第四十五話
翌朝、寝ているところを急にユウがガシガシと撫でまわし起きるはめに。
『何だ?』
「別に~」
このひねくれた反応……、昨日の仕返しのつもりか? ユウがそのつもりならばやり返すだけだ。
人間化しユウを押し倒した。両手を押さえ付け身動き出来ないよう動きを封じた。
顔を近付けお互いの鼻先が触れる。
「ル、ルナ!!」
『人間は口にもするのだろう?』
「そ、それは恋人同士だけだから!」
『恋人同士とは何だ?』
「え、えっと……好きな者同士?」
『我はユウのことが好きだが?』
「私もルナのことは大好きだよ!」
『なら問題ないのではないか?』
「いや、そうじゃなくー!」
『?』
何が違うのだ、我はユウが好きだ。ユウがいなくなって改めて実感した。
ディルアスに取られる訳にはいかない。もう二度と離したくはない。
しかし、我はユウの契約魔獣。ディルアスとは違う。我はこの先死ぬまでユウの側にいるのだ。簡単に縁の切れるディルアスとは違うのだ。
押さえ付けていた手を離した。
『まあ良い。我はこの先もずっと共にいるのだからな』
「? うん、そうだね?」
ユウは何のことだ、とばかりにキョトンとした顔をした。ユウは鈍感だな。
ふむ、少しユウの心にも刻んでおくか。
ユウの顔をじっと見詰め、そのまま顔を近付け唇をペロリと舐めた。
「!!」
ユウは言葉にならないといった顔で口元を手で隠しながら目を見開いた。
「ル、ルナ!! な、舐め!! 口っ!!」
フッ、少しは気が晴れたな。ユウが何やら騒いでいるが、素知らぬ顔でベッドから離れた。
ベッドから離れると小型化に戻り、隣の部屋の椅子で丸くなった。その横では侍女とやらが朝食の準備をしている。
ユウも後からやって来たが何やらぶつぶつ言っているな。
「おはようございます、ユウ様。大丈夫ですか?」
「え? 大丈夫ですけど……」
「そうですか、なら良かったです。お顔が赤くなられているので体調がお悪いのかと」
「だ、大丈夫です!」
何やらユウが言われているが、我には何のことやら。関係ない話だ。鈍感なユウが悪い。
朝食を終えると扉が叩かれ、扉を開けるとディルアスがいた。
「う、あ、ディルアス……おはよう」
「あ、あぁ、おはよう。アレンが今後のことを話し合おうと言っていた」
微妙な空気を醸し出しているユウとディルアスに若干腹立たしいものを感じるな。
ユウもディルアスも無言なままでアレンの私室に向かった。中に入るとリシュレルはいなかった。
ユウとディルアスが無言だったからか、アレンが怪訝な顔をし聞いて来た。
「ん? 二人とも何かあったのか?」
「え!!」
ユウとディルアスは二人してビクッとしている。
「何も!」
「そうか?」
アレンは怪訝な顔のままだったが、まあ良いか、と話を続けた。
「さて、サクヤのことは……とにかくユウは関わらないこと。下手に魔物討伐に向かわないこと。まあこれは、ユウは我慢出来ないんだろうがな」
アレンは苦笑しながら言った。
「魔力感知の訓練はもう良いのか? もう終わりだとしてもこのまま王宮にいたらどうだ? 森ではサクヤと遭遇する確率が高くなる」
「うん……、確かにそうなんだけど……やっぱりずっと王宮でお世話になるのも気が引けるし、一度森に戻ろうかな……」
「王宮にいることには気を遣わなくて良いがな」
「うん、ありがとう」
「ディルアスはどうなんだ?」
ディルアスはビクッとし、アレンの方へ向いた。
「あ、あぁ、俺はユウがしたいようにで構わない」
「ルナにしろ、ディルアスにしろ、ユウには甘々だな」
アレンが盛大に笑った。
「甘々って! 二人にはからかわれてばっかりだし!」
「ん? 何をからかわれてるんだ?」
「えっ、いや、あの……」
「からかってない」
ディルアスは真面目な顔で言った。
「あ、あの、えっと……」
ユウとディルアスは無言になった。何なのだ。イライラするぞ。
アレンはニヤニヤしていた。
「お前ら何かあったのか?」
「な、何でもない!」
「怪しいなぁ」
「だから! 私、一度森に戻るから!」
「分かった分かった。余計なことはするなよ? 何かあったらすぐ連絡しろよ?」
「余計なことって」
ユウは苦笑した。とりあえずサクヤのことは一旦保留ということで、我らは久しぶりに森に戻った。
森に戻ってからはユウたちは索敵を強化しようとしていた。ディルアスと二人で交代しながら、通常索敵と特定索敵を発動させながらユウは過ごしていた。
戻って来てからはやたらとディルアスが我を意識しているのが分かる。ディルアスはユウが好きなのだろう。しかしユウは我の主だ。誰にも渡すつもりはない。
ディルアスもそれが分かっているのだろう、どちらかというと悔しがるような顔をしている。
まあディルアスがどう思おうと、我はユウの側にいるだけだがな。
ユウはオブシディアンと訓練をしようとしているのか、声を掛けようとしていたがディルアスに止められる。
「ユウ、一人で行動はするな」
「ご、ごめん」
『我が一緒なら良いだろう』
ユウには自由があるはずだ。それをディルアスが奪う権利はない。
「あぁ、良いよ、ルナ。ありがとう。やることないし、飛行訓練に行ってみようかと思っただけだから」
『行けば良いではないか』
「ハハ、良いんだよ、ありがとう」
何故ディルアスの言いなりになる。
『言いなりになる必要はない』
「すまない、ユウを閉じ込めておきたい訳ではないんだ。忘れてくれ。ルナと一緒なら行ってくると良い」
ディルアスがそう言うとユウはおもむろにディルアスの頬に両手を差し伸べ、グイッと自分の方へ顔を向けさせた。
ディルアスは驚いた顔をしている。
「そんな悲しそうな顔でそんなこと言わないで! ディルアスが嫌なことや悲しむようなことはしたくない!」
「ユウ……」
ディルアスが頬を押さえるユウの手に、自分の手を重ねて握り締めた。
ユウの手を掴むとそのまま顔から離し、片方の掌に唇を押し当てた。
「ディ、ディルアス!?」
その時魔導具から急に声が聞こえた。
「ユウ! ディルアス! アレン! 聞こえるか!?」
イグリードからだった。
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