第十二話
現代編は本編と見比べながら読んでもらうと、より楽しんでもらえるのでは、と思います!
本編二十一話辺りからのお話で、平行した感じで、ルナの心情を書いていこうと思っています。
ドラゴンは鱗を剥ぎ取られたらしく、あちこちが赤黒く酷い状態だった。その場から動くことが出来ない。しかしその場にいたままだと人間にすぐ見付かってしまう。
何とか無理矢理動かし岩陰に隠した。無理に動いたからか、ドラゴンはますます動かなくなった。
動物たちは果実等食べられそうなものを採って来ては、ドラゴンの前に置いた。
しかしドラゴンは口を付けない。食べる気力もないのか。日に日にドラゴンは弱っていった。
谷は街道になっているようで、人間がよく通る。そのせいでその場からなおさら動けなくなり、ドラゴンが人間に見付かりそうになることも多々あった。我が話し掛けても言葉が通じず、結果的にこちらから人間を攻撃するはめになった。
いつまでもこの状態を続けていても埒が明かない。このままでは死んでしまう。どうしたものか。
考えていても答えが出ない。そしてここを通ろうとする人間を脅し引き返させる、その繰り返しだ。
同じように今日も人間を追い返した。しかし今日は再び人間が現れた。しかも一人だ。旅の者か?
どんな人間でも関係はないが……追い返すだけだ。
動物たちは岩陰に隠れた。
ここから様子を伺うだけではよく分からないが、今までの人間より魔力が強そうだ。油断すると危ないかもな。
ならば最初から全力で行く。
その人間に向かって飛び掛かった。しかし傷一つ付けることは出来なかった。
結界か!
『グルルルゥゥ!!』
我の声に気付いた人間はこちらに振り向いた。
人間の女だ。女だろうが容赦をしてる場合ではない。
『グワァァア!!』
飛び掛かり爪を伸ばしたが、あと少しのところで、飛翔された。
飛翔まで出来るとは、やはりこの女は強い。
『グルァァア!!』
飛翔から着地した瞬間を狙い炎を吐いた。
しかしその炎は女の張った障壁結界に阻まれ消失した。
女は驚いたような顔をしている。
障壁結界か……手強いな。
『人間は帰れ。ここへは来るな』
話し掛けても無駄だが思わず口に出た。今まで話しが出来た人間はショーゴ以外にはいない。
再び炎を吐いた。
飛翔し、何やら叫んでいるが関係ない。ここへ来る人間は追い返すだけだ。
人間の女は何やら動物たちに話し掛け始めた。何をしている。
先程から女は一切攻撃をしてこない。こちらの攻撃を避けるだけだ。
動物たちが我の周りに寄ってきて、行く手を阻む。何のつもりだ。
『人間の味方をするな!』
何故我を止めようとする。そなたらが我に人間から守れ、と頼んだのだろう、なのに何故邪魔をする!?
「ちょっと! 少しくらい話を聞かせてくれても良いじゃない!」
『!?』
話し掛けて来た……
『我の言葉が分かるのか』
「ん? 分かるよ? 最初からあなたから喋ってくれてたじゃない」
驚いた。我の言葉が分かるとは。今まで獣の姿のときに我の言葉を理解した者はいない……ショーゴだけだ。
『……、我の言葉が分かるのならば話をしよう。今まで我の言葉が分かる者はいなかった』
この人間を信じた訳ではない。しかし何故かショーゴを思い出す。どんな人間なのか少し知りたくなった。
ドラゴンの元まで連れて行くことにした。動物たちもそわそわしながらも反対はしない。
谷の真ん中辺り、この岩の後ろにドラゴンはいる。さあ、人間、そなたはどうする。
『そなたはどういった人間だ? ここへは何をしに来た』
「動物たちが人間を襲って通行出来ないから困ってるって。何で襲ってくるのかを調査しに来たんだよ」
『そうか。そなたが取る行動によっては容赦はしない』
いつでも攻撃出来るよう、常に気配の動きは感じている。その動きを見逃さない。しかし何故かこの女の魔力は心地良い。何故だ。
そんなことを考えながら岩の裏へと入った。
女は目を見開き驚いた顔をした。
「え、ドラゴン? 子供のドラゴン?」
『そうだ』
「何でこんなところにドラゴンが? しかも一匹で?」
さすがに何故ドラゴンがいるのかは分からないだろうな。当たり前だ、誰がこんなところにドラゴンがいると思うだろう。しかも漆黒だ。
『どこから連れて来たのかは分からないが、人間に捕らわれていたのだ。鱗を剥ぎ取ろうとしていた。まだ子供だったため逃げることが出来なかったようだ』
「酷い……」
『そなたはどうだ? 同じ人間か?』
ドラゴンを狙う人間と同じか? 同じならばやることは一つだ。
「同じじゃない! って言いたいけど、信じてもらえるかは分からない」
少し悔しそうな顔をしながら言った。正直な奴だな。自分は違う、と言い切れば良いものを。
まあそれだけで信じることは出来るはずもないが。それが分かっての発言か。
女はドラゴンに近付いた。
何をするつもりだ。臨戦態勢に入った。
女はドラゴンの前で膝を付き、ドラゴンの額に手を伸ばした。
警戒を強くする。これ以上何かすれば、後ろから噛み殺す。
女はドラゴンを撫でると、立ち上がり両手を翳した。
魔法か! 何の魔法だ!?
ドラゴンが白く光り出した。治癒魔法か!
ショーゴが治癒魔法を使うところを何度か見たことがある。しかし治癒魔法だけに魔力を使う訳にもいかないため、治すにしても部分的な怪我だけだ。
こんなに身体全体に負った深い傷を治すことが出来るのか?
光るドラゴンを見詰めていると、少しずつ剥がされた鱗が再生していく。
女を見ると、物凄い速度で魔力を消費しているようだ。大丈夫なのか。
「お願い。全部治って!」
女が小さく、しかし強く言った。
光が爆発的に広がり、そして消滅した。
女は力が抜け座り込んだ。
『治っている。人間よ、感謝する』
信じられん、あの傷を全て治しきった。
女は微笑むと意識を失った。




