第四十話
「うっわー! 凄いっすねー! さっきの魔法! めっちゃ格好いい!! しかもドラゴンに銀狼っすか!? スッゲー!!」
出て来たのは茶色の髪と瞳の男だった。ディルアスが残りの魔物を消滅させこちらに来る。
「誰だ?」
「あ、俺、サクヤって言います! お二人ともめっちゃ凄い魔法っすね! 俺、見とれちゃって!」
サクヤと名乗った人間はどうやら魔物の気配を追って来たら、我々が戦っているのを目撃し、入り込む隙がないからと、そのまま見物していたらしい。
「俺も少しは魔法使えるんですけど、お二人程凄くないんで、ほんと格好いいなって思って! 俺もそれくらい使えるようになりて~!」
テンションがやたらと高いな。
しかしこの気配……何か気になる。
ユウを見るとやはり同じことを感じたようで、目を合わせた。この気配は……。
「俺に魔法教えてくれません!?」
目を輝かせていた。
「無理です、行こう、ディルアス」
「え? あ、あぁ」
ユウはそう促すとディルアスの腕を引き、足早に歩いて行く。我らもそれに続き、ディルアスは何やらよく分からないといった顔だ。
サクヤは呆然としていたが、ハッとして叫んだ。
「またどこかで会ったら魔法教えてくださいね~!」
大きく手を振っていた。
サクヤから見えない場所まで来ると、空間転移でロッジまで一気に帰った。
「ルナ、怪我見せて?」
魔物に噛み付かれた痕が何ヵ所もあった。ユウは心配そうにする。
『大したことはない』
「治癒するね。さっきすぐに治癒出来なくてごめんね」
横たわる我の横にしゃがみ、ユウは治癒魔法をかけた。
『いや、それはいい。それよりも……』
「うん……あの人……」
ディルアスが治癒をしているユウの横に立った。
「さっきのやつがどうかしたのか? 何者だ?」
「うん……多分……多分でしかないけど……」
治癒が終わると立ち上がり身体を伸ばす。ユウも立ち上がるとディルアスの方を向いた。
「あの人……多分、新しい勇者……」
「!! 本当にか!?」
「多分……」
「なぜ分かった?」
『魔力の気配が似ていた』
ユウの代わりに我が答える。我はユウの前の勇者ショーゴとも繋がりがあり、ユウとも繋がりがある。我は勇者の気配を知っている。
『過去の勇者とも、ユウとも、気配が似ている』
「なるほど、そうか……」
ディルアスは考え込んだ。
「とりあえずアレンとイグリードに報告するか」
椅子に座りアレンとイグリードを呼び出す。
「アレン、イグリード、聞こえる?」
「ユウか! どうした?」
「今大丈夫?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
イグリードはどこかに移動しているようだ。
「すまない、私室に移動して空間隔離をかけていた。良いぞ」
「あ、俺もしとくか」
アレンは忘れていたようだ。
「ついさっきなんだけど、魔物が大量に出て……」
「魔物が大量!? どうなったんだ!? 今連絡が来てるということは無事なんだな!?」
「あぁ、うん、それは何とか大丈夫」
「はぁ、さすがユウとディルアスだな。余裕な感じか?」
アレンが笑いながら言った。
「そこまで余裕でもないけどね。大量過ぎたし、ルナは怪我したし」
「ルナが怪我!? 大丈夫なのか!?」
「治癒したから大丈夫だよ」
「そうか、なら良かった」
「で、何かあったんだろ?」
イグリードが聞いた。
「うん。勇者らしき人にあった」
「!?」
「勇者!?」
「うん」
なぜ分かったのかをユウは説明をした。
しばらく沈黙が流れる。
「そ、そうか……いずれ現れてユウと接触があるかもとは思っていたが、こうも早々に接触することになるとはな」
「うん……」
「ユウのことはバレてないんだよな?」
「すぐに別れたから大丈夫だと思う」
「だがロッジ近くだったから危ないかもな」
確かにロッジ近く、森を出てすぐのところだった。
「あの森は国所有だから、一般人は入れないが……用心するに越したことはないな。ユウは出来るだけ一人になるな」
「うん」
「用心しろよ! 何かあったら連絡してくれ。またこちらも何か分かったら連絡するよ」
「分かった」
