第十四話
「可愛いー!!!! もふもふー!!」
そう叫ぶと我を抱き上げ頬擦りし出した。
『お、おい!』
「あ、ごめん」
人間化のときとえらく態度が違うじゃないか。まさかあんなに抱き付かれるとは……。人間の女とは柔らかく良い匂いがするのだな……。
「じゃあ契約お願いします!」
さっきまでの渋り具合と全く違う態度だな。本当に可笑しな奴だ。
『了解した』
「ん? でも契約ってどうするんだっけ?」
『我の魔力は先程そなたに流し込んだ。そなたの魔力を少し我に送ってくれ』
そう言ってから再び人間化した。
やはり人間化すると態度が明らかに変だな。
『顔が赤いぞ、大丈夫か?』
顔を覗き込むと思い切り背けられた。ますます覗き込みたくなるな。さらに覗き込もうとして言葉に遮られた。
「大丈夫! 両手から流し込んだら良いんだよね?」
『そうだ』
残念ながら顔を覗き込むのは諦めた。
顔を背けたまま、両手を握り締め魔力を送って来る。
魔力を受け取ると、元の獣姿に戻った。
『我の額に触れながら、我に名を』
「名前? 何て言うの?」
ショーゴが付けた名前はある。しかし誰が呼ぶでもないその名も遥か昔に忘れ去った。我にもう名はない。それで良い。
『我に名はない。そなたが付けてくれ。名を与えることで契約される』
「名前か、名前、名前……、ルナ……ルナは?」
『主が付けてくれる名なら何でも良いぞ』
名を貰うというのも嬉しいものだな。忘れていた。
主は我の額に手を伸ばしそっと触れた。
「あなたの名前は、ルナ」
額に触れた手から眩い光が放たれ、消えた。
『我が名はルナ、主よ、これから我はそなたと共にある』
『ぼくもいっしょにいたい!』
ドラゴンが後ろから叫んで来た。
大人しくしていたと思えば、一緒にか……。
主はこちらを見て来た。我に意見を求めているのだな。
『ドラゴンは人間に狙われる。まだ幼いお前は竜の谷に帰る方が良いと思うが』
「だよねぇ」
そう思ったのなら自身で言えば良いものを。
ドラゴンは嫌だと泣き出した。いや、涙はないが。
ドラゴンが言うには母親も一緒に捕まっていたのか。我らが見付けたときにはすでに母親はいなかった。連れて行かれた後だったのだな。
だから最初あんなにも覇気がなかったのか。理由は分かったが、今さらどうしようもないことだ。
「そっか、辛かったね」
そう言うと主はドラゴンの頭を抱き締めた。
「この子も連れて行っちゃダメかな?」
何故我にわざわざ聞くのだ。主ならば命令すれば良いものを。友達だから、ということか。フッと笑った。
『人間に狙われるぞ。主の負担が増えるが良いのか?』
「うん。きっと大丈夫!」
何を根拠に……。
「守れる根拠もないのに無責任かな?」
確かに守れる保証はない。竜の谷に帰すほうが安全に決まっている。しかしドラゴンはそれを望んでいないし、主も一緒にいることを望んでいる。ならば我がすることは一つだけだ。
『主が連れて行くというのなら、我は全力で守ろう』
「ありがとう、ルナ!」
そう言うと我の首に抱き付いて来た。やたらと抱き付くのが好きな奴だな。人間にこれ程抱き付かれたことはないぞ。
一緒に連れて行く為に、ドラゴンも契約をすることになった。
ドラゴンは首元にある宝玉で魔力を流し合う。
主は宝玉にそっと触れた。魔力を流し合うとそのまま名を告げた。
「あなたの名前は、オブシディアン!」
触れた宝玉と手が煌めいて光った。
『オブシディアン? ぼくのなまえ?』
「そうだよ、黒曜石っていう宝石のことだよ。あなたの鱗がそっくりで綺麗なの」
オブシディアン、良い名だ。
『さて、主、これからどうする?』
「あのさ、その主ってやめてくれない?」
『?』
「私はユウって名前だからユウって呼んで」
なるほど、名前で呼んで欲しかったのだな。そういえばショーゴも名前で呼んでいたな。
『ユウか、分かった』
「オブもね! ユウって呼んで!」
『オブ? ぼくのこと?』
「そ! オブシディアンて名付けたけど、長いから普段はオブ!」
『わかった~、ユウ』
長いからオブ……なら最初からオブで良かったのでは……。
オブシディアンは翼を大きく広げた。風圧で砂埃が舞う。
連れて歩くには目立ち過ぎる。魔導具で小さくさせることを提案した。
するとユウは魔導具について知っていることに感心していた。
「ルナって凄い色々なことに詳しいね」
それはショーゴのおかげだろうな。
『遥か昔にユウのように契約をした者がいた。その時に色々人間の事を知ったからな』
そういえば最初何故だかユウの魔力が心地良かった。そういうことか……。
『ユウの魔力は何となく奴と似ている』
「へー、昔人間と仲良かったんだね」
仲が良かった……フッ、やはり可笑しな奴だ。
ユウは一度街へ戻り、我とオブシディアンの魔導具を準備してくると言う。
ならば、我らは人間の目に付かぬ場所へと移動しよう。
オブシディアンと共に街外れの森の中で大人しくしていることとなった。




