第四十六話
「イグリード、どうしたの?」
「今大丈夫か?」
「俺も大丈夫だ。どうした?」
アレンも返事をした。
「サクヤだったか? 新しい勇者。そいつがこちらにも現れた」
「!! どんな様子だった!?」
「こっちの魔物討伐中に現れて一気に殲滅してくれたんだが、その褒賞としてさらに強力な魔法が載っている魔導書はないか、と聞かれてな」
「さらに強力な魔法……」
「あぁ。今でも相当強い魔力があるようなんだがな。どの国も似たようなものだと思うが、サクヤの使う魔法より強力なものなど、ほぼないのではないかと思う。あるとしたら禁書庫の闇魔法……」
「闇魔法!?」
「あぁ」
「闇魔法は使うことを禁止されている。昔誤って発動させ国を滅ぼしかけたことがあるらしい」
「そんな凄い魔法なんだ……」
闇魔法……、そんな魔法をサクヤが知ったらどうなるのだろう。やはり欲するのか……。
「そもそも勇者が闇魔法なんか使えるのか?」
アレンが声を上げた。確かにな。勇者といえば聖魔法と言っていたはず。聖魔法と闇魔法なんてものは正反対なのではないのか。
「その辺りは俺もよく分からんが、まあ普通は使えないような気がするよな……」
しばらく沈黙が流れた。
「それで禁書庫は見せたのか?」
ディルアスが聞く。
「いや、そんな魔法は教えられないからな、闇魔法の魔導書の存在自体を口にはしなかった」
「それでサクヤは諦めたのか?」
「それがなぁ……」
イグリードは魔導具の向こうからでも分かるような深い溜め息を吐いた。
「えらい剣幕で怒鳴り散らしてな……。何かあるはずだ、最強の魔法を教えろ、とかずっと叫んで、挙げ句俺に詰め寄ろうとしたから捕らえた」
「えっ!!」
「さすがに恩人を牢に入れる訳にもいかないからな、宰相が宥め落ち着かせ追い出した……いや、帰ってもらった」
「追い出したってお前な」
アレンも言いながら苦笑している。
「すまん、言い方を間違えた」
「まあ暴れられたら追い返したくなるしな」
アレンの笑い声が聞こえる。
「あのサクヤとかいう男……、強力な魔法への執着が尋常じゃないな」
「あぁ、こっちでも強さへの執着が……」
またユウが考え込んでいる。恐らく自分が戦いに参加し魔法を見せ付けたために、サクヤを傷付けてしまったのでは、とか考えているのだろう。
いつもユウは自分の責任だと感じている。
『ユウ』
「大丈夫」
ユウは我を撫でながらそう答えた。
「サクヤには近付かないよう気を付けろよ。万が一ユウが勇者だったと知れれば、ユウが消えてしまう上に、強さへの執着が暴発しそうだ」
「うん……」
「また何か分かれば連絡するよ」
そう言って通信を終えた。
ユウはまた考え込んだ。そして少し辛そうな顔をしたかと思うとディルアスに目をやった。
「ディルアス……」
「? 何だ?」
「えっ、声に出てた!?」
「?」
「えっと、いや、あの、呼んだだけ……ハハ」
「? 変なユウだな」
「あ、あの、あの! 私……」
「ん? どうした?」
ディルアスが近付いて来た。
ユウ……、やはりお前は……。
「あ、あぁ、あの……私……ディルアスのことが……」
ユウが言葉にしようとした瞬間、激しい風が吹き荒んだ。
空は急激に暗雲が垂れ込め、夜のような暗さとなった。
「な、何!?」
「何だ!?」
ユウもディルアスも状況が分かっていないようだ。我とオブシディアンも呆然とする。突然の出来事に何も出来ないでいた。
ディルアスが飛翔し空高く周りを見回す。ディルアスが降り立つと状況を聞いた。
「何か分かった!?」
「いや、何も……ただ王宮近くの空が一層黒い雲が渦巻いているように見えた」
「えっ……王宮に行こう!」
「あぁ」
空間転移で王宮まで移動し、アレンの元まで急いだ。
途中でリシュレルに会い状況を聞いたが、まだ何も分からない、と王宮内も混乱状態のようだ。
アレンの執務室の扉を開けた瞬間、爆音が鳴り響いた。
「今度は何だ!?」
全員が叫ぶ。
「ユウ! ディルアス! 来てくれたのか!」
「アレン! 何事だ!?」
先程通信で話していたばかりのイグリードも再び連絡をしてきた。
どうやらガイアスでも同じように黒い雲が一面に広がっているようだ。
「分からん! まだ何も状況を掴めていない!」
「アレン! 外に!」
「!?」
窓の外を見ると空一面に魔物の大群が……。
「なっ!! 何だあれは!?」
今まで見たこともない数の見たこともない魔物が大群になって押し寄せて来る。
「こ、これは……俺たちに滅びろということか?」
アレンが苦笑した。
「諦めるな! 俺たちもそちらに向かう!」
イグリードの声が魔導具から響いた。
「そうだな、宮廷魔導士たち、それに兵士たち、戦える者は全て出動させろ!」
「はい!」
リシュレルは再び執務室から走り出て行った。
「俺たちも行くぞ!」
「うん!」
「待て! ユウは……」
アレンはそう言いかけて止まった。サクヤがいるかもしれないから、と心配をしているのだろう。しかし今の状況でユウやディルアスが出ないという選択肢はありえない。
それが分かるからこそ言い淀むのだろう。
「大丈夫! サクヤがいても今は協力し合うしかないよ!」
「あ、あぁ、そうだな」
ユウとディルアスは駆け出し、我とオブシディアンは走っている最中に元の姿に。
外に出ると魔物の気配のせいだろうか重苦しい空気が漂っていた。宮廷魔導士たち、兵士たち、も配置に就いていた。
「ユウ殿! ディルアス殿!」
一人の魔導士が声を掛けて来た。どうやらユウとディルアスを知っている人間らしいな。
「貴殿方がおられるのは心強い」
にこやかに笑ってはいるが、瞳には覚悟が見える。他の魔導士たちも皆同じだ。
「ユウ」
『ユウ』
ディルアスと共にユウを呼んだ。覚悟を決める。戦うのだ。
「ユウ、俺たちは負けない」
『あぁ、我等は勝つ』
絶対に勝つ。
「何も伝えずこのまま死ねない」
ディルアスが魔物を見据えたまま強い瞳で呟いた。
『我は必ずユウと共にある』
二度と離れない。一緒に生きるのだ。ユウにそれを伝えたかった。
『僕も絶対ユウを守るよ!』
オブシディアンも心強くなったものだ。
ユウは目を瞑り深呼吸をすると、強い瞳を向け言った。
「そうだね、絶対勝とう」
最後までお読みいただきありがとうございます!
再開した途端に申し訳ないのですが、またしばらくお休みします。
もう一つの作品ラストをまとめるのに時間がかかっておりまして、
こちらの作品もしばらくお休みいただきます。
いつも読んでくださる皆さまには大変申し訳ありません。
落ち着き次第、こちらも再開致します。
この作品も終盤に近付いて来ましたので、必ず再開・完結まで頑張ります!
しばらくお待ちいただけると幸いです。
よろしくお願いします。