通信を終わり、ユウはディルアスと話し合った。
「とりあえず索敵を強化しておこう。今は魔物や敵意のある人間にしかほぼ感知しない。普通の人間もはっきり分かるくらいに強化出来ないか考えよう」
「うん、でもそんな方法あるの?」
「分からない。でも索敵にも高位魔法があるからな、それを応用する方法はあるかもしれない」
「うーん、応用かぁ……図書館で調べてみるとか?」
「あまり街には行きたくないがな……手詰まりになったら行ってみよう」
対人間に特化した索敵か……、面白そうだな。まあ我には分からんのだが。
「うーん、対人間……。まず索敵といえば……、自分の魔力を全方位に放出して、相手の魔力を感知するもの……だよね?」
「そうだな」
「魔力を放出して、相手の魔力とぶつかると感知出来るんだよね?」
「あぁ」
「魔物や敵意を持つ者は魔力が突出してるから分かりやすいってこと?」
「恐らくな。敵意のない人間も魔力は大体みんな持っているから、気配くらいは分かるが、魔物みたいに突出してないから分かりにくい」
「突出してないから分かりにくい……。普通の人間は分かりにくいだけで、分からない訳じゃないんだよねぇ。ということは、逆に考えたら、特定の魔力に集中出来たら、その魔力だけを感知することも可能ってこと?」
「そうかもしれないな。それはあの勇者の魔力を知れたからこそ感知出来るかもしれないってことだな?」
「そう! どうだろ? 出来ないかな?」
「いや、出来そうだ。まず特定の魔力感知を練習してみる必要があるな」
「うん」
どうやら話は纏まったようだ。特定の魔力感知か。なるほど。それならばあの人間を感知することも可能かもしれんな。
ユウとディルアスはお互いの魔力を感知し合う練習を始めたようだ。
ユウとディルアスはお互い少し距離を置き、魔力に集中している。
見ているこっちはつまらんな。オブシディアンは早々に飽きて、あちらで眠っている。
二人共に目を瞑り集中していたかと思うと、ユウは微妙に変な顔になり、そしてディルアスは目を開けるとおもむろにユウの側へ向かった。
そしてディルアスはユウの頬を引っ張った。
「集中してない」
「ご、ごめんなひゃい」
「プッ」
「笑った……」
「え?」
「ディルアスが笑った……。ディルアスの笑顔、可愛い!」
「か、可愛い!?」
「あ、ごめん、可愛いなんて失礼だよね、ごめん」
ディルアスは耳まで赤くなり横を向いた。
何だこのやり取りは。見ているとモヤモヤとする。ユウは楽しそうだ。
「ま、魔力感知の練習をするんだろ!?」
「あ、うん、すいません」
ディルアスは怒ったように言うが、ユウはそれでも楽しそうだ。
「フフ」
「あー、もう! 魔力感知するぞ!」
ディルアスはそう言うと再び離れた位置に戻った。
ユウが楽しそうなのは良いのだが、やはり苛立つものは苛立つのだ。
改めてお互いの魔力を感知し合う二人だったが、ある程度感知出来るようになったら、次は森に身を隠しお互いの魔力を探す。
森の中では普段の索敵もしながらの併用での魔力感知。
ユウいわく、これが中々に疲れる作業らしい。
普段の索敵は然程負担になる魔法でもなく、どちらかと言えば無意識にも近い状態で発動していられる。しかしそれは無作為に敵意あるものを全て感知しているからであって、意識を集中させなくても引っ掛かってくるのだ。
しかし意識して特定の魔力を感知することを併用させると、無意識で行っていた通常索敵にも意識が及ぶ。
その結果両方に意識を集中させなければならなくなり、かなりの集中力を要する作業になってしまうらしい。
無事ディルアスを発見し、ロッジまで戻ると二人共がぐったりとしていた。
「つ、疲れた~」
「あぁ、通常索敵との併用はかなりの負担だな」
「うん。これ何とかならないかなぁ」
「魔力感知にもう少し慣れたらマシにはなるかもしれないが……どうだろうな」
「はぁぁあ」
「とりあえずもう少し練習を繰り返してみよう」
「うん……」
ユウとディルアスはぐったりとしながらこれからのことを考えていたようだった。
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