第三十三話
朝、ユウは身動ぎすると我を撫で言った。
「ルナ、オブ、側にいてくれてありがとね」
『ユウ』
小型化の姿のままユウに寄り添った。
「心配してくれてありがとう。決めたよ」
『そうか、どの道に進んでも我は最後まで共にいる』
「うん、ありがとう、ルナ、大好き」
ユウは我を抱き締めた。
『ぼくも~』
オブシディアンがまだ寝惚けながらしがみついてきた。
「うん、オブも大好き」
再びイグリードの私室に集まった。
「ユウ、どうするか決めたのか?」
「うん」
皆がユウを見た。
「私は戦わない」
「!!」
アレンとイグリードは驚愕の顔をした。
ディルアスは……悔しそうな顔だ。我と同様にユウの答えが分かっていたのだろうな。
「ユウ! 本当にそれで良いのか!?」
「うん」
「戦ったにしても、人々は俺たちが守ると言ってもか!?」
「うん。二人には争いを起こさないことで人を守って欲しい」
ユウが答えを出すと、目の前の空間が歪み光だした。それが段々と人の型になっていく。
「決まったようだね?」
神が現れた。
「うん。私は戦わない」
「本当に良いんだね?」
「うん」
「では、私は新しい勇者を探すとしよう!」
「新しい勇者はどれくらいで現れるんだ?」
アレンが聞いた。
新しい勇者が現れたらユウは消える。
「さぁ、どうだろうねぇ。私もこんなことは初めてだからねぇ。明日になるか、それとも何十年後になるか、神のみぞ知る……って、私が神だった~! てへっ」
シーンとした。
「笑ってよ~! せっかく笑わせようとしたのに~」
やはりイラッとする神だな。
ユウは無視をして話を続けた。
「新しい勇者が現れたら消えてしまう前に分かる?」
「うーん、多分ユウなら分かるんじゃないかな~。じゃあね、ユウ」
神は笑顔でユウを見詰めた。そして一瞬にして消えたのだった。
「ユウ、これからどうするんだ?」
アレンが聞く。
「そうだね……、負の感情を抱いてもダメ、魔物を倒してもダメ、だから……どこか森の奥、人と会わないところでのんびり暮らそうかな」
「ならばエルザイアの王宮裏の森はどうだ? あそこなら国の所有だから、基本的には誰も入っては来ない。最北まで行くと海が見えるぞ」
「へー、海! 良いな、見たい! うーん、じゃあそこにしようかな」
「ならば手続きをしておく。家も建ててやる」
「え、良いの? やった!」
ユウは少し楽しそうだ。そんな様子にアレンとイグリードは複雑な表情を見せる。
「何かあればすぐに俺たちに相談しろ」
イグリードがそう言い、イグリードとも通信魔法を繋げる。
「俺たちは必ず人間同士の争いは起こさないと誓う」
二人とも真面目な顔で言った。
「うん。よろしくね、二人とも」
「あぁ、必ず……」
笑顔で解散した。そのままガイアスを離れることに。
イグリードは見送りに出て来た。
「ではまたな」
「うん」
盟友との別れを惜しむが如く、イグリードはユウを強く抱き締め、そして離れた。
「またね」
ユウは行きと同様に我の背に乗り走る。ユウは何も話さない。我も何も言わない。
今この瞬間だけは心地良く感じていれば良いのだが。
エルザイアに戻るとリシュレルにガイアスでの顛末を話した。
リシュレルは驚いたような悔しさのような哀れみのような複雑な顔をした。
「まさかそんな展開になっていようとは……ユウ様、何と言ったら……」
「気にしないで下さい……と言っても気にしちゃいますよね」
ユウは苦笑していた。
「良いんです! 私はこれからひきこもりを満喫するんです! なので、可愛い家をお願いします!」
「そうだな。とりあえず森にユウが家を建てる許可を取るか。それから家造りだ!」
それからは着々と家造りは進み、ユウはキシュクの人間に別れではなく、しばらく会えなくなると伝えていた。
そして一ヶ月後。
「完成だー! 希望通りー! アレンありがとう!」
王宮裏の森奥深くに家が建った。
「気に入ったなら良かった」
アレンも満足そうだ。
ディルアスは今日までずっと複雑そうな顔をしている。
「何か必要になったり、困ったことがあればすぐ連絡しろよ?」
「うん、ありがとう」
「じゃあな」
アレンもイグリードと別れたときのように、ユウを強く抱き締めて離れて行った。
ディルアスは無言だった。
「ディルアス?」
「俺は……」
言い淀んでいる。
「私に怒ってる?」
「!! 怒ってない!!」
「ユウに怒っている訳じゃない。自分に腹が立っているだけだ。何も出来ない自分に……」
「私のせいだね、ごめん」
「謝るな、ユウのせいじゃない」
沈黙が流れた。
「俺は会いに来る。良いか?」
「え? ここに?」
「あぁ」
「そ、それは……」
ユウには我やオブシディアンがいるから来なくて良いぞ。
「来るから。分かったな?」
「え、あ、うん」
「じゃあまた」
ディルアスはゼルに乗って去った。
「そうだ、ルナとオブ、元に戻って良いよ。これからはずっとその姿で大丈夫だからね?」
確かにこれからはずっと森の中。人目にもつかないしな。
「あ、そうだ、これだけは最初に言っておかないとね。ルナ、オブ、私がいなくなったら自由になってね」
『ユウ、ぼくユウがいなくなるのやだ!』
「ありがとう、でも仕方ないの。最後までいっぱい一緒にいようね」
ユウは元の姿のオブシディアンを撫でた。
自由に……。今はそんなことはどうでも良い。側にいるだけだ。自由とかはどうでもいい。
ユウは我を撫でる。ユウと瞳を合わせた。
これは我の誓いだ。




