第三十話
広い部屋に通され、我は小型化に戻りゼルは王宮の外に。
ユウは椅子に腰かけ我やオブシディアンを撫でている。撫でていたかと思うとその手が止まり、ユウの顔を見上げるとウトウトとしていた。
疲れたのだな、我やオブシディアンも撫でられている内に釣られてどうやら眠っていたようだ。
扉の外に動く気配を感じ目を覚ます。
気付くとユウはディルアスに寄りかかって寝ていた。
何故かその姿にモヤモヤし、ユウを起こそうとした時、ディルアスがユウに声を掛けた。
「ユウ、誰か来る、起きろ」
「あ、ごめん!」
「いい、それより誰かが来る」
ユウが慌てて身体を起こしたと同時に扉を叩く音がした。
「どうぞ」
ディルアスが返事をすると、イグリードが入ってきた。その後ろからはアレンも一緒に。
「少しは休めただろうか?」
イグリードがこちらに歩きながら聞いて来た。そのまま向かいの椅子に、アレンもその隣に座った。
「ガイアス国王との謁見を終えて来たぞ。お前ら二人にとても感謝されていた。それと……」
ニッとアレンは笑った。
「禁書庫の閲覧許可も貰ってきたぞ」
「おぉ! さすが、アレン!」
「だろ?」
自慢気に笑う。
「勇者について調べたいって? 何でまた勇者のことを?」
「あー、まあそれは……」
アレンがチラッとユウを見る。ユウはイグリードに理由を伝えるべきか迷っているようだな。
「お前らなぁ、こっちの禁書庫まで見たいとか言い出すなら、ちゃんと説明しろ」
何やら急に口調が変わったな。
「あ、さっきまでのは対外的にな、客人に不遜な態度は取れないだろ? こっちが素だからよろしく。アレンとも普通に喋ってるんだろ? じゃあ俺もそれで良いから。敬称もいらないから。めんどくさいし」
「は、はぁ……」
「アハハ、本当にリードはこんな奴だから気にしなくて良いぞ」
「じゃ、じゃあイグリードさん……」
「さん付けもいらん」
「え、じゃあイグリード……」
「あぁ。で、何で勇者を調べてるんだ?」
「えっと……それは……」
ユウが言い淀んでいると、見かねたアレンが切り出した。
「ユウは異世界人で、ケシュナの森に倒れていたらしいんだ」
「何!?」
イグリードは目を見開いた。
「本当か、それ!?」
「あぁ、こんな話、嘘をついてどうする」
「そ、そうか……異世界人……ケシュナの森」
「えっと、それで勇者について色々調べたいな、と思ってたんだけど、エルザイアにはあまり詳しく載っているものがなくて……」
「なるほどな……まだ不確定要素ということか……分かった……存分に調べろ」
「この事は陛下にもまだ内密に頼む」
「分かっている、心配するな」
納得してくれたようだな。ユウはホッとした顔をしていた。
調べるならば長期になるだろう、と、泊まる部屋を用意された。ただしアレンと同じく何か分かれば報告を、という約束で。
その後夕食だけ共にし、イグリードとは別れた。
「さて、明日から早速調べて回るか?」
「そうだね、もう閲覧許可があるなら早いほうが。またディルアス手伝ってくれる?」
「あぁ」
「じゃあ明日朝から調べるということで!」
「俺は少し外交的なことをしているから禁書庫は任せた!」
アレンは別行動か。またユウとディルアス二人で禁書庫へ行くのだな……。
「そうなんだ、分かった」
各々用意された部屋へと帰った。
翌日からユウは再び禁書庫通いが始まった。
『やはり待っているだけはつまらんな』
エルザイアのときと同様に部屋で待たされるだけはつまらん。
部屋を抜け出してやろうか、と考えていたところにユウが昼食のために戻って来た。ユウに抱き上げられ連れて行かれる途中聞いた。
『どうだ?』
「うーん、何か引っ掛かるんだけど、それが分からなくて、今考え中」
ユウから聞いた話によると、
ガイアスでは勇者に関する書物は纏めて配置されてあり、イグリードが場所を教えてくれていたため、すんなりと勇者関連の書物を見付けることが出来た。
ガイアスでも勇者に関する記載があるのは千年程前からのようだ。
ただエルザイアと違い、勇者本人のことよりも、魔物の出現の記載が多いようだった。年表と共に記され時系列が分かる。
✕✕年 初めて魔物が確認され討伐をした記録
✕✕年 徐々に魔物が増えて来た
魔物は人の心を惑わす力もあるようだ。
エルザイアの王宮に蔓延していたやつだ。
✕✕年 勇者が現れる
ケシュナの森からやってきたらしい。
不思議な魔力を持つ。
✕✕年 さらに魔物が増え続ける
✕✕年 宮廷魔導士ではもう対処が追い付かない
✕✕年 普通の魔法では倒せない魔物が現れる
魔王……。
✕✕年 通常ではない魔物、魔王と呼ばれる
✕✕年 魔王の力か、尋常ではない数の魔物が押し寄せる
✕✕年 勇者の聖魔法で魔王を倒す
魔王を倒した後は魔物が増え続けることはなかったらしい。
こういった記録が千年に渡って書き記されていた。魔物に襲われた村や街での被害状況や負傷者の数等、事細かに記録されている。
百年前後のペースで勇者が現れて魔王を倒す、ということを繰り返しているようだった。
ユウは考えながら中庭のような場所に出た。
風が気持ち良いな。やはり外のほうが良い。
ユウは風に当たりながらもまだ考え込んでいるようだ。
ユウが考え込んでいると、後ろからユウの頭に手が置かれた。
「今は考えるな」
振り向くとディルアスがいた。
ディルアスはそのまま頭を撫で、耳に触れ、降りてきた手は頬に触れ、離れた。
何をやっているのだ! ユウも顔を赤らめるな!
昼食の準備が整ったことを伝えられ、アレンたちのいる所まで戻った。
「ねぇ、さっきのって……」
ユウはディルアスに小声で聞いていた。
「さっき?」
「え……いや、あの……」
「もういい、何でもない」
ディルアスは無意識か……。しかし厄介な奴だ。
「ユウ、どうかしたのか?」
「えっ、ううん、何でもないよ?」
「この後また調べに戻るか?」
「うん、とにかくもう一度読み返してみて考える」
「そうか。何か分かれば報告してくれ」
昼食を食べ終わるとユウは再び禁書庫に戻り読み返した。




