第十六話
ブックマークありがとうございます!
着いたのはキシュクだな。遥か昔に行ったことがあるが、最近では人間の街自体に行くことがなくなった。街も人間も変わったのだろうな。
ユウは我とオブシディアンを抱き抱えたまま、早足である店に入って行った。
どうやら飲食店のようだ。テーブルでは多くの人間が食事をしていた。
ユウは店の者らしき人物に話し掛けると、食事を受け取り二階へと上がった。
二階の一部屋に入ると、緊張が解けたかのように明らかにホッとした表情をしていた。
「明日、みんなに紹介するね。夕食食べようか。そう言えば二人は何が食べられるの?」
我もオブシディアンも人間と同じもので大丈夫だと答え、ユウの食事を分けながら食べることになった。
一人分を分けるには少ない。まあ我は何日か食べずとも大丈夫だからな。ユウが見ていないときにでも狩れば良い。
翌日、ユウの仲間らしき人間たちに引き会わされた。
男が二人に女が二人か。
オブシディアンと共に、元の姿に戻ると人間たちは目を見開いて驚いているようだった。
何やらユウに話している。
一人の男が我らを触っても良いかと聞いてきた。
「二人とも良い?」
オブシディアンに目をやると、明らかに怯えているな。
『我は構わないが、オブシディアンはどうだろうな』
ユウはオブシディアンを見てから頷いた。
「オブはまだちょっと人間が怖いみたい」
「そっか、そうだよね。分かった。オブは触らないよ」
男はそう言うと我に近付いて、そっと身体に触れて来た。
「凄い、綺麗な銀色の毛皮だね。格好いいな」
そう呟くと、他の三人も撫でて来た。
身体のあちこちを撫でられムズムズしてきた。
『もう良いか? ムズムズする』
「はは」
笑われた。正直な感想なのだがな。
男が笑ったユウを不思議に思ったらしく聞いて来た。
「どうしたんだい?」
「え? ルナがムズムズするから、もう止めてくれって」
「あぁ、言葉が分かるんだったね」
明らかにえ? という顔をした。我の言葉が分かる人間はいなかった、と言ったと思うのだがな……。
『我は人語を話すことが出来るが、獣の姿のときに人間と言葉が通じたことはない。昔、我を従属させていた主とユウだけだ』
「そうなんだ、てっきりルナはみんなと会話出来るのかと思った」
『そうだったら、オブシディアンを庇っていたときにもっと早く解決出来ていた』
「それもそうだね」
まあ人間と会話出来ていたにしても、それだけでオブシディアンの件を解決出来ていたかと思うと甚だ疑問だが。
ユウは人間たちと話をし出し、我らは小型化に戻った。
何やら話し込んでいるが、何の話やら。
オブシディアンが暇そうにしているぞ。人間が怖いくせに興味津々で後ろをチョロチョロと。気付かれても知らんぞ。
気付かれそうになる度、ビクッとし我の後ろに隠れようとしているが、隠れ切れていないがな。
どうやら話が纏まったようだ。話を聞くと王都に行くということだった。
王都か、話で聞いただけで行ったことはないな。柄にもなく少し楽しみだ。
翌朝、昨日の人間たちに見送られキシュクを出た。
「さて、街の外だし元に戻って良いよ」
ユウは街から離れると、我らに向かって言った。
我とオブシディアンは元の姿に戻った。
『王都やらには歩いて行くのか?』
「うーん、そうだね。急ぐ旅でもないしのんびり行こうか」
『我の背に乗せても良いが』
我の背に乗ったことがある人間もショーゴだけだったな。
「ルナの背中?」
『あぁ、飛ぶことは出来ないが、それなりな速さでは走れるぞ』
自慢ではないが、そこらの動物や魔獣と比べても我に追い付くことの出来る者はいないだろう。
「そうなんだ、じゃあ一度試してみようかな」
そう言うとユウは我の背によじ登った。ユウがしっかりと乗ったことを確認し立ち上がる。
『では、行くぞ』
そう言い、まずは半分程の速度で駆け出す。岩や木々の合間をすり抜け、避けることの出来ない障害物は高く飛び上がり駆け上がる。
久しぶりの走りで我の調子も上がって来た。
もう少し速度を上げるか、と思った矢先にオブシディアンの声が後ろから聞こえた。
『まってよ~』
どうやらオブシディアンを置いて行ってしまったようだ。まだオブシディアンには早すぎたか。
「ルナ、止まって。オブが付いて来れない」
仕方がないので、少し速度を落としてから近くの岩場に飛び降りた。
「ルナに乗るのは気持ち良かったけど、オブが付いて来れるようになるまでは歩きだね」
『そのようだな』
オブシディアンは息を荒くしながら追い付いた。
「ごめんね、オブ。休憩したら歩いて行こう」
『ううん、ぼくもごめんね。はやくいちにんまえになるからね』
健気なものだ。ユウも同じように思ったのだろう、オブシディアンの頭を撫でた。
我らが人間の目に付かないよう、ユウは本来の街道からは外れて歩いた。
そのせいか予定よりも少し遅くに王都エルザードに着いた。
「ルナ、オブ、また小さくなってね」
小型化した我らをユウが抱き抱え歩いた。
「もう夕方だしとりあえず先に宿屋を探そうか。散策はまた明日だね」
抱き抱えたまま宿屋を探すユウに声を掛けた。
『ユウ、抱えていては重いだろう。我は歩いて付いて行くぞ』
「ん? あぁ、大丈夫! 出発前に身体能力強化も魔導具に附与しといたから。だから大丈夫だよ! もふもふぷにぷには譲れない!」
力強く言い切ったな。やはりユウも可笑しな奴だ。思わず笑いが漏れたが、ユウには気付かれてないか。
しばらく歩いていると宿屋を見付け部屋を借りた。




