第十一話
ブックマークありがとうございます!
過去編、最終です。半ばから現代編に突入します。
『ショーゴ……』
急に独りとなってどうしようか途方に暮れた。今まではずっと独りだったのにな、と苦笑した。
ドルネドを出てケシュナの森に戻ったがショーゴがいるはずもなく、ただ呆然とするだけだった。
何故突然消えたのか。落ち着いて気配を探っても、呼び掛けてみても、どこにもショーゴはいない。
我は独り流浪に戻った。魔物もいなくなり穏やかな日々が増えて行った。
時折人間化し、街に忍び込んで噂話に耳を傾けると、ショーゴは勇者として伝えられていた。
ドルネドでの戦いで最後に戦った魔物は魔王であったと。
勇者ショーゴが魔王を打ち破り、ドルネドさらには世界を救った、と伝えられていたのだった。
ショーゴが聞いたら苦笑しそうだな、と可笑しかった。
何年も何十年も何百年もの時が過ぎて行き、その間に何度か勇者の話が出てきていたが、我がショーゴ以外の人間に関わることはなかった。
次第にショーゴの顔も朧気になり、ショーゴの残した魔導具も劣化し、いつの間にか失っていた。
記憶も魔導具も、ショーゴとの繋がりがあったものが失われていく。
仕方のないことだ……、どのみち人間の寿命は短い。あのまま共に過ごしていたにしても、いつかはこうやって失って行く。
それは分かっていたことだ……それでも良いと思ったのだ。
仲間として初めて認めた人間だった。
我はショーゴのことが好きだったのだな……。
あれから何百年と過ぎ、ショーゴのことも思い出さなくなった頃、森の動物に声を掛けられた。
今まで誰かしらから声を掛けられるなんてことはなかったのに、珍しいことだ……。
動物たちはおどおどしながら近寄って来た。
『何の用だ』
声を掛けると動物たちはビクッとした。
そんなに畏れるなら近寄るな、と内心思ったが、我も大人しくなったものだな、と今落ち着いている自分に笑った。
『あ、あの……』
小さき動物が怯えながら話すのに耐えきれなくなったのか、後ろから落ち着いた様子で声を上げた牡鹿が現れた。
『助けていただきたい』
『?』
『ここから近い場所に人間がいるのですが、ドラゴンの子を捕らえて傷付けているのです』
『ドラゴン……』
『はい』
『何故そなたらが助けようとする? 放っておけば良いではないか』
現に自分たちだけでは助けることが出来ないのだ。自分の力で何とかならないものなら諦めるしかないだろう。
『ドラゴンの子は死にそうになっています。ドラゴンは仲間意識が強いと聞きます。もしそのドラゴンが死ねば、報復しにやってくるかもしれない……』
『まあ、あるかもな……』
仲間意識が強いドラゴンをまず連れ出せたことが甚だ疑問だが。
『それにあんなに弱っていて、目の前で死に逝く者を黙って見ているのは忍びない』
『お人好しだな……』
『え?』
ハッとした。声を掛けられるのも、誰かを助けようとするのも、奴と同じだな……と気付き、フッと笑った。
奴ならきっと我が止めても助けに行くのだろうな。
『何でもない……、、分かった、手伝おう』
伏せていた身体を起こし立ち上がる。
動物たちからは笑みが零れていた。
『どこだ? 連れて行け』
そこにいる全ての動物たちが先導し、人間がいるという場所まで案内された。
崖の上から眼下を眺めると、人間たちはある谷底の一ヶ所で休息をしているようだった。
巨大な荷馬車、それを引く為だろう馬が数匹、それに人間が三人いた。
良くあれだけの人数でドラゴンが狩れたものだ。
『我が人間を蹴散らそう。そなたらは手を出すな』
人間は恐らく銃を持っている。小動物たちでは太刀打ち出来ない。さらには魔法を使って来るものもいるかもしれない。
我の姿を見て逃げ出す相手なら簡単だがな……まあそう簡単には行かないだろうな。人間がドラゴンを諦めるとは思えない。
そうなると周りに動物たちがいるほうが足手まといだ。
『離れて見ておけ』
ほぼ垂直に近い崖を風のように素早く駆け降りた。あっという間に荷馬車の近くにたどり着き、荷馬車と馬を繋ぐ支えを炎で燃やした。
馬は驚き混乱し暴れ回ったかと思うと走り去って行く。
その一瞬の出来事に人間は唖然とし、そして我の姿を見ると恐怖の表情を浮かべ、しかしながらドラゴンを奪われてなるか、と銃を構えて発砲してきた。
弾を避けながら近付き体当たりをする。人間は薙ぎ倒され、それでもなお銃に手を掛ける。
その銃に向かって炎を吐き出した。
それに驚いた人間は伸ばした手を慌てて引っ込めた。それと同時に銃は破裂した。
破裂した銃の破片が飛び散り、人間の手に突き刺さった。人間たちは呻き声を上げ蹲った。
我は咆哮を上げた。
人間たちはビクッとなり、破片が突き刺さった手を庇いながら逃げて行く。
人間たちが逃げ出したのを確認すると、一斉に動物たちが躍り出て来た。
荷馬車に集まり開けようとするも、鍵が掛かっていてどうにもならないようだ。
『どけ』
荷馬車に炎を吐き出した。数ヶ所に鍵と鎖で抑えられていた荷馬車は炎によって鍵と鎖は熔け落ち、荷馬車も数ヶ所燃え落ち、中身が露になっていく。
崩れ落ちた荷馬車の中からドラゴンの子供が傷だらけになりながらも這いずり出てきた。
『こいつは……』
その姿に驚いた。傷だらけということではなく、そのドラゴンの色だ。
『漆黒のドラゴン……』
普段からあまりドラゴンは目にしない稀少種だが、その中でもさらに漆黒のドラゴンは稀少だ。それ故人間にも狙われる。
『なるほどな……』
人間たちがどうやってこのドラゴンを捕まえたのかは知らないが、これだけの稀少種だ、逃すことは出来ないだろうな。
『また人間たちが戻ってくる可能性が高いが、そなたはどうする?』
ドラゴンの子供に問い掛けた。
『ぼく……』
何かを言いかけたが、怪我が酷いためか話す気力もないのか、そのままへたり込んでしまった。
さて、どうしたものか。我がそこまで面倒を見る義理はない。去ろうかとも思ったが……動物たちの視線が痛い……。
昔ならそんなものを気にしたことはないのだがなぁ……苦笑した。
『たすけてあげて』
『銀狼様、お願いします』
口々に動物たちは訴える。
『我には人間から守るくらいしか出来ん。このドラゴン自身が回復しないと逃げられない。ここは守ってやるから、そなたらで面倒を見ろ』
動物たちの表情が一気に明るくなった。
こうして何故か用心棒のようなことをするはめになった。
ようやく現代に戻って来ました!もう少しでユウさん(本編主人公)登場です!
ちなみにこの世界(本編からずっと)では動物同士や動物と魔獣たちとは念話的な感じでお喋り出来る設定にしています。人間だけ動物や魔獣たちと話せません。
なので、人間は意思疎通の魔法が使える人だけが動物や魔獣と会話しています。




