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故郷を追われた元王女は宇宙艦隊の夢を見るか?  作者: 伊藤 詩雪
episode 2 地球か、何もかも鬱陶しい!
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本当の仕事は……

 私はピアーさんと艦長室に出向き、今度の仕事を受けた業者が怪しいことを報告した。


「なるほど。イリア、ピアー。よく調べたわね。確かに放置できる状況には思えない。どう思う? キャシー」

「どうって、……いい加減、芝居はやめなさいよ。サブリナ」


 キャサリン教授の一言にサブリナ艦長は目を伏せる。


 次に見せた顔は『私が知っている優しい艦長』のものではなかった。



「ここから先は、聞いたら後には戻れないわよ」


 部屋の温度が、ぐっと下がったように感じる。


 サブリナ艦長は部屋のモード変更ボタンを押した。

 艦長室の窓にシャッターが下ろされ、部屋のドアもロックされる。


 腰にある艦内通信の端末が、強制的にローカル限定に切り替わる。

 これでは、船外はおろか自席の端末にもアクセスできない。


 なっ! 何っ!?

 閉じ込められたの!?


「あー、こいつは只事じゃねぇみたいだな」

「何です! ピアーさん何か知ってるんですか?」

「いや、何も知らねぇよ。でも、これだけはわかる。とてつもなくヤバイことに首を突っ込んじまったらしいっ、てことはな!」


 私は一人混乱していた。

 ピアーさんは、サブリナ艦長とキャサリン教授を睨みつけている。


 でも二人とも、少しも動じていない。


「わかったわ。でも一つだけ言い訳させてちょうだい。あなた達を騙したわけでも試したわけでもない。むしろ逆。その事実に辿りつくとは思わなかったもの」

「どう言うことか説明してもらおうか」

「ええ。でもその前にこれから話す秘密は絶対に守って貰わなければいけない。銀河連邦の特A級秘匿情報の開示に関わるの」

「まっ、マジか……」


 先程まで食ってかかりそうな勢いだったピアーさんが、天を仰ぐ。


 『銀河連邦の特A級秘匿情報』って、どう言うこと!?

 私には何のことだかわからないよ!

 一人だけついて行けてない!


