第十七話
宿に荷物を置くと隣の店へと食事に入った。
ユウは椅子に座ると深い溜め息を吐いた。
『疲れたか?』
オブも横で伏せているが、そんなに疲れたようではなさそうだ。やはり人間の方が体力がないのか?
「え? まあうん、そうだね。初めて遠出でキシュク以外の所に来たし」
『街の外での移動は歩いているときでも我の背に乗っていれば良い』
人間の方が明らかに体力がないのであれば、我の背に乗れば良いだけだ。我は人間よりも遥かに体力も力もある。
「フフ、ありがとう」
ユウは笑った。
「ルナの昔の契約者ってどんな人だったの?」
『契約者か……遥か彼方昔の勇者だった。契約したときは勇者だとは知らずに知り合ったが、いつしか魔王を倒して勇者と呼ばれていた』
「勇者……」
『奴もユウと同じで最初から我と言葉を交わしていた。ユウと同じで面白い奴だった』
「面白いって!」
『ハッハッハ』
ユウといると笑うことが増えたような気がするな。ショーゴといたときも楽しかったが、ユウとのほうが気が楽だからか楽しいと今思えている気がする。ショーゴは辛そうな日々が多かった……。
「その人とは魔王を倒した後もずっと一緒にいたの?」
魔王を倒した後……忘れていた記憶が甦る。
『いや、魔王を倒した後はある日突然消えた』
「え!? 消えた?」
『あぁ、全く気配を感じることが出来なくなった』
「そんな……」
あの時を思い出す。
突然ショーゴが消えたあの時。
我は置いて行かれたような気持ちになっていた。初めての感情であの時はよく分からなかったが、年数が経つにつれ、置いて行かれたようで悲しい、裏切られたようで憎い、もう会えないのかと寂しい、色々な感情を理解した。
そして我はショーゴという人間が好きだったのだとその時初めて理解したのだった。
『ユウが気に病む必要はない。どのみち人間のほうが先に寿命が尽きるのだ。いつかは別れが来る。それはユウとも、だ』
それは本心だ。やはりどれだけ人間と親しくなろうとも、我との時間の流れは違う。必ず我より先にいなくなるのだ。だからと言ってショーゴやユウと出会わなければ良かったとは思わない。
我は人間を好きになれて良かったと思う。
ユウともいつ別れが来るかは分からないが後悔はしない。最後まで共にいるだけだ。
「そうだね。私と契約してくれてありがとうね」
ユウとは心が通ったような気がした。
そうしているとオブシディアンが割り込んで来る。
「フフ、オブも契約してくれてありがとう」
そう言ってユウはオブシディアンを撫でた。
そんなとき後ろの噂話が聞こえて来た。
どうやら王子が行方不明で、さらに王宮内が不穏な空気になっているらしい。他国に戦争を仕掛けようとしているとかなんとか。
ユウが不安そうな顔をした。
『大丈夫だ』
戦争など起こらない。もし起こったにしても我がユウを守る。
「うん、そうだね」
ユウは気を取り直し、食事を終えると宿に戻り明日王立図書館へ行くと言った。
翌朝、部屋で朝食を取ると支度を整えた。
「さて、今日は王立図書館に行くよ!」
『我らはどうする?』
図書館へは一緒には入れないらしい。
「この部屋で待ってるのは?」
『街をうろついていてはダメか? オブシディアンは我が守るから大丈夫だ』
「いや、そういうことではなく……」
王都には我も初めて来たのだ。何をするでもないが、少しくらいは見て回ってみたい。
「うーん、じゃあ人間化でなるべく人とは関わらないように気を付けてね」
『? 分かった』
人間と関わらないように? よく分からんな。
とりあえず人間化した。ユウが何だか微妙な顔付きだが、まあ良いか。
オブシディアンを肩に乗せながら図書館まではユウと共に行くことにした。
途中、城の前を通りユウは何やら門兵と話していたが、それよりも何やら良くない気配を感じる。
「ルナは何か感じる?」
門兵と話し終えたユウが聞いて来た。やはり気付いたか。
『あぁ、微量だが魔物の気配のようなものを感じるな』
ユウは何やら考え込んだが、考えても無駄だと判断したのか、気を取り直し図書館へ向かった。
『では、我々は適当な所で待機している。何かしらあればすぐに呼べ』
「うん、ルナこそ気を付けてね!」
『?』
何を気を付けるのだ? 人間に攻撃したりなんかはしない。オブシディアンも小型化しているから狙われることも恐らくないだろう。我は人間化しているから見た目的にはバレないはずだ。
よく分からんが、まあ良い、街を歩いてみるぞ。




