが折れ飛ぶのも、厚さ10cm以上の鋼鉄板を切り裂くフォノン・メーザーが跳ね返されるのを見てたはず。

 鉄のキリなんかで、この偽コアに穴が開くはずがない。


 私とイシュタルは、唖然としていたが……


「おう! 斬新な意見ね! やって見ましょう! 誰かあ!! キリで穴を開けて見てぇ!」


 キャサリン教授がうなづいて声を掛けると、助手の一人がキリを持って実験室に入っていった。

 そして、偽物コアに突き立てて、ぐりぐりぐりぐり……あっ、削れた。


「教授うぅぅぅ! 穴開きましたあ! なんか、液が漏れてきたんで、試験管に入れときますねぇ〜」


 返事がない。ただのしかばねのようだ。

 一部始終をみて、その声を聞いていたはずのキャサリン教授が崩れ落ちてる…………


「負けた気がする……」


 その言葉は、キリを提案した新人に向けてなのか、ドクター・デスサイズに対してのものなのか、私とイシュタルは怖くて聞けなかった。


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