第五十話
「サクヤ! サクヤ! 起きて!!」
「!?」
全員が驚いてユウを見た。
「ユウ!? 何をする気だ!?」
アレンが叫んだ。
「サクヤは勇者かもしれない、なら魔王の気配を消し去ることも出来るかもしれない」
「!? どういうことだ!? 自分で自分を倒すのか!?」
「分からないけど……聖魔法って魔王に効くって言うなら、逆に言えば、魔王以外には効かないんじゃないかな、と思って。それなら自分の中にある魔王だけを消滅させることも可能じゃないかな、と……」
「なるほどな……確かに可能性はありそうだ」
ディルアスが同意した。アレンはまだ納得出来なさげだが。
「うぅん、確かに言っていることは理解出来るが、本当にそんなこと可能なんだろうか……このまま捕らえてしまうほうが良いんじゃないかとも思うし……」
アレンは悩み込んだ。
『捕らえたとしても魔王ならば無意味だ』
魔王ならばそんなことをしても何の役にも立たん。
「うぅぅ、そうだよなぁ……」
アレンが天を仰いだ。
「アレン、いい加減に覚悟を決めてユウを信じろ」
イグリードがアレンの背中をまたバシッと叩いた。ケホッとむせたアレンは深い溜め息を吐いた。
「分かった、ユウに任せる!」
「うん、ありがとう」
再びサクヤを起こそうと声をかける。ディルアスは警戒しながら見守っている。
「サクヤ! サクヤ!」
ユウはサクヤの身体を揺さぶりながら声をかける。
「う……」
サクヤが少し身体を動かした。
「サクヤ!!」
目を少し開け、声の方へ顔を向けた。
「あ、あんたたちは……」
「分かる?」
「あぁ、俺は……何でこんなところに……?」
皆が顔を見合わせた。
「覚えてないのか?」
「あぁ、ガイアスに向かった辺りまでは覚えている……」
「それ以降の記憶がないのか……」
やはりサクヤであって、サクヤではない状態だったという訳だな。
「単刀直入に言うけど、あなたは魔王になりかけていた」
「!? 魔王……!?」
「そう」
ユウはサクヤにここで起こった顛末を話した。
「そ、そんな……俺がこの惨状を……」
サクヤは頭を抱えた。
「そしてあなたの中にまだ魔王がいる」
「!?」
「魔王を消滅させるには聖魔法が必要なの。あなたは聖魔法を使えるんじゃない?」
「え……、聖魔法……」
皆がサクヤに注目した。
「聖魔法に心当たりがある? 使えるならばそれであなたの中の魔王を消滅させることが出来るかもしれない」
サクヤは自分の掌を見詰めた。掌から金色の光が溢れ出てきた。
「!! 金色の光……」
「これが聖魔法なら……」
掌から溢れ出した金色の光はどんどんと零れ落ちていき、フワフワと浮かんだかと思うとサクヤの身体を包んでいった。
サクヤの身体全体が金色の光に包まれる。するとお腹の辺りにだけ光が集中し塊になった。
光の塊はそこにあった何かを包み、それを溶かすかのように少しずつ小さくなって、そして消えた。
「!! 消えたぞ!!」
アレンが叫んだ。
サクヤはハッと顔を上げた。周りにいた全員が安堵の表情、そして喜びの表情に変わったことに気付いた。
「良かった……」
ユウは安堵したのか何かまだ不安なのか呆然とし座り込んでいる。
『ユウ、大丈夫か?』
「うん、大丈夫」
また何か余計なことで悩んでいるのだな。
そう感じ颯爽とユウを抱き上げた。
「うっ……ルナ! 大丈夫だから!」
『立てないのだろう?』
ユウはこういうとき無理をする。黙って耐えようとする。そんなことは許さない。
我の前では辛そうにするな。笑っていろ。そうやって顔を赤くしていろ。好きなだけ撫でても良いから幸せそうな顔をしていろ。辛いときは我慢しないでくれ……。
