第三十六話
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ゼルと攻撃訓練がてら力試しをしていると、珍しくディルアスが口を挟んで来た。
「たまにはもっと広いところで思い切りやったらどうだ?」
ふむ、それも良いかもしれんな。そう言われ頷き、オブシディアンとディルアスも共に平原まで移動した。
オブシディアンは炎を遠慮なく吐き出せることに喜び、調子に乗ってあちこちに炎をまき散らしている。
我とゼルは実践のような動きで本気で勝負をした。
お互いが激しく炎を吐き出し、鋭い爪で掴みかかり、中々決着のつかない戦いを繰り広げた。
「きりがないな、この辺りで今日はもう終わりだ」
結局中々終わらない勝負に見兼ねてディルアスが止めに入った。
オブシディアンはすでに飽きて寝ている。どうやらかなりの時間が経っていたようだ。
やりすぎだ、と言いながらディルアスは我とゼルに治癒魔法をかけた。
やりすぎも何も自分が思い切りやれと言ったのではないか。少し不満に思ったが、まあ今日は久々に思い切り身体を動かし気分は良い。
満足してロッジに帰ると、何やら気配を感じる。
何だこの気配は。敵ではない。覚えのある気配……これは!
バッとロッジを見た。ロッジの中に感じる。
『ユウ!!』
叫んだ。心の底から叫んだ。そしてロッジに向かって走った。
ディルアスとオブシディアンはは驚いた顔をし、それに続く。
「ユウ!? まさか!?」
ディルアスは信じられないといった顔で小さく呟いた。
駆け寄り扉の前で止まる。
「ユウ、そこにいるのは本当にユウなのか?」
ディルアスが扉の中へ声を掛けるが返事はない。
『ユウ、ユウなのだろう? 姿を見せてくれ』
『本当にユウなの? 会いたいよ、ユウ!』
「ユウ! 会いたい!!」
ディルアスが苦しそうに叫んだ。
その時、ロッジの扉がゆっくりと開かれた。
中から現れたのは……
「ユウ!」
我もオブシディアンもディルアスも同時に叫んだ。
ディルアスはユウに駆け寄り、そして……抱き締めた。力一杯に。
「ユウ……ユウ!」
何をしているのだ、ユウはお前のものではない。
我は人間化しディルアスをユウから引き離した。
『いい加減に放してやれ』
ディルアスはそう言うと、顔を赤くし、小さくすまないと言った。
「フフッ、本当にディルアスだ」
ユウは楽しそうに笑う。あぁ、本当にユウなのだな。
『おかえり、ユウ』
その存在を確かめるようにゆっくりと抱き締めた。
「ありがとう、ルナ……ただいま!」
抱き締め返され、ユウが生きていることを実感する。あぁ、ユウだ。
『ユウ! おかえり!』
「オブもありがとう! オブは大人になったね」
ユウは大きくなったオブシディアンの身体を撫でた。以前のようにはもう頭には届かない。すっかり大人の体格になったオブシディアンに喜んでいる。
『しかしなぜ戻ることが出来たのだ?』
一番の疑問を投げかけた。
「あぁ、どういうことなのか説明をしてもらえるか?」
落ち着きを取り戻したディルアスが外にあるテーブルへ促しながら言った。
ユウは椅子に座り落ち着くと、神とのやり取りを一部始終話した。
呆然とした。
「やり直し……では、今のユウは俺が初めて会ったときのユウなのか?」
ディルアスが聞く。
「うん、そういうことだね。記憶や魔力は消えた当時のままにしてくれてるみたいだけど」
「そ、そうか……」
「みんな全然変わらないね。まさかルナとオブがまだここにいてくれてるとも思わなかったし、ディルアスがここに住んでくれてたなんて思わなかったよ」
ユウは懐かしそうに、嬉しそうに話す。
「あ、ディルアスってここに住んでくれてるってことは……」
「?」
「あの……結婚してたりとかは……」
「!? ない!! それはない!! 俺は! ……」
ディルアスは驚いた顔をして思い切り否定した。しかし、俺は、の後は続かなかった。
「そ、それにしてもルナ、よく私だって分かったね」
ユウにそう問われ、ユウの髪に手を伸ばした。
『そうだな、契約も切れているし、ユウの魔力も前とは少し気配が違うが、だが分かった。なぜだろうな、ユウだと分かった』
ユウの髪を撫で下ろしながら言う。
そう、何故か分かったのだ。前とは少し違う気配のはずなのだが分かった。
それ程までにユウを欲していたのか。ユウを真っ直ぐ見詰めた。
『また契約をするか? 我は構わんぞ』
「えっ、良いの?」
『僕も!』
オブシディアンも身を乗り出し言った。
「ありがとう、二人とも! じゃあ、またよろしくね」
そう言ったユウの顔は嬉しそうだ。
「また魔力を流し合えば良いのかな? 名前はすでに付いてるけど……」
『一度契約が切れているから、もう一度やり直すことになるな。名は契約が一度切れた時点でなくなっている。再び同じ名を付けてくれれば良い』
「分かった」
ユウは椅子から立ち上がり、我と向き合った。
両手を繋ぎお互いの魔力を流し合う。ユウからの魔力が流れて来る。
懐かしい……、ユウの魔力だ。前とは少し違ったとしてもユウの魔力は心地いい。




