第七話
『ショーゴ、この国を出ろ』
「えっ……」
『この国を出なければ、いつまでもお前は利用されたままになるぞ』
「この国を出る……ここを?」
『そうだ。考えるな!』
ベッドの下にあった魔法陣を炎で燃やした。
恐らく老婆は魔法陣がなくなったことにすぐ気付くだろう。
『行くぞ! 飛び降りろ!』
窓から身体を翻し降り、それと同時に元の姿に戻った。
ショーゴは躊躇っている。
『来い! 奴が来る!』
老婆が気付いた。足音に怒声が混じる。
『ショーゴ!! 我と共に来い!!』
叫んだ。それは初めて感じた心からの叫びだった。
呆然としていたショーゴは、我と目を合わすと瞳に生気が戻ったようだった。
窓に足を掛け、思い切り飛んだ。
『来い!!』
ショーゴは我の背中に飛び降りた。
老婆が叫び声と共に風の魔法で襲って来る。
我は力の限りの速さで走り、ショーゴは結界を張った。
風に捕らわれそうになるが、ショーゴの結界は魔法を打ち払う。
老婆の叫び声にショーゴは悲痛な顔をした。
街を抜け森へ入り、最初に出会ったケシュナの森まで来た。
そこでようやく走るのを止めたのだった。
ショーゴは我の背中から降り、座り込んだ。
「ハハ……、逃げちゃったな」
ショーゴは力なく笑った。
我は人間化し、ショーゴの前で膝をついた。
そしてショーゴの両手を取る。
「ロウ?」
『ショーゴの魔力を我に流せ』
「え?」
『いいから、そなたの魔力を我に』
訳が分からないといった表情のショーゴは言われるがままに、魔力を送ってきた。
我もそれに合わせショーゴに魔力を送る。
魔力を送り合うと元の姿に戻った。
「何だ?」
『我の額に触れて名を呼べ』
「額に……、名前?」
ショーゴは不思議そうな顔をしながら我の額に手を伸ばした。
額にそっと触れ……
「ロウ、お前の名はロウ」
ショーゴの手から眩い光が放たれ、そして消えた。
「え? 今の何だ?」
『従属契約だ』
「従属契約?」
『あぁ、我はそなたの従属魔獣となった。これからはどれだけ離れていても気配が分かるし、会話も出来る。何かあればすぐに分かる』
ショーゴは呆然としていた。
「良いのか? そんな縛るようなことをして……」
『構わん。我はそなたと共にいる。我の意思だ』
何故、契約しようと思ったのか、自分でも分からなかった。
今まで人間と従属契約をしたことなどない。
ただ、ショーゴと共にいようと思ったのだ。
この感情がどういった物なのかは自分でも理解出来ぬままだが……、しかし気分は清々しい。
「ありがとな、ロウ……」
ショーゴは我の首に腕を回し顔を埋めた。
声を殺して泣いていた。
静寂の中、ショーゴの吐息の音だけが響いていた。
しばらくすると落ち着いたショーゴは少し恥ずかしそうに顔を上げた。
「あーあ、泣くなんてな~。カッコ悪……。まさかロウに泣かされるとは思わなかった」
泣き腫らしたような目で我を見た。その顔は穏やかな顔付きだった。
『何故、我が泣かせたことになっているのだ』
「そりゃ、ロウが嬉しいこと言ってくれるからだよ」
そう言うとショーゴは笑った。
久しぶりに見たな。ようやく心から笑えている顔だ。