第二話
「うわぁぁ!! でっかい狼!!」
我を見るなりその男はそう叫んだ。
「あぁ、俺、こんな訳分からない所で死ぬんだ……一体どこなんだよ! ここは!」
その男は状況が分からないことに苛立っているばかりで、我のことを怖がっているようには見えない。大抵人間は我と出会うと恐怖の顔になる。なのにこの男は全くそれがない。変な奴だ。
「夢なのか!? んな訳ないかな。おーい、狼、お前、俺を食べるんだろ? 苦しまないよう一気にいってくれ!」
その男は真面目な顔付きで言った。
独り言の挙げ句、勝手に人間を食べる種族だと思い込んでいるのか……。
面倒だ……。
『我は人間など喰わん』
「!? 狼が喋った!?」
『……、我の声が聞こえるのか?』
「うわっ、また喋った!!」
我は人間化することが出来るが、この獣姿のときに人間と言葉が通じたのは初めてだな。
『この姿のときに言葉が通じたのはそなたが初めてだ。我は人間など喰わぬ』
喋ると背が痛む。面倒になり顔を伏せた。
「お前、怪我してるのか?」
男は近付いて来た。
面倒な奴だな。唸り声を上げ威嚇した。
「怪我してるなら無理するな、何もしないから」
男は我の目の前に腰を下ろし座り込んだ。
「それにしてもやたらデカイ狼だし、喋れるし、何者? ここってお前みたいなのばかりいる訳!?」
『ここから西に向かえば街がある』
側でごちゃごちゃ喋られていると疲れる。早くどこかに行ってくれ。
「おぉ、街? お前、そんなことも教えてくれるなんて親切な狼だな」
『…………』
追っ払いたいだけだ。
「ありがとな! 何がなんだか、分からないけど、とりあえず街に行ってみるよ!俺、彰吾、覚えといて! じゃ、またな!」
男は元気よく手を振り去って行った。
やっと静かになった。
またはない。
そう思ったのは束の間で、翌日ショーゴとやらがまた現れた。
「よう! 怪我どうだ?」
『何をしに来た』
「昨日はありがとな! おかげでレガルドって街で、色々助けてもらったよ」
『レガルド? 我は西に行けと行ったはずだが?』
「ん? こっちだろ?」
ショーゴが指差した方は……
『それは東だ……』
「えっ……、あ~……、でも街はあったぞ?」
目を逸らしながらショーゴは言った。
ここから西に行けば、エルザイアという国の街、キシュクに着く。
反対の東へ行けば、ガイアスという国だが、この森すぐ近くに街はない。
ガイアスとの国境近くにレガルドという街はあるが、ドルネドという名の国で、あまり良い話は聞かないが……。
まあこの男がどこへ行こうが知ったことではないが。
「レガルドって街はみんな親切だったぞ? ほれ、傷薬」
ショーゴいわく、街で色々教えてもらい、魔法のある世界なのだと、そして自分にも魔力があるのだと分かった、と。
それからは毎日ショーゴは現れた。
今日はやれ、何をした、やら、魔法訓練をした、やら。
毎日毎日話を聞かされうんざりした。
しかし毎日来る度に魔法の能力が上がっており、治癒魔法を覚えてからはというと、練習がてらなのだろうが、、おかげでかなりの重症だった傷があっという間に治っていった。