第九話
レガルドは話で聞いた通りの壊滅状態だった。
建物は全て破壊され、炎に呑まれたのか木々も燃え落ち炭になっていた。
人の姿は全くない。逃げ出したのか、それとも炎に呑まれたのか……
「…………」
『大丈夫か?』
ショーゴは答えない。拳を握り締めるだけだった。
「行こう」
表情は見えなかったが、悔しさだろうか、今までにない低い声だった。
他の街も見て回ったがどこも同じような惨状だった。
「何でこんなことに……」
『最近やたらと魔物が増えている気はしたが、ここまでとはな……』
「王宮はどうなったんだ」
男たちの話では籠城しているらしい、と噂されていたが……。
ドルネドの王都も壊滅寸前だった。
ただ他の街と違ったのは王宮がある。
そこには逃げ延びた人々や王宮の者たち、大勢の人間が集まっていた。
魔物は王宮に狙いを付け集まっていた。そのおかげか王都は他の街に比べると、まだ建物が残り隠れ潜む人々もいた。
王宮は宮廷魔導士たちが必死に結界を張り続けていた。しかしながら城全てを守る結界が張れる訳でもなく、一人の魔導士が結界を張り守ることが出来る人数は精々十数人程度だった。
それでも魔導士たちは結界を張り続ける。攻撃も出来ず、ただひたすら結界を張り魔力を消耗するだけでも……。
「あんなことをしていたら魔導士たちが魔力切れになってしまう!」
空に渦巻く様々な姿の大量の魔物たち。
手当たり次第に攻撃を仕掛けている。あれだけの数を倒すことが出来るのか……
『考えても無駄だな……』
「え?」
『そなたはどうであったとしても行くのだろう?』
「そうだな」
ショーゴは苦笑した。
『ならば、出来るのかを考えたところで無駄だと思ったのだ。無理でも何でもやるだけだ』
「ハハ、ロウには付き合わさせてごめんな」
『全くだ。我は自ら手を出すことはないのだがな』
今まで魔物だろうが魔獣だろうが、自ら相手に仕掛けたことはない。無駄な争いをするほど戦いや相手に執着もない。
ショーゴと出会ってから我も変わったものだな、と苦笑した。
「じゃあ、やってみるか!」
『限界だと判断すれば退却するからな』
「あぁ」
ショーゴは魔物のほうを向いたまま返事をし、索敵と結界を発動させた。
「行くぞ!」
ショーゴは魔物のすぐ近くまで走った。そして直ぐ様炎と風の魔法で炎の竜巻を巻き起こし、多くの魔物を絡め取った。
そのまま勢いを衰えさせないまま、炎の竜巻をさらに大きく巻き起こし、人々との間に壁となる。
炎が魔物を焼き尽くしている間に、何百もの氷の矢を一斉に放ち、他の魔物たちを突き刺す。
ショーゴが攻撃魔法に専念出来るよう、我はショーゴの盾となる。
今まで防戦一方だった人間からの反撃。魔物は驚きの表情を浮かべ、攻撃魔法の発動される先を探った。
ショーゴの攻撃魔法を避けた魔物がショーゴを見付け、命を狙い向かってくる。その魔物たちに炎を吐き出す。
炎から逃れた魔物には爪と牙で切り裂く。しかしそれでは倒し切れない。魔物に噛み付かれたところを至近距離で炎を撃ち込む。
ショーゴは我の周りに集まる魔物に氷魔法で氷漬けにし、我の爪で砕く。粉々になった魔物は黒い靄となった。
ショーゴの反撃で魔物からの攻撃が止んだ魔導士たちは、ようやく攻撃に転じることが出来た。
結界を張ったままの者と攻撃をする者とに別れた。
魔導士たちが攻撃に転じることが出来たためショーゴの負担も少し減ったが、それでもまだ魔物は大量にいた。
ショーゴは氷の礫に雷を纏わせ大量に放った。礫は大量の魔物の身体を貫き黒い靄とした。
しかしその黒い靄の中に、不思議な光景を見た。
今まで見た魔物とは違い、その魔物は姿がはっきりと分からなかった。
黒い塊?人型のような、型をしているが顔は分からない。ただ全身が真っ黒だった。不気味な雰囲気を醸し出していた。
その黒い塊はショーゴの放った氷の礫が目の前に飛んで来ても微動だにせず、礫はその黒い塊の前で弾け飛んだ。
「!?」
『何だ!?』
ショーゴは炎の球をその黒い塊に放ったが、その炎も打ち消された。
「どういうことだ……」
魔法が効かない。
何故だ。
黒い靄の中浮遊している黒い塊は、見下ろしてこちらを見ているように見えた。顔はないが何故かそう見える。
黒い靄は次第に黒い塊に集まり黒い塊を覆い尽くした。
「何が起きているんだ!?」
黒い靄は徐々に減っていった。
残り少ない靄の中、中心に人影が見えた。黒い塊の奴か!?
「!?」
『!? あ、あれは……』
黒い塊は黒い靄を吸収しているようだった。黒い塊の中に靄が吸い込まれていく。
そしてその黒い塊の姿が人型としてはっきりと見えた……。
『ショーゴ……』
黒い塊は人型になったかと思うとショーゴの姿となった。
「な、何で……」
しかしショーゴの姿になった魔物はそこからさらに変化した。
肌は黒く、瞳は赤黒くなった。
呆然としていると、他の魔物たちが襲ってくる。呆然としている場合ではない。
炎を吐き出し魔物を払うがショーゴは動かない。
『ショーゴ!!』
呆然としていたショーゴはハッとし、氷の壁で魔物を追いやる。
氷の壁に囲まれた魔物を雷撃で貫く。貫かれた魔物は黒い靄となり空へと昇る。
空へ昇った靄は再びショーゴの姿をした魔物に吸収されていく。
靄が吸収されていく度にショーゴの姿をした魔物が変化をしていった。
段々とショーゴの姿とは程遠くなっていき、腕や脚からは皮膚が裂けるようにひび割れていき、爪なのか鋭いものが突き出して来た。
酷く醜悪な姿となっていった。
「何なんだ、あの魔物は……」