「うぅ……」
ユウは諦めたように大人しく抱かれた。
「サクヤ、君はこれからどうする?」
イグリードが聞いた。
「俺は……」
サクヤが答える前に頭上から声が聞こえた。
「は~い! お疲れさま~!」
イラッとする聞き覚えのある声だ。
「みんな頑張ったねぇ!」
空から神が現れた。サクヤは驚いた顔をしている。
「私たち以外にも人がいっぱいいるけど良いの?」
「大丈夫~! そこは神様万能だから~! ここだけ別空間! ここにいる君たち以外に私の声は聞こえないし姿も見えませ~ん」
「神様!?」
サクヤが声を上げた。
「うん、私、神様~!」
「私が消えるの?」
ユウはそう神に聞いた。ユウはそれを不安に思っていたのだな。
「え? あ~、そうね~、そんな話してたよね~」
イラつく神だな。
「大丈夫~、ユウは消えないよ~。何せ今回は勇者が魔王になっちゃってぇ、元勇者が今の魔王勇者倒しちゃってぇ、ややこしいねぇ、君たちイレギュラー過ぎ!!」
プンプン!とか吹き出しが付きそうだな、と思うような怒り方をしている。
サクヤはというと「元勇者」に反応したのかユウを見て驚いている。
「何にせよ、魔王を倒すという当初の目的は達成されてるから大丈夫よ~」
適当だな。
「今回はねぇ、サクヤが強さに固執し過ぎたせいだよねぇ。そのせいで魔王の種が勇者のサクヤに付いちゃった」
「えっ、付いちゃったって……」
サクヤは強さに固執し過ぎと言われて落ち込んだ。
「言ったでしょ~? 魔王は勇者の負の感情から生まれるって~。サクヤから生まれた魔王の種は魔物たちのところに行かず、サクヤ自身に付いちゃった。それだけ負の感情が強かったんだろうねぇ」
ますますサクヤが落ち込んでいく。同情する。
「ユウたちの強さに嫉妬しちゃったんだよねぇ」
「えっ」
「すいません!! 俺が未熟なばかりに! とんでもないことを!」
サクヤはもう泣き出しそうだ。
「まあ最終的には魔王倒せたんだし良いんじゃない?」
ニコニコしながら神は言った。対照的にサクヤは死にそうな顔だ。
「さて、魔王を倒したご褒美として、サクヤは元の世界の元の時間に戻しまーす」
「えっ、俺、元の世界に帰れるんですか!?」
「帰れま~す」
「ユウさんは?」
サクヤがおずおずと聞いて来た。
「ユウは今はもうこの世界の人間なので、元の世界には帰れませ~ん」
「えっ? えっ?」
まあ訳が分からないだろうな。
「サクヤはじゃあ一緒に行こうか~。じゃあねぇ、ユウはちゃんと自分の気持ち伝えて幸せにね~!」
神がウインク……。胡散臭い神だ……。
そのまま神とサクヤは消えた。
サクヤはアワアワしたままで連れて行かれ同情する。振り回されているな……。
「何か訳分からん内に、嵐のように去っていったな……」
アレンが呆然とした顔で呟いた。
「サクヤ……いなくなってしまったな……」
さすがにイグリードも呆然としている。
「でもこれで魔物も魔王もいなくなって百年くらいは平和になったってことでしょ?」
「そ、そうだな……そうだよな! 怪我人の治癒が終われば城の再建、エルザイア復興だ!」
「ガイアスも支援するぞ」
我らはしばらく王宮で休息をもらい、ユウたちは体調が戻り次第、治癒や再建の手伝いをして回った。
サクヤとの戦いで壊滅的になった王宮の再建はかなりの労力を要したが、無事生き残れたこと、平和な世界になったことが、多くの人間の心を明るくさせていた。
次話、最終話となります!
いつもなら土曜日はお休みしていますが、完結となるため明日夜に更新予定です!