 艦長は、端末を立ち上げてモニターをマルチモードにして、ここにいる全員に見えるようにした。

 キーを操作すると銀河連邦に特別回線を開き、今回の依頼のIDを入力し生体認証を行ないログイン。


 するとマニュアルにはない「特A級秘匿情報開示対象者の追加」というウィジットが表示された。


 サブリナ艦長は、開示対象者に私とピアーさんのIDを記入。

 開示理由に二人で掴んだ怪しい組織の社員三人についての調査内容を記載した。


「これが承認されたら全てを話すわ。

 聞かずにこの部屋を出るならこの情報開示対象者の登録はしない。

 承認されない場合も同じで、何も聞くことはできないままこの部屋を出ることになる」


 そこまで聞いて私は、ごくり、と唾を飲み込む。


「覚悟しておいて。

 もし、この承認を得て情報を聞いた後、誰かに漏らしたら生かしておくことはできない。

 敵に捕まり無理やり拷問されて情報を引き出されたとしても同じ。

 私たちは、生体認証済みのあなた達の遺体を銀河連邦に提出することになるわ。

 逃してあげることもできないの。

 どうするのかは自分で決めなさい」


 私とピアーさんの前に、個人承認IDのチェック欄があった。

 これをチェックすれば生体情報とチェック内容が照合され、銀河連邦の特A級情報の開示と守秘義務を了承したことが送信される。


「ここまできたら後には引けねぇよ!」

「私もです!」


 私もピアーさんもチェックを入れて送信した。

 チェック時に生体認証されて、確かに本人が守秘義務を了承したことが送信される。

 程なく、銀河連邦から確認の応答が届いた。


 そしてサブリナ艦長とキャサリン教授は、今回の本当の仕事について話し始めた。

 辺境の星系でソル・シリンジが行われる。

 その管理監督業務を銀河連邦はギルドに公開せず、直接エージェントを通してサブリナの元に打診してきたそうだ。


「入札はなかったんですか」

「ええ、仕事内容は『ソル・シリンジの阻止』。直接の指名依頼よ。

 あの業者はソル・シリンジを実行するつもりだけど、連邦はそれを辞めさせたい。力づくでもね。

 けれどそれを表立ってやることはできない。だから、アシュリーズにやらせることにした」

「なるほど。

 だから、管理監督をする振りをしながら阻止する計画がバレないように公開入札をするわけにはいかなかった、と…………あっ、でも依頼の詳細を見た時に依頼の公開日と入札希望業者が3社ほど載ってましたよ?」

「ええ。あれは偽造されたものよ。銀河連邦の手でね」


 なんと、今回の依頼はソル・シリンジを止める秘密の仕事だったとは。

 私は驚いて何も言えないままでいたが、ピアーさんは違った。


「クソッ! 最初からわかってたのか」

「なんのことですか? ピアーさん」

「最初からこの仕事は業者がターゲットだってことだろ? 艦長! 教授! 知ってて俺たちに話をさせましたね。クルーを試すような事はやめてもらえませんかね!」

「違うわ。さっきも言ったとおり、あなた達がそんな情報を掴むと思っていなかった。私もキャシーもね。これは、かなりの『お手柄』と言って良いわ」

「ふん! じゃあ、本当に知っていたことを話してもらいましょうか」

「ええ、いいわ」


 それから本当の仕事内容が明らかにされた。

 この仕事を受けたのは、アーノルド宇宙技術開発という恒星・惑星に関わる大規模事業を請け負う会社だ。

 ソル・シリンジの他に、テラ・フォーミングなども扱うらしい。


 過去の実績を見るとそれ相応のものがあるが、調べてみるとその後の現地の様子がおかしい。

 テラ・フォーミングに成功したはずの惑星は毒ガスに覆われているし、ソル・シリンジにしても失敗や中断が多く、成功事例は仲介のみで直接作業をしたのは別会社だった。

 加えて今回のセルノマド星系は辺境中の辺境であり、人が住めるのは人口が20億に満たない第二惑星しかない。

 とてもソル・シリンジの費用が賄えるようには見えない。


「安いな」

「えっ? あっ! 本当だ…………でも、フェリアルの時もこれぐらいだったような気がします」

「そりゃ管理監督義務もないあの頃ならな。今じゃあ、こんな値段でやれるわけ無いんだが……」


 ピアーさんは、この規模の惑星政府が高額なソル・シリンジの代金を払うことができると言うのが解せない、と言ったけれど、確かにこの値段なら納得できる。

 それが証拠に、公開されているアーノルド宇宙技術開発の施工予定は、50年後まで予約が一杯とのこと。

 太陽の異常で困る星系がいかに多いか、格安なソル・シリンジに釣られてしまい人たちがいかに多いか。


 また、工事受注に付帯事項があり、今回のセルノマド星系の1回目打ち上げの成功が条件となっている。

 成功しなければ報酬はなしだ。

 これが依頼する人たちを安心させているのだろう。

 そして、この仕事がきな臭いと銀河連邦が警戒をするきっかけになったのが、今回この仕事を仲介したオリオン宇宙貿易だ。


「大手じゃないですか! 商船の手配から、局所銀河群のあらゆる銀河の物資を扱う総合商社ですよね! どうしてそれが疑わしいんですか?」

「『大手だからこそ』なんだよ。オリオン宇宙貿易は信用も高いが、それゆえに簡単に大きな仕事を仲介したりしない。アーノルド宇宙開発なんて聞いたこともないところの仕事を連邦に紹介するはずがないんだよ」


 なるほど、局所銀河群にその名が轟く大手商社が直接銀河連邦に仲介をするとしたら、余程信用がおけるところじゃないとおかしいのか……

 そう考えると……あっ! 私もおかしなところ見つけた!


「そうです! 確かにおかしいです! この工事受注の条件『一回目打ち上げの成功』と言うのが曖昧すぎます」

「おっ、ちゃんとわかってるじゃないの! 流石に当事者は違うわね、って…………あーーーー、秘密なんだっけ。ごめん!!」

「…………キャサリン教授も私のことご存知なんですね? ピアーさんにもさっきバレましたし、この部屋で私のこと知らない人はいないので大丈夫です」


 『当事者』と言ったので、私がフェリアルの生き残りであるとを知られていることがわかった。

 それならそれでいい! 元王女であることがバレた訳ではないし。

 もう、この話をするのに躊躇はしないつもりだ。


「あー、説明してくれ。何が曖昧なのか、俺にはわかってないんだが……」

「はい。それは『一回目打ち上げの成功』と言うのは、基準が非常に曖昧なんです。もちろん、太陽内部に打ち込むことに失敗してはダメなんですけど、恒星によってどれくらい『若返り効果』が出るかは保証できません。単に太陽に打ち込んで異常なフレアが出ないだけなら、フェリアルの1回目の打ち上げも成功と言うことになります。アルニラムの1回目の打ち上げ後の調査でもファーディアル社は成功を大々的に吹聴していましたが、結果の分析表を見ると肝心の水素の増加は若干認められたものの統計学的に有意な差があったかは微妙でした」

「そんなもんなのか? よくそれで納得したもんだな」

「ええ、当時の規約はかなり緩くて『太陽に突入して150時間以内に異常なフレアが従来の30%以上増加しない限り成功』となっているんです」

「ひでぇな。それじゃあ、何も積んでなくても……」

「はい。何の効果もないクズ鉄を積んだロケットでも、とにかく太陽の核にぶつけて仕舞えば文句は言われないでしょう」


 ピアーさんは納得いかない顔をしてる。

 私だって同じだ。

 キャサリン教授なんか、そこまで緩い規約が罷り通っていたことは知らなかったらしく、話の内容にドン引きだ。


 けれど、サブリナ艦長はその話を打ち切る。


「そのことについては、また後で検討しましょ。今回の仕事の難点は、あくまで合法的にソル・シリンジの打ち上げを辞めさせることにあるの。銀河連邦はとにかくこの打ち上げを辞めさせたいけど、確たる理由がなければ停止命令を出すことはできない」

「それじゃあ、もし理由が見つからなかったらどうなるんですか?」

「強引に独断でアシュリーズが、ソル・シリンジを撃ち落とすことになるわ」

「そんなっ! 大丈夫なんですか?」

「大丈夫なわけねぇだろ。賠償額だって大変なことになる。こんな艦隊全部売り払っても足りやしねぇ」

「ああ、そこは心配しなくていいわ。表向きはアシュリーズは仕事に失敗して莫大な負担を抱えることになるけれど、そのお金は銀河連邦が裏で補填してくれることになってるから。但し、今回の報酬は無くなるし、ここまでの失敗をしたとなるとアシュリーズに仕事を頼んでくるところはほとんどなくなるでしょうけどね」


 本当の仕事はソル・シリンジの阻止。

 それも力づくで。


 私とピアーさんは、二の句が告げなくなった。

 これ、とんでもない地雷仕事だ!


「イリア、ピアー。だからこそあなた達が知らせてくれたこの三人の情報が役に立つのよ」

「そうよー。これだけ見つけてくれたら、もう敵の尻尾を掴んだようなものだもの」


 艦長と教授はニッコリ笑うとそう言ってくれた。

 でも、それは安心させるためだと思う。


 とてもじゃないけど喜んでいられない。

 まだ、私たちは打ち上げを中止できるほどの理由を何も掴んでいないんだ!

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