第三十八話
「アレンもイグリードも国王になったの!?」
「あぁ」
ユウは驚きアレンとイグリードは笑っていた。
「国王なのにこんな気軽に会ってて良いの!?」
「お前たちは特別だからな」
アレンがニッと笑った。
「結婚もして子供もいるぞ」
「えっ!! 二人とも!?」
「あぁ。リシュとディルアスはまだだけどな!」
ディルアスのほうを見てアレンはニヤッとした。
「私は陛下に一生お仕えする使命がありますからね。伴侶に構う暇はないのです」
リシュレルは澄ました顔で言った。そうなると視線は全てディルアスに……。
「俺は! ……俺はいいんだ……」
ディルアスは俯いた。一体何の話だ。ディルアスがどうとか興味はない。
「ふ~ん。いいのか……そうか。ちなみにお前たちはこれから一緒に住むのか?」
「? 一緒に住むって?」
「ユウのロッジにだよ」
アレンが聞く。
「えっ! あ! そっか、今ディルアスが住んでるんだよね」
「そうそう、だからどうすんのかな、と」
「あー、そうだね、今はディルアスの家だし、私はまた別のところ探すよ」
ディルアスが住んではいたが、元々ユウの家だ。ディルアスが勝手に住んだだけだ。
なぜユウが出なければならないのだ。
「いや! ユウの家だ! ユウが住めば良い!」
ディルアスが顔を上げて慌てて言った。
「今はディルアスの家だよ」
「いや、ユウの家だ」
二人で言い合っているな。今回だけはディルアスの意見に賛成だ。あれはユウの家だ。
「あー、めんどくさい奴らだな! 一緒に住めば良いだろうが!」
イグリードが言い放った。
「何部屋かあるんだろ? なら良いだろうが! ディルアスが一人が良いとかバカな発言するなら出て行くのはディルアスだがな! その時はユウ! ルナと一緒に住め!」
「は!?」
は!? 我と一緒に住め? 我が人間化し住めということか? 意味が分からん。
「ディルアスはユウが出て行こうが、誰かと住もうが関係ないんだろ?」
イグリードがディルアスに言い放った。
「俺は……」
「あ、あのさ、ディルアスは私と住むなんて嫌だろうし、私が違うところに住むから……」
ユウが傷ついているではないか。こいつらは何をやっているのだ。
「ユウと住むのが嫌な訳じゃない! 逆に俺と住むのは嫌かと……」
最後は尻すぼみになって聞こえなかった。
「い、嫌じゃないよ! 私は……全然……」
何故だか苛立つな。何だこのやり取りは。
「タイミングを間違うと大事なものを失うぞ」
アレンがディルアスに小声で、しかし強く言った。
ディルアスは俯いていた顔を上げユウを見た。
「ユウが嫌じゃないなら一緒に住まないか?」
「え、あ、うん。ディルアスが良いなら……」
一緒に住むのか……、ユウがそうしたいなら仕方がないが……。
「ディルアスはあのロッジでずっとお前の居場所を守ってたよ。帰ることのないお前の居場所を」
不安そうなユウに、アレンは切ないような顔で微笑んだ。
そう、ディルアスも我もオブシディアンも帰ることのないユウの居場所を守っていた。
あの場所はユウのものだからだ。誰にも奪われたくはなかった。
これだけはディルアスのことを認めるしかなかった。
「じゃあお前たちはあのロッジに一緒に住むんだな?」
イグリードがやれやれ、と呆れたような顔で言った。
「あ、あぁ」
「一緒にいるほうが何かと都合も良いだろ、新しい勇者のこともあるしな。ディルアスも心配になるだろう?」
アレンがディルアスの背中を思い切り叩いた。ディルアスは少し前のめりになりながら小さく頷いた。
「とにかく新しい勇者のことにしろ、何かあればすぐ連絡してくれ。それと魔物も増えて来てるからな……気を付けろ」
ユウは何やら考え込んでいた。
「ユウ、余計なこと考えるなよ?」
ユウはギクッと身体を震わせた。
「もう勇者でないなら魔物退治しても大丈夫、とか思ってるだろ?」
「ハハ、何で分かったの?」
「バカ! お前はもうそんなことしなくても良いんだよ!」
アレンは真面目な顔で言った。
「確かにお前やディルアスの魔力を頼らなければならないことも出てくるかもしれない。でも自分から危険な道を行くな。鉢合わせてしまったら仕方ないが、自分から討伐に行こうとするな。もうお前は自由なんだから」
「う、うん」
アレンは真剣に怒る。これは皆が思っていることだろう。ユウはもう戦う必要などない。
「でも求められたら動くからね」
ユウは笑顔で言った。やはりユウはそう言うのだな。アレンは少し驚いた顔から、ニッと笑った。
「あぁ、その時は頼む」
そう言ってアレンたちとは別れた。
ロッジに帰る途中ユウが聞いた。
「そういえば畑に何か色々植えてあったけどディルアスが育ててるの?」
「あぁ、ユウが育てかけていたやつを引き継いだ」
「そうなんだ! ありがとう!」
ちょうど話ながら畑に着いた。
「ディルアスって植物育てるの上手いんだね~」
「ん? いや、普通に育てただけだが」
確かにユウが育てていたときよりも、色々育っているな。
ユウはムッとした表情になり、それに気付いたディルアスはユウの唇に人差し指を押し付ける。
「口が尖ってるぞ」
そう言いながらフッと笑って指を離した。何をやっているのだ。
我がいつもユウをからかうのを思い出したのか、ユウは我を見たがそこは気付かなかったことにした。




