第二十二話
「ゼル」
ディルアスがそう呟くとドラゴンが舞い降りて来た。
ドラゴン!? しかもオブシディアンと違って大人のドラゴンだ!
「大丈夫だよ、あの子はディルアスのドラゴンだから」
『ぼくよりおおきい……』
「フフ、そうだね」
久しぶりに仲間を見たからなのか、大人のドラゴンを見たからなのか、オブシディアンの瞳は輝いていた。
「おぉ! ドラゴン! 凄いな! ディルアスのか!」
「俺の仲間だ」
そう言いながらディルアスはゼルを撫でた。
「ルナとオブも元に戻って良いよ」
ユウがそう言うとオブシディアンが元に戻り、それに合わせ我も元の姿に戻った。
「おぉ!! ルナとオブか! 三体も並ぶと壮観だな!」
オブシディアンはゼルのほうを気にしているが、我の後ろに隠れている。
ゼルは我らが気になるのか近寄って来る。
オブシディアンは大人ドラゴンにビクビクしている。我はドラゴンなど興味はない。
「銀狼と黒ドラゴンか」
ディルアスは我らをじっと見詰めている。
「触っても良いか?」
「え、あ、うん、ルナは大丈夫だよ。オブは人間を怖がってるからやめてあげて」
「分かった」
「俺も触りたい!」
触られることは何とも思わんが、どうにも複雑な感情になるのは何故だ。
アレンはまだ信用した訳ではない。触られることにも不快感がある。
しばらくは撫でられていたが耐えられん。身震いさせてからユウの背後に回った。
オブシディアンはゼルに顔を近付けられて固まっている。
「ハハ、ルナには逃げられたな。ゼルだったか? 触って良いか?」
「あぁ」
「あのさ、そろそろ出発したほうが良いんじゃないの?」
「あぁ! そうだな!」
忘れてた、とばかりにアレンが言った。
「それで竜の谷はどこに?」
「エルザードから北東に行ったところにある、ネラダスティという山の麓にあるらしいと聞いた」
「ネラダスティ……」
「とにかく一度エルザードに行って、そこからその山を目指すぞ」
エルザードに行くなら、とディルアスが空間転移魔法を使った。全員を転移させる巨大な魔法陣だ。
「はぁあ、やっぱお前ら凄いな……転移魔法か。前、ユウが突然消えたのもそれだろ!」
「うん」
「はぁぁあ、お前ら何でもありだな」
アレンは苦笑していた。
「さてと、じゃあここから北東だ」
方位磁石のような魔導具を出してアレンが方角を確かめている。
「こっちだ」
それを無視するかのようにディルアスが歩き出した。
「おい! 勝手に進むな!」
「間違ってるの?」
「う、いや、あってるな」
ディルアスが勝手に歩き出したので、アレンは焦っていたが、どうやら間違いではなかったらしい。
「ディルアス、竜の谷に行ったことあるの?」
「竜の谷ではないが、近くまでは行ったことがある」
「そうなのか、早く言えよ!」
「もしかしてゼルはそこで?」
「あぁ」
ユウは話の続きが気になるのか、ディルアスを見詰めている。
「ゼルとは偶然出会った。その時ゼルは竜の谷から出て来ていたらしく、人間に見付かり捕まりそうになっていた。普段はドラゴンのほうが圧倒的に強いが、その時は不意に襲われたらしく怪我をしていた。そこに加勢して人間を追っ払った」
「へー! それから友達になったの?」
「友達って」
ユウらしいな、と思ったその言葉にアレンは笑ったが、ディルアスはそのまま続けた。
「怪我だけ治してやって、竜の谷に帰るように何度か言ったが、ゼルは付いてきた。だから望むのなら、と従属契約をした」
「ゼルはディルアスと離れたくなかったんだねぇ」
ゼルが空高く飛んでいる。
しばらく歩いていると陽が沈み出して来たため、野営することになった。
「野営かぁ、初めてだ」
「そうなのか?」
「うん。初めてディルアスに会ったときに一応野営らしきことはしたけど、全部ディルアスがしてくれてたから私はただ寝ただけだった」
「ハハ、何だそれ」
ディルアスとの話が気になるが今は聞くときではないのだろうな。何故こんなにも気になるのか……。
「ユウ、野営のときは結界と索敵をしたほうが良い。結界は自分たちの周りだけで良いが、索敵はなるべく半径二十メートルくらいはしとくべきだ」
「なるほど~! じゃあ今日は私がしてみるね」
「お前らといると便利だな」
アレンが笑った。
「今日はディルアスたくさん話してくれて嬉しいよ」
ユウがディルアスの顔を覗き込んで言った。ディルアスは照れたのか、慌てて横を向いた。
何か気に入らん。
「おーい、とりあえず俺にも出来る範囲で火点けといたぞ」
薪の周りに腰を下ろし、持ってきていた携帯食を食べた。
「ユウとルナたちの出会いはどんなだったんだ?」
アレンが食べながら聞いて来た。
「あ~、依頼があって……」
ユウはあったことをそのまま話していた。
「確かに黒ドラゴンは普通のドラゴンの中でもさらに稀少だからなぁ。しかし普通の人間は竜の谷なんか入ったらすぐやられそうだけどな。母親と一緒に連れ出せるってのは、やっぱりゼルみたいに外にいたのか?」
「辛いことだからか覚えてないのかも」
「そうか、まあ行けば何か分かるかもな」
そんな話を横で聞いていると、何かを感じた。
慌てて立ち上がり警戒する。




