第二十一話
そんなに上手く行くものか! 信用出来ん。
「そもそも竜の谷の場所は分かってるの?」
我も竜の谷とやらがあるらしい、としか聞いたことがない。どこにあるのかもどういった場所なのかも知らない。ドラゴンにしかそれらのことは分からないと言われているような場所だ。
何が起こるか分からない。
「あぁ、確かではないが、目星を付けている場所がある」
「ちょっと考えさせて」
「分かった。キシュクの宿屋に泊まっているから、出来るだけ早く返事が欲しい。この話は他言無用で頼むぞ」
そのままキシュクへと帰り、アレンはレンに戻り宿屋に消えた。
「どう思う? 行くべきかな?」
『我は反対だ』
『ぼくはいきたいような、いきたくないような……』
「行きたくない気持ちはどんな気持ち?」
『うーん、いってもおかあさんいない。つかまったぼく、きらわれる』
「嫌われたりはしてないと思うけどね」
「ルナは何で反対?」
『信用出来ない。ユウの力を利用されるだけだ』
「うん、確かにね……」
ユウのことが心配だ。ユウと行動を共にするようになって、ユウの人間性を知り、もっと知りたいと思うようになってきた。きっとユウは行くのだろう。だからこそ心配になる。
この我が人間をここまで心配する日が来るとはな。苦笑した。しかし嫌な気分ではない。これも良いだろう。
『だがユウは行くのだろう?』
真っ直ぐユウと目を合わせた。
「うん……そうだね。ごめん」
『謝るな。奴の誘いには反対だが、ユウの考えに反対はしない』
「ありがとう、ルナ」
『ぼくもユウがきめたならいいよ~』
「オブもありがとう」
「二人共大好き!」
ユウは我らを思い切り抱き締めた。
『グッ』
『くるしい……』
「ハハ」
ユウは楽しそうだ。ならば良い。
マリー亭とやらに戻ると、ユウは他の人間たちに今回の話をした。
詳しくは話さなかったようだが、必死に心配するな、と伝えていたようだった。
次の日、アレンに引き受けることを言ったのだった。
出発はさらに翌日になった。
「ユウ、引き受けてくれてありがとな。さて、そろそろ出発して良いか?」
アレンはレンの姿のまま迎えに現れた。
人間は未だ心配しているようだ。
「じゃあ行ってきます」
ユウが人間たちに別れを告げると同時に一人の人間が叫んだ。
「あ! ディルアスじゃないか!」
ディルアス?
「ディルアス帰ったのか!」
「あぁ」
声を掛けられこちらにやって来たディルアスとやらに、何故かユウは見詰められあたふたしている。
「随分と成長したな」
「えっ!?」
何の話だ、こいつは誰なんだ。
「あのさ、もう出発して良い?」
アレンが痺れを切らせ話に割って入った。
「あ、ごめん。今行く。ディルアスも久しぶり! 前助けてくれたときはありがとう。ちょっと私は出ないといけなくて……また会えたら色々話したいな! それじゃあ!」
前助けられた? いつの話だ。我と出会う前の話か。
「あ! ディルアス! あんた、今依頼とかないんだったらユウを助けてあげなよ!」
「?」
「え!?」
ユウもディルアスも驚いた顔をしている。
「えー、何の話? 俺はユウにしか頼んでないし勝手に人を増やされてもねぇ」
人間の突然の提案にアレンが不服そうに言う。
「ディルアスはユウと同じくらいの魔導士だよ? 足手纏いとかは絶対ないと思うけどね」
「え! そうなのか!? それは凄いな!」
「いやでもディルアスが行くとは思えないんだけど……」
人間の一人がチラッとディルアスを見た。無表情な奴だな。
「そんな急に言われてもディルアスも困るだろうし、大丈夫だよ、私一人で」
「依頼か? 良いけど……」
「え……、あぁ、あぁ、そうかい! 行ってくれるかい!」
?? 一緒に行くのか!? 人間たちですら意外に思っているようではないか! ディルアスとやらは何故引き受けるのだ!
アレンの目の前に立ち見下ろす。無表情で見下ろされアレンは少し引きつっているように見える。
「よろしく」
「お、おう」
結局一緒に行くのだな……。何なのだ一体。
「じゃ、じゃあ行くかー」
アレンはそのまま踵を返すと歩き出した。
歩きながらディルアスが聞いて来た。
「それで、どこに何をしに行くんだ?」
「あー、うん。ちょっとここでは話しにくいから街の外で」
「アレン、全部話して大丈夫だよね?」
「あぁ、仕方ないからなぁ」
ユウはあの時アレンと初めて話した内容をそのままディルアスに説明する。
アレンも再び変装を解いて姿を見せた。
「普段はレンだからな! お前たちも人前ではレンと呼んでくれよ?」
そう言いながらすぐにレンの姿に戻った。
「ディルアスだっけ? 本当にユウと同じくらいの魔力なのか?」
「いやいや、私よりもっと凄いよ!」
そうなのか、ユウより凄い魔力とは……。
「ねぇ、ディルアスの魔法、見せてくれないかな?」
「なんだ、ユウも見たことないのか!」
「うん」
「アッハッハ! それで自分よりもっと凄いよ! って!」
アレンが大笑いしている。
ユウとアレンが言い合っているとディルアスが魔法を発動させた。
炎が躍りだし激しく揺らめきながら岩に向かう。炎と絡まるように雷撃が迸る。優雅に舞うように放たれた炎と雷は大きな岩を一瞬で砕いた。
「お、おぉ、凄いな! 本当にユウと同じくらいだな!」
「凄い、綺麗」
「ん? 感心するとこそこなのか?」
「え、だって、何か優雅で綺麗なんだもん」
「ハハハ!」
アレンがまた大笑いしている。ディルアスはそれでも無表情だ。
「お前もっと覇気を出せ! せっかくそんな凄い魔法使えるのに」
アレンはディルアスの背中をバシバシ叩いていた。
ユウはそれを見て楽しそうだ。何故だか複雑な気分だ。




