第十八話
ユウと別れるとオブシディアンを肩に乗せたまま、街の中心地まで戻る。
さすが王都というだけはあり凄い人だ。オブシディアンが怯えているな。
『大丈夫だ』
肩に乗るオブシディアンを撫で言った。
『う、うん。ひとがいっぱいだね』
『あぁ』
露店を見て歩くと様々なものが売られていた。店の前を通る度に声をかけられるが、金とやらを持っていないので、そのまま通り過ぎるだけだ。
その度に何やら視線を感じ周りの気配を探るが、特に不審な気配ではない。
気にせず歩いていると、その視線はさらに増えていく。
何なのだ。
気付けば何者かが我らの後を付けて来る。しかもかなりの人数そうだ。
オブシディアンを狙う者か!?
警戒しながら広場に出た。そこまで来ると勢いよく振り向いた。
『誰だ!!』
振り向くと無数の人間が遠巻きにいた。
そこに集まる人間たちは我が振り向くと、キャーキャーと騒ぎ出し近寄って来た。
『な、何だ!?』
特に敵意がないため、どう対処したら良いか分からん。
「貴方、お名前は? どちらの方?」
「何をしてらっしゃるの? 迷ったの?」
「旅のお方? お一人なの?」
詰め寄られ、矢継ぎ早に問われ意味がわからない。
一体何なのだ。
対処に困っているとユウから連絡が来た。
「ルナ、聞こえる?」
『あ、あぁ、き、聞こえるが……』
ユウと話していても、何を言っているのだ、と詰め寄られる。
「勇者の聖魔法について聞きたいんだけど……」
『あ、あぁ、何だ?』
「どうかした?」
『いや、何だか、人間に囲まれて困っている……』
「えっ!」
『蹴散らしても良いか?』
というか、蹴散らしたい。
「いやいやいや! ダメ! それはダメ! すぐ行くから待ってて!」
『分かった……早く来てくれ』
我慢の限界だ。蹴散らしたくて仕方ない。
何なのだ、この人間たちは! 身体をベタベタ触って来て気持ちが悪い。
ユウに触られても平気だがこの人間たちに触られると不快だ。
ユウ、早く来い。
「ちょっとごめんよ~、お嬢さんごめんね~、はい、この男、俺の連れ! 良い男でしょ? 俺も!」
突然見知らぬ人間が人垣に割り込んで来た。
周りの人間たちはその人間が言った言葉に笑っている。
『お前は誰だ』
「シッ。あっちであんたのお嬢さんが待ってるぜ。黙って付いて来い」
その人間は耳打ちしてきた。その人間の目線の先にはユウがいた。ユウの知り合いか。
「ちょっともう行かないと、残念だけどお嬢さんたちまたね!」
そう言うと我の腕を掴み人垣を掻き分け、引き連れて行った。
そしてそのままユウのところまで行くとユウの腕も掴み、纏めて建物の裏まで連れて行かれた。
「ルナもオブも大丈夫!? ありがとうございます」
ユウは言いながら、オブシディアンを我の肩から下ろし、その人間に礼を言った。
『あぁ、ユウ、すまない』
まさかあんな事態になるとは。
「いや~、男前は大変だな!」
その人間は笑いながらそう言うと、急に意識がユウの手元に向いた。
「そっちの黒いの、もしかしてドラゴンか!?」
「!!」
ユウは慌ててオブシディアンを背に隠し、我はユウとその人間の間に割り込んだ。
『お前は誰だ』
油断した。オブシディアンを狙うやつだったか!?
「そんなに警戒しないでよ。俺はレン。ドラゴンは珍しいから興味あっただけで何もしないよ」
人間は両手を上げて見せた。
「ほんとに何もしないから心配しないで! 次会うことがあれば、ドラゴン見せてくれたら嬉しいけど! じゃあまたね~」
そう言うと人間は片手を振り去って行った。
「またね、って……。あぁ、でもやっぱりルナの人間化は危険! 仔犬化!」
さっきの人間のことよりも我の人間化の話にされてしまった。
『なぜ囲まれるのか分からん』
我が一体何をしたというのだ。人間化の何が悪いのだ。分からん。
渋々小型化になった。
『仔犬ではない』
「分かってるよ」
ユウは笑いながら我を撫でたが、納得いかん。
撫でながら抱き上げられ、ムッとしていたのが分かったのかずっと撫でられた。
『そういえば先程何か聞きたかったのではなかったか?』
「あ、そういえば忘れてた」
我が聞かなければ完全に忘れてたな。
「ルナの前の契約者さん、勇者だったんだよね? 聖魔法っていう魔法を使ってたの?」
『聖魔法? 普通に炎やらの魔法は使っていたが、聖魔法とやらはどんな魔法のことだ?』
「えっと……凄い回復する治癒魔法だったり、死んだ人を蘇生したり、魔物を消滅させたり……」
『ふむ、死んだ者を蘇生とやらは分からんが、魔物の消滅は見たことのない魔法でやっていたな』
「へ~、やっぱり勇者の魔法なんだね」
『あぁ、奴が使っているところしか見たことはないな。しかし普通の魔法でも魔物は倒していたぞ。魔王はその聖魔法とやらしか効かなかったが』
「そっか、魔王は聖魔法しかダメなんだね」
「魔王ってわざわざ会いに行ったの?」
『ん、どうだったかな、会いに行ったというよりは、どんどん魔物が増え、向こうから現れたような。最初奴も魔王だとは気付いていなかったしな。魔法が効かず聖魔法とやらで何とか倒し、後々魔王だったのだ、と伝えられたようだ』
「そうなんだ」
ユウは少し考え込んだがすぐに考えるのを止めたようだ。
「とりあえず今日図書館中途半端になっちゃったし、明日また行くよ。今度は部屋でお留守番ね!」
『分かった』
せっかくの王都散策だったのに、こんな目に遇うとは。
あの大勢いた人間のせいではないか。
しかし思い出すとゾッとした。